41. 色欲なる、玉兎
「お、お? すっごーいッ! 懐かしのユーフォリア、愛しのバージェ……ワタクシ、帰ってきましたわー!」
突如椅子の上に出現したバニーガール──もとい、ウサ耳のコスプレをした俺と同い年くらいに見える女の子は、キョロキョロと周囲を見渡しながら、やがて大きくガッツポーズをした。
おいそこ、椅子の上は立つところじゃないぞ。
しかしコレ……あの、ミリュイーヌ……なのか?
俺が知っているのは、小生意気で、ちゃんとモフモフの動物的なヤツだった。
けど、この女の子も長靴……というか、ブーツはいてるし、ワタクシとかいってるし、どこか生意気そうな雰囲気がするし……
まあ、物は試しだ。
「おい、駄ウサギッ!」
「え、はいッ! あ、アレ? その台詞……どっかで……」
あごに握りこぶしをあてながら考え込むように、頭は右にいったり、左にいったり。
器用に耳をピコピコさせながら。
「あーッ!! もしかして、天気予報のオニイサン? あれ……アナタ、確か今日の昼前に会ったばっかりだったわよね? 何でこんな所にいるのかしら?」
「やっぱりオマエなのか……」
目の前の女の子は、間違いなく俺の知るミリュイーヌ。
だが、生物学的にその変化はおかしいだろう。
ウサギから人だぞ?
背丈だけでも三倍以上。
まるで、魔法にでも掛けられたかのような変わりようだった。
「レイ……この人、知ってるのか?」
「ああ。コイツの事だよ、チュートリアルのお嬢様ウサギって。なんで人間みたいになってるのかは、俺も知らないけどな」
「あー! 『天気予報でも出来るんじゃない?』のアレか!」
「レイ、どういう事だよ? チュートリアルの……って、あの少しおっちょこちょいなリスのNPCとかの事かな?」
アーサーはリスだったのか。
和希はクマだと言ってたし、一体何種類いるんだよコイツの仲間は。
随分と個性的なヤツだと思ったけど、まさかこんな形で再登場するとはな。
「アナタ、担当はリューヴァイルだったのね。懐かしいわー……アノ子も、元気でやってたかしら?」
「そ、そうだね。なんか危なっかしい子だったけど……本当に、君もチュートリアルのキャラ……なのかい?」
「そうよ。今から、詳しく説明してあげるわね──」
「いや、面倒だからいいよ。今はそれどころじゃないし」
ここから更に長い説明なんかは、勘弁して欲しいものだ。
もうすぐ日が暮れるし、俺は日課の鍛練すらもしていない。
……いや、ゲームの世界で鍛練って必要なのか?
でもやらないのも、それはそれで落ち着かないんだけど。
「──は? え、ちょ、なんで?」
「ただでさえ、俺は統治者やらクエストやらで忙しいんだ。後にしてくれ」
「イヤイヤイヤ、世界の趨勢に関わる事案よ? それに、統治者の事ならワタクシかなり詳しいから、任せ、て──え?」
ぎぎぎ、と鳴りそうな首の動きで、ミリュイーヌの視線は俺から外されて仲間達に向けられる。
「……この中の、ダレが……統治、者?」
「俺」
「う、うっそだー! 《アナライズ》」
引っ張られたゴムみたいな勢いでミリュイーヌの首は元の位置に戻り、その目がキラリと妖しく光った。
俺の身体を上から下から、まるでなめ回すような視線が向けられる。
血色のよかった可愛らしい顔は、徐々に、ゆっくりと青ざめてきて──
「……半日足らずで……ランク十九ッ!? 何よ、この称号の数……うそ……ひ、ヒィ、バケモノッ!!」
──やかましいわ。
少なくとも、リアル人外のオマエにいわれる筋合いはない。
っていうか、なんだその魔法。
解析って事は──
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名前:レイ (♂)
年齢:18歳
種族:人族
クラス:統治者‐獅子吼の大聖堂『バージェ』‐
ランク:気象予報士 Lv.19
ジョブ:弓術士 Lv. 33
スキル:『弓術Lv. 7』『刀術Lv. 3』『鷹の目Lv. 6』
『夜目Lv. 2』『超嗅覚Lv. 5』『集中Lv. 6』
『練気法Lv. 6』『致命の一撃Lv. 6』
『速射Lv. 5』『隠密Lv. 2』『暗殺術Lv. 5』
『気配察知Lv. 4』『気配遮断Lv. 3』
『強運Lv. 5』『超聴覚Lv. 3』『直感Lv. 4』
『見切りLv. 4』『状態異常耐性Lv. 1』
固有スキル:『天候操作』(気)
『気流操作』(気)
『クリティカル率アップ』(弓)
『カモフラージュ』(弓)
『射程距離アップ』(弓)
『セービング』(弓)
武技:ピアッシングショット(弓)
スニークアタック(弓)
ヘヴィショット(弓)
シャドウステッチ(弓)
称号:【彼方よりの解放者】
【猛者】
【豪傑】
【巨敵喰らい】
【天空への挑戦者】
【黒竜を打倒せし者】
【荒野の支配者】
【段丘の支配者】
【イーヴァルスレイヤー】
【天敵喰らい】
【天空への敵対者】
【バージェの統治者】
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コレが見えてるって訳か。
そんなのがあったらランク隠しても意味ないじゃないか。
……うん、それにしても項目が増え過ぎて見にくい。
でも、そんなバケモノみたいな事はないだろ別に。
それはそうとして──
「じゃあ、統治者の仕事は任せたからな、ミリュイーヌ」
「え、ワタクシ!? どういう事!?」
「さっき自分で言ってたろ、得意だって。だから頼んだよ」
「ちょ、ちょっと待ってー! 別にそんなつもりじゃ──」
プルプルと首を振るミリュイーヌにトレイン君が忍び寄ると、ポンと肩に手を載せた。
「ミリュイーヌ……さん? よかったですね、帰って来られて。レイさんのおかげでッ!」
「うッ! ……はい」
「なーんて、ウソですよ、ウソ。本当は皆、ミリュイーヌさんに期待してるんですよ? ほら、何でも知ってる有能な方なんですよ……ねッ!?」
「そ、そうよ! ワタクシに任せなさいッ!」
……それ、アレだろ。
心理学とかで言われてる、下げたところから上げると振れ幅で効果が大きくなるヤツ。
怖いわ、トレイン君。
そしてミリュイーヌ、これからはもう駄ウサギでいいや。
(* ´-`)つ ヨカッタデスネ?




