3. ようこそ、無限遠の新天地へ
《『レイ』のユーフォリアへの転送を完了しました》
目の前に広がるのは──、青い海。
潮風が香り、ウミネコのような鳥の鳴き声が耳に届いてくる。
水平線の彼方まで、一面の海、海、海。
ゆらゆらと揺れる波間がキラキラ輝き、降り注ぐ陽光を散りばめていた。
「お、お、お……すげぇなコレ……」
僅かに空を仰げば、青く澄み渡る快晴。
遠く浮かぶ雲は緩やかに流れ、日差しは暖かくて心地よかった。
俺はただ、ぼーっと空を眺める。
明日の天気も、晴れだな……コレは。
遠く彼方でも、点のように小さく見える鳥達は自由に大空を飛び回り、やがて一回り大きな黒い塊に飲み込まれていく。
──は?
「いやいやいや、えッ? は?」
スキル補正のお陰なのか、かなり遠くでの出来事ではあるけれど、徐々に大きくなる黒い塊の進行方向は間違いなくこっち側。
なおも動線上の鳥達を、次々と捉えている。
「あれは──ッ、ウソだろ、おいッ!」
握り拳サイズにまで大きくなった黒い塊は、次第にその姿を見せ出した。
それは……、ドラゴン。
空想上の生物と言われ、ゲームやおとぎ話にはよく登場するあの竜にしか見えない。
全身を覆う黒い鱗が妖しく光り、鋭くギラついた赤い瞳は、確実に俺の方を見据えている。
慌ててメニューを開いて、装備を確認する。
弓に、矢、それと防具類。
ミリュイーヌから貰った初期装備一式を、引っ張り出すようにセットして。
「半弓か……」
それは身長の高さとほぼ同じ、いわゆる和弓よりも長さの短い半弓だった。
ピンと弦の張った、シンプルな木製の弓。
最悪洋弓でも……、とは思ったけど、今この場では素直にありがたかった。
矢筒も予備が複数セットあったので、しばらくの間は持つだろう。
「って──試射してる余裕も無いのかよッ!」
グングンと俺目掛けて迫る黒い塊。
まだ大分距離はあるのに、相応以上の大きさを誇っていた。
『グルゥオオオォーーオゥッ!!』
《────────────》
何やらアナウンスが流れたが、彼方から迫る特大の雄叫びに掻き消されて、聞こえない。
開いた両足の親指の先をドラゴンに対して一直線上に構え、俺は呼吸を整えた後に矢を番えて、弓構えからの打起し。
会に至るところまで弓を引き絞り──
カンッ──と低い弦音を残して、矢は射られた。
まだ、矢は目で追わない。
残心は取らずに、そのまま続けて二射目を引き、矢を放った。
一射目の矢が、ドラゴンに届くタイミングが迫ってきた。
──中れ、そっちじゃない!!
『ギャオオォオーーッ!』
僅かに逸れて肩口に向かっていた一射目の矢は、見えない風の航路に沿って、当初の狙い通り、ドラゴンの右の瞳に突き刺さった。
不意を突く、急所への一撃。
反射的にドラゴンは、大きく仰け反った。
中った後の矢には目もくれず、俺は心を鎮め、更に三射目を引く。
もうすぐ、二射目が届く。
──そのまま真っ直ぐ、逸れるな!
『グルゥアアァッ!』
風の抵抗を微塵も感じさせる事無い勢いで、続く二射目はドラゴンの喉元へ突き立った。
この弓の感覚は、もう掴んだな。
後は集中して、渾身の力を込めるだけ。
ドラゴンはもがき、両手で首を掻きむしる中、俺は限界まで四射目を引き絞り──
「『ピアッシングショット』」
名前からして、貫通力が高まる武技なんだろう。
極限まで集中力が高まった俺の視界の縁に、キラキラとエフェクトの煌めきが映り込むけど、気にもせずに赤いオーラを纏った矢を放った。
会心の、低い弦音が耳に残響している。
そのまま俺は残心を取り、ゆっくりと息を整えた。
後は行く末を見守るだけだ。
『グルゥアァァ──』
がら空きになった胴体を抉る三射目が中り、苦しむようにドラゴンの上体は沈んだ。
そこに……赤いオーラを纏った四射目が迫っている。
狙いはただ一点。
開け広げられた、ドラゴンの口の中だ。
イメージとしては、口から入って気道を通り、肺を抉って心臓を貫通させる。
恐らくは、出来るハズ。
ヒントは、あまりにも不自然だった一射目の矢の軌道だ。
確認するのは後にして、今は最後の矢を的に中てる。
集中──
口に飛び込んだら、軽く浮かび上がるようにイメージする。
集中──
喉を通ったら、少しずつ右側に寄せるようにイメージする。
集中──
肺に到達したら、そのまま突き抜けるようにイメージ──ここだッ!
《解放クエスト【解放者達への手向け】は、達成されました》
《達成者は、キャラクターネーム『レイ』──です》
《ランクレベルがアップしました》
《ジョブレベルがアップしました》
《スキルレベルがアップしました》
《称号【猛者】を獲得しました》
《称号【豪傑】を獲得しました》
《称号【巨敵喰らい】を獲得しました》
《称号【天空への挑戦者】を獲得しました》
《称号【黒竜を打倒せし者】を獲得しました》
「──うおッ!」
上手くいった証拠だろうな。
俺の脳内に、一気に大量のアナウンスが、怒涛勢いで通知されてきた。
長い……
長いって……
音量下げといて、本当によかった。
「しかし、いきなり何だったんだよ、あのドラゴン」
そんな事、考えても分かる訳無いんだけどな。
到着そうそう、いきなり随分な幕開けだよ──
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解放クエスト【解放者達への手向け】
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発生条件:解放者が一定数以上、ユーフォリア
へ転送される 《レイドバトル》
発生場所:始まりの街『アンダルテ』
推奨人数:初期ユーザー500人~
達成条件:『黒竜アーギュスト』の撃破
未達条件:『アンダルテ』の損壊度:30%以上
(10%/1h 3h経過時点で『黒竜アー
ギュスト』は逃走)
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ナニコレ ( Д ) ゜ ゜