4. 始まりの街、アンダルテ
何て事はない。
あのドラゴンの標的は、別に俺じゃ無かった。
後ろを振り返れば港があり、その奥には街並みが広がっていた。
降り立った場所がたまたまなのか堤防の端っこで、俺には海と空しか見えていなかっただけだったんだ。
「へい、らっしゃい、もぎたて新鮮な果物があるよ。今日はポワーがオススメだッ! さあ、五つでたったの三百ロゼだよ!」
「パジュォはいらんかねー。早い者勝ちだよー。一匹なら八百ロゼ、三匹買ったら何と二千ロゼだ。ソテーでも、ムニエルにしたっても旨いぞー」
市街地の方向を目指して歩き出す事、数分。
向かう道すがらの港通りには、様々な露店が軒を連ねて呼び込みを掛ける光景があった。
果物、野菜、肉、魚──アクセサリーや、なんとも怪しげな薬草まで。
この街にドラゴンが攻め込む寸前だった事なんて露知らずと言った感じで、威勢よく、活気に溢れているこの通り。
まるで、祭によくある出店の屋台みたいな感じだな。
ちょっと喉も渇いてきたし、覗いてみるか。
「すいませーん」
果物屋の露店の前まで近寄って、店主のおっちゃんに声を掛ける。
陳列されているのは、なんちゃらベリーが数種類、スモモっぽい物、柑橘系、洋梨──洋梨!?
「へい、らっしゃい。坊主、どれにするのかね? どれもこれも、甘くて旨いぞー」
よく見れば、強面のおっちゃん。
明らかに酸っぱそうな果物も並んでるんだけどな。
「うーん……ポワーってのはコレ? だったら、五個頂戴」
「へい、毎度ッ! 坊主、この辺じゃあ見ない顔だけど、流行りの『解放者』かい?」
「多分……そうなんだろうな。さっき来たばっかりだから、よく分かんないんだけどね」
「それなら、商業区の中央にある噴水広場に行くんだな。あの辺にゃ、競売所やら宿屋、武器に防具目当てで、お仲間達がわんさかいるぞ」
商業区か──
和希もそこにいるのかな?
そう言えば、どうやって連絡すればいいんだろう。
まあ、その内会えるか。
「へー。おっちゃん、ありがとう」
「毎度ッ! 商業区は跳ね橋渡って向こう側だぞ。また来てくれよな!」
おっちゃんに指示された方角に歩きながら、紙袋を広げて早速一つを手に取ると、上着の裾で軽く拭いてそのまま噛り付いた。
じゅわーっ、と爽やかな甘さが口一杯に広がる。
やっぱり……、見た目からしてそうだったけど、これは紛れもなく洋梨だな。
明らかに追熟されてない色なのに、甘くて柔らかいんだけど。
今、八月だぞ?
流石はゲームの世界。
歩きながら食べ進めて、ポワーはあっという間に腹の中に収まった。
残り四つはインベントリに収納して、一路目指すは商業区。
堅牢な造りの跳ね橋を渡って、煉瓦造りの街並みを歩く。
でこぼこした石畳の、馴染みない感触が足裏から伝わりながら。
それにしても──
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名前:レイ (♂)
年齢:18歳
種族:人族
ランク:気象予報士 Lv.12
ジョブ:弓術士 Lv. 20
スキル:『弓術Lv .2』『刀術Lv. 1』『鷹の目Lv. 2』
『夜目Lv. 1』『超嗅覚Lv. 1』『集中Lv. 1』
『練気法Lv. 1』『致命の一撃Lv. 1』
『速射Lv. 1』
固有スキル:『天候操作』(気)
『気流操作』(気)
『クリティカル率アップ』(弓)
『カモフラージュ』(弓)
武技:ピアッシングショット(弓)
スニークアタック(弓)
称号:【彼方よりの解放者】
【猛者】
【豪傑】
【巨敵喰らい】
【天空への挑戦者】
【黒竜を打倒せし者】
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気付けば、ステータスが一気に騒がしくなっているんだよな。
たった一戦で、弓術士のレベルが二十って……
あのドラゴン、実は結構ヤバいヤツだったとか?
まあ、終わった事にあんまり興味は無いんだけど。
そんな事よりも、気になるのは気流操作だ。
あの時急に矢の軌道が変わったのは、恐らくコイツのせいだろう。
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『気流操作』(気象予報士)
対象:使用者、及び装備品の半径10メートル圏内
効果:0.5m/sで圏内の気流を改変
継続:10s
リキャスト:30s
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何だよ、コレ……、卑怯過ぎるだろ。
思わず二度見。
こんなん使って弓引いたら、長距離の射撃は絶対に外さないわ。
それどころか、さっきみたいなデカブツじゃあ無い限り、全部一撃で急所だろ。
代わりに近距離だと、曲げてる時間も暇も無いけど。
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『天候操作』(気象予報士)
対象:使用者、及び装備品の半径500メートル圏内
の上空
効果:対象範囲内の天候情報の改変 (24h後)
《選択:晴・曇・雨》
継続:3h
リキャスト:12h
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こっちは──、コメントに困るスペックだった。
局所的に天気が変えれるけど、一日後だし、五百メートルって。
使い道が分かんないな。
まあ、これも最悪は矢を飛ばせばいいのか。
物は試しだ──
と思ったけど、よく見たら欄がグレーになってるから、リキャストがまだなのか。
……いつ使った?
「なあなあ、さっきの解放クエストって、一体何だったんだ?」
ああだこうだと考えながら商業区への道のりを進んでいると、俺の耳にそんな言葉が届いた。
見れば、小人とエルフの男女二人の組み合わせ。
和服っぽいのと、盗賊みたいなその格好は、多少装飾もなされていて、初期装備じゃなさそうには見えるけど。
「わっかないわよねー。だって、通知来て皆が身構えてる間に終わったでしょ、アレ。解放クエスト自体、βからのまだ通算でも四回目だし。そもそも、誰なのよレイって? βからの移行組にそんな名前いなかったハズよね? きっと【天涯旅団】の連中なんか、今頃は血眼になって捜してるわよ」
「おー怖い、怖い……あそこ、トップクランの中でも武闘派で鳴らしてるからな。でも、そのレイってヤツも、五百人以上推奨のワールドクエストを一分足らずで単独攻略したんだろ? 十分以上にバケモノじゃねぇか」
「違いないわね」
何やら不穏な会話を聞いてしまった。
こそこそと二人から離れて、こっそりとメニューを開いてみる。
別にやましい事なんてしてないのに。
一体何が、どうなってるんだ?
クエスト、クエス、あっ──た──
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解放クエスト【解放者達への手向け】 《達成済》
達成者:レイ (順不同、1名)
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「────」
……えらいこっちゃ。
【壁】ョω・。) チラリ