31. 鱗竜王、イーヴァル 1
いつもお読みになって頂き、ありがとうございます。
ブクマ、評価、感想お待ちしております!
曲がりくねったなだらかな登り坂を進み、ようやく分岐点に差し掛かった。
右手は、ゆるやかに麓へと下る道。
左手は、さらに山岳を登る道。
俺達が目指すのは、イーヴァルの巣が待ち構えているという、左の道。
「ここを左に進めば、もうすぐイーヴァルの巣だよ。レイ、もう一度聞くけど、本当に……戦う気なのか?」
どことなく重々しい雰囲気を醸し出しながら、小さくなったアーサーが語り掛けてくる。
どうやら効果時間は切れたらしい。
念を押すその姿勢は、俺の事を思ってか、それとも単に巻き添えを嫌ってか。
苦汁をなめたという過去の経験のせいなんだろう、やや及び腰になり足取りも慎重な様子だった。
「まだ相手に会ってもいないのに、先に逃げる準備なんてしないだろ? まずは、見てからだな」
「そうか……止めはしないけどさ。申し訳ないけど、今の俺達じゃあ助けにもならないから。何かがあったら……見捨てさせて貰うかも知れないよ? こっちもクエストが掛かってるんだ」
絞り出した悲痛な声は、恥じ入るようにも見える。
「勿論、それで構わない。そっちは、いざとなったら隠れられるんだろ? どうやるのかは知らないけど」
「やっぱり、気付いていたか……タネは明かせないけど、確かに俺達には手段がある。最悪は、使わせて貰うよ」
「問題ない。で──、そろそろ、か」
心なしか、周囲の空気が変化した気がする。
左の道を登り出してから、陸にも空にも、他のモンスター達を全く見掛けなくなったし。
適度な緊張感を保って、一歩一歩、踏みしめ歩く。
恐らくは──、近い。
「ああ。ここを登り切った先に、綺麗に均されたバトルフィールドがあるんだ。そのどこかで、恐らくイーヴァルは待っている」
「これは、予想よりは強敵みたいだな……」
空気は張り詰め、目指す先の上空一帯には、どんよりとした鉛色の雲が浮かんでいる。
ごくり、と誰かの固唾をのむ音が耳に届いた。
まだ始まってもいないのに、他の面々はすでに呑まれてしまっているようだ。
ここは、気分転換に一帯を晴れにでもしたいな。
どうせなら日本晴れがいいだろう。
残念ながら、リキャストがまだなんだけど。
「さあて、どんなヤツが出てくるか……」
──まだ、見えない。
一歩。
天を衝く、凶悪にねじれた二対の角が見えた。
また、一歩。
爬虫類独特の顔付きは威厳すら感じさせる佇まいを見せ、整然と並ぶ濃い灰色の鱗をまとった上半身が見えた。
そして、一歩。
一つの王という名を冠するのに恥じない立ち姿の全貌が、そこにはあった。
まさに雄大豪壮を体で表す存在。
けど──
「思っていたよりも、小さいな」
十メートルもあるだろうかという全高は、動く木と比べてしまうと大分小さい。
しかも、翼はなく四足で大地に立ち、ドラゴンもどきのボスさながら、どことなく似ているその姿のせいもあって、とても勝てない相手には見えなかった。
それでも、ドラゴンもどきのサイズをただデカくした訳ではない、しなやかなのに強靭さをうかがわせる姿態は十分恐るるに足る。
「レイ、あれが……鱗竜王『イーヴァル』だ。現時点で分かっている攻撃方法は三つ。前脚での薙ぎ払いと突進からの踏み付け、それにスタン効果のある咆哮を使ってくるよ。弱点の有無については分からない。申し訳ないけど、事前に伝えられる情報はそれだけなんだ」
戦術パターンがオーソドックス過ぎて、返答に困るな。
むしろ、あまりにも序盤でやられてしまったせいで、なにも分からないに等しいだろ、ソレ。
翼がないから空は飛ばないとして、ドラゴン特有の攻撃手段としてあり得そうなのはブレスとかか?
いずれにせよ、そんなものを使わせる気は毛頭ないけど。
「まずは、可能性を試してみるか」
勝算がない訳ではないんだ。
我彼の距離はおよそ二百メートル強。
幸いにも、もどきボスが横を向く形で俺とは対峙している。
「レイ……俺は信じてるからな!」
「そうですよ! 私のレイさんが他の誰かに負けるはずありませんから!」
「おっき──」
「カミラ、しぃーーッ!!」
ずいぶんと、嬉しい事を言ってくれるモンだな。
そう、俺がしくじれば三人も確実に巻き添えを食らう。
絶対に、そんな事許せる訳がないだろうが。
「ありがとう、二人とも。やってやるよ!」
ゆっくりと開いた両足の親指の先を、もどきボスに対して一直線上に並べて構えを取る。
大きく息を吸い込み──、吐く。
矢を番えて、弓構えからの打起し。
会に至るところまで弓を引き絞る。
狙いは……一点。
「『スニークアタック』」
もどきボスは、まだ気付く素振りすらも見せていない。
今更気付いたところで、もう遅いけどな。
迸る緑のエフェクトをまとった矢を引き放った──
(≧Λ≦) ガンバッテネ




