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32. 鱗竜王、イーヴァル 2

いつもお読みになって頂き、ありがとうございます。

ブクマ、評価、感想お待ちしております!

 低い弦音が、耳に残る。

 やや斜めに角度を付けて射た緑の矢は、【気流操作】をフルに発揮して急激にせり上がりながら、もどきボスへと迫る。

 一筋の光明目掛けて。


 二、一、──

 弓鳴りが耳に届いたのだろう、ピクンと巨大な身体を震わせるも、気付いた瞬間にはすでに時遅し。

 もどきボスは、こちらに一瞥をくれる事すらも出来なかった。


『グゲギャギャギャァァーーーッ!!!』


 緑の矢は深々と、もどきボスの喉元へと突き立つ。

 皮膚の耐性も鱗竜王の称号も関係ない。

 だってその場所は、コイツの弱点だから。


「お、おい、レイッ! なんだよこのふざけたダメージはッ!? え? ウソだろッ!?」


 首を大きく振るいながら、盛大にもがき苦しむその姿を見る限りは、少なくないダメージを負わせたはずだ。


「どういう事だ、レイ! 何が起こっているんだ!」


 前脚で大きく地面を踏み鳴らし堪える姿に、俺の唇が僅かに吊り上がる。


「きゅ……九千、九百……レイさん、素敵……ッ!!」


 しかし、さすが名に恥じない立ち直りの早さで、暴れる勢いそのままに突進を試みてきた。


「おっきいトカゲさんが暴れてるのー!」


 そんな事、分かっている。


「『ヘヴィショット』」


 すでにキリキリと引き絞られた弓を──、放つ。

 紫の矢が一直線に駆け上がり、怒りに身を任せて突き進もうとするコイツにかわせる道理などない。

 狙いは一点。

 喉元にある、竜の逆鱗──


『ゲギャゲギャギャァァーーーッ!!』


 狂いなく突き立った紫の矢は、情け容赦なくその命をさらに削る。


「レイッ! イケるぞッ!」


 きっかけは、道中で出会ったもどきBが突然振り返った際に、矢を中てる場所を探したほんの僅かなタイミングで、極限に集中した視界に映った明らかな違和感。

 そして──



=======================


砂偽竜の逆鱗 【Rare】

サーブルリザードの逆鱗。顎の下に1枚だけ逆さに生えるとされ、触れた者に災いをもたらす。


=======================



 決定的なドロップアイテム。

 竜と聞いて、初めから近似種か何かだろうと推測は立てていた。

 思い返せば黒竜と戦った時も、二射目は逆鱗に中っていたのかも知れないな。

 そして、心臓に到達したと思っていたタイミングは、すでに貫通して命が尽きた瞬間だったと。

 結果コイツと相対した時点で、逆鱗の位置にも気付く事が出来た。

 勝負は開始前からほぼ決していたも同然だったんだ。


 再び襲いくる痛みに身をよじらせ、半分ほどの距離を残したままその場に立ち止まったもどきボス。

 残念ながら、それは最悪手だ。

 弓を引き絞ったまま、その時を待つ。


「レイさん──、来ますね……」


「レイッ! なんで待つッ? 早く射たないとッ!?」


 やがて大きく頭を振った後、息を吸い込むモーションに入っ──


「『ピアッシングショット』」


『ギャギャオォォーーーウゥッ!!!』


 ほんの僅かなタイミングの差で、先に射ち出された赤い矢。

 俺の操作する気流をまとい、振動を無効化した声を切り裂く。

 恐らくもどきボスは、今なにが起こっているのかも気付いてはいないだろう。

 咆哮を放ち硬直する喉元の逆鱗に到達し、そして──


《ランクレベルがアップしました》

《ジョブレベルがアップしました》

《スキルレベルがアップしました》

《称号【イーヴァルスレイヤー】を獲得しました》

《称号【天敵喰らい】を獲得しました》


「ぎゃー!」


 突然、和希が頭を抱えてうずくまった。

 なぜ──、ああ、レベルアップのアナウンスかもな。

 音量下げてないなら仕方ないだろ。

 俺も一気に上がったみたいだし。

 っていうか、戦闘してないパーティーメンバーにも、ちゃんと経験値入るシステムなんだな、このゲーム。


「レイさーーんッ! 凄い―ッ!」


 トレイン君がはしゃいで抱き着いてくるのを、必死に両手で食い止める。

 ……寝首を掻くつもりじゃないよな?

 だったら、とても恥ずかしいからやめなさい。


「アハハハ……ま、まさか……レイ、これは夢じゃないよな?」


 うん。

 ゲームだけどな。


「レイお兄さん、怪獣さんがいなくなっちゃったのー?」


「ああカミラ、怪獣(ドラゴン)さんは俺が退治したぞ」


「スッゴいのーー!」


 その場でピョンピョン跳び跳ねるカミラ。

 実に微笑ましい。


「うぅー、頭が割れるかと思ったよ。レイ……なんだよ、一度にレベル八アップって」


 頭を傾け、柔らかな栗色の髪の毛を掻き上げながら、やっと和希も立ち直ってきた。

 敵と戦ってもいないのに、僅かに疲れの滲んだ面持ちのまま。


「よかったじゃないか。だいぶ強くなったろ?」


「……ふ、く、ざ、つッ!」


 それはどこか、ぎこちない笑みを浮かべながら。

(つД<。) イタイノ

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