表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/49

39. 迷える羊達の、終話

いつもお読みになって頂き、ありがとうございます。

ブクマ、評価、感想お待ちしております!

「終わった……のか?」


 両手剣を地面に突き立て、軽く肩で息する和希が呟いている。

 僅かに振り乱れた髪をゆっくりと掻きあげると、大きく息を吸い込んで、静かに吐き出した。

 目立った外傷も、特にはなさそうだな。


「無事に完勝だよ」


 和希の元へと歩を進めながら、周囲を見渡す。

 トレイン君もアーサーとその仲間達も──、どうやら全員無事らしい。


「レイッ! アイツに、勝ったんだなッ!」


「レイさーんッ! 私、頑張りましたよー!」


「よくやったな、クジカ、トレイン君。アーサー達も、助かったよ」


「いやいや、さすがにこればっかりは……レイがいたからの初見クリアだね。俺でも、全力を出し切って……三割あればいい方だよ。あんなバケモノに一人で勝てそうなプレイヤーなんて……【歩く決戦兵器】と【理不尽の申し子】しかいないよ」


 俺は……その中に分類されてしまうのか。

 暗にバケモノだと言われている気がするな。

 というか、このゲームも中々強いプレイヤーがいるようだ。


「そうだ、あの二人は……どうなった?」


 最終的に、琥珀とスノウに託した二人の少女。

 あの時点では意識を失っていたハズだが……

 果たして、無事なのだろうか。

 見れば、琥珀とスノウの隣に横たわったまま、いまだ安らかに瞳を閉じていた。


「二人共、無事よ。まだ……どちらも目を覚ましてはいないけど」


「そうか……あー、そうそう。スノウ、さっきはありがとうな。助かったよ」


「ふぇ、ぜ、全然大丈夫ですよー! 気にせんといて下さい!」


 小さな身体で両手を最大限に振り、スノウは猛アピールをしている。

 動く人形のようなその姿は、中々可愛らしい。


「ぅ……ん……」


「カミラッ!」


 和希が張り上げた声に釣られて再度カミラに目を向けると、モゾモゾとすわりが悪そうに身体を動かしていた。

 どうやら目が覚めたらしい。

 和希はすぐさまそばに駆け寄ると、心配そうに見つめている。


 やがて、カミラはゆっくり薄目を開くと上体を起こし、まだ眠たそうに目をこする。

 果たして──


「………ん……ぁ、あれ、クジカお姉さん、どうしたの?」


「カミラ……カミラなんだよねッ!?」


「そうなの、カミラはカミラなの! でも、なーんか不思議な夢を見ていたの。レイお兄さんが、弓でびゅーんってカミラを狙ってたの」


 ……意識があったらしい。


「本当にゴメンな、カミラ。スマンッ! でも……助かってよかったよ」


「ぅ……ん……」


 深々と、カミラに向かって頭を下げる。

 致し方ないとは言え、嫁入り前の大事な身体に傷を付けてしまった。

 身体の傷が治ったところで、心にまで傷を負わせる訳にはいけない。


「ハッ! ……あれ? 皆さん……ご無事だったんですね!」


「ロザリーちゃんッ! 君も……大丈夫なのか?」


 カミラの隣では同じくロザリーも目を覚まし、アーサーが駆け寄ってくる。


「アーサーさん……ええ、もう私達は大丈夫です。本当にありがとうございました。詳しいお話は……ここじゃなんですから、大聖堂の方に場所を移しましょうか?」


 言いながらロザリーが指し示すのは、開け放たれた扉の奥にそびえる大聖堂。

 青白く幻想的な輝きは変わらない物の、さっきまでの不穏な空気感は和らいでいるようにも見える。

 ヤギを狩ったお陰で、バージェが解放されたって事だろうか。


「ああ。──皆も疲れただろうから、ひとまずそこで休憩にしようか」


 おっきいアーサーが先導するようにロザリーを抱きかかえ、和希はカミラをおんぶしつつ、一路大聖堂へと向かう。





「すごいな──、まるで本物みたいだ」


 がらんと広大な、穏やかで幻想的な雰囲気の聖堂内部。

 豪華な造りというよりは、厳粛な赴きの装飾で飾り立てられている。

 外国に旅行に行った事もない俺からすれば、カルチャーショックでしかないんだけど。


「そりゃそうだよ、レイ。このゲームのグラフィックのクオリティーは、これまでのVRMMOの歴史を塗り替えたと言われるほど、世界最高峰のレベルだからね」


「へー」


 アーサーが拳を握りしめて語ってくるが、生憎とほとんどゲームをやらないから俺には分からない。


「それで、ロザリーちゃん。話って何なんだい?」


「今回の一連の騒動について、説明させて下さい。私達の今後の為にも──」


「なあ、カミラ。ちょっと俺にこの中を案内してくれないかな?」


 ふっ、とロザリーの視線が向いた事に気付いた和希は、背負うカミラに声を掛ける。

 なにかカミラに聞かせちゃマズい話でもあるのだろうか。


「カミラにおまかせなのー!」


 そしらぬカミラは大きく右手を突き上げ、はしゃぎながら和希(お馬さん)に連れられていった。




「──で、そろそろいいかな?」


 アーサーは、壁際にゆっくりとロザリーを下ろすと問い掛ける。

 答えるように、ロザリーは居然として口を開き始めた。


「……この場所は、昔一つの街でした。外界との繋がりを断って、人々と知恵ある魔物達が暮らす街。聖堂内に隠された歴史書には、そう記されていました。それが……何年前までの話なのかは分かりません」


 人間と魔物が暮らす街、まるでファンタジーみたいだな。

 それが……残念ながら、今は違うと。

 あんなヤギがいたんだ、どう見たってこの街に暮らす人はいないだろう。


「私がここに来たのは……もう、三年も……たったんですね。元々、私はアンダルテの教会で暮らすただの孤児でした。悪魔にさらわれて、心に入り込まれて、心を犯されて。それでカミラは……ここに来る前の記憶が一切無いんです。それどころか、悪魔を本当の親だと思い込んでいる節もあって。私が来た時にはもう、この街に住んでいる人達はいませんでした」


「そうか……」


 アーサーが、浅くため息を漏らした。

 あまりにも非日常的なロザリーの話に、俺はいまいち感情が付いていかないんだけど。


 それにしても、カミラか……

 確かに両親が待ってるって本人も口にしていたし。

 果たして、俺達がどうこう出来る問題なのか……


「司教を名乗る悪魔に命令されて、彼らが『弾圧者』と呼んでいる皆さんをここまで連れてきたんです。魔神『アスモデウス』の降臨の生贄にするんだ、と」


「魔神……ね」


 そういえばそんな事を、あのヤギが言ってたな。


「もう、お分かりだったかも知れませんが……私とカミラ、二人の間に血の繋がりはありません。それどころか……私達には、まだ多くの姉、妹達がいます」


「あら、やっぱりねぇ。確か、ディセットとトラントロワ……って言ってたわよね? ロザリーちゃんの中にいた悪魔が。アレって、フランス語で言う所の……数字の事じゃないのかしら?」


「そうみたいですね。司教は、私達に年の順番に名前を付けました。全部で……六十六人。お願いします──」


《指名クエスト【迷える羊達(ストレイシープス)終話(エピローグ)】が、発生しました》

《受領しますか? ⇒ YES or NO》


「私達を……助けて頂けませんか?」


 そういう事か……


「れ、レイーッ!! 大変だーーッ!!」


 突如、風雲急を告げる和希の叫び声が、聖堂内に響いた──

( ;ヾ>Д)ノ" タイヘンダー!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読み頂きましてありがとうございます。
よろしければ『評価』や『ブクマ』、『感想』等を入れて頂けると、更新のモチベーションアップに繋がります!

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ