27. 蒼剣の、十字軍
本日2話目。
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「レイお兄さん、おかえりなさいなのー!」
崖下に軽く軟着陸をして、出迎えるカミラに手を振ると、和希の正面に向かい立った。
それでも和希は気付かずに、呆けたままで。
そんなに気にするような事じゃなかったと思うんだけどな。
「さて、と。クジカー、いくぞー!」
更に一歩近付き、声を掛けると──
「れ、レイッ! あれ? 俺は──」
呼び掛けに応えるようにして、和希の瞳には色が戻る。
「──ッ!」
そして思い出したかのように、和希の顔はみるみる赤く染まり、うつむいた。
「なんか、色々と頑張ってたみたいじゃないか。俺は和希のそういうところ好きだぞ?」
覗き込んだ和希の顔は──、まるで湯気が立ちそうな茹でダコみたいになっていた。
「ば、バカッ! もう、なに言ってんだよッ!」
「はいはい、レイさん、クジカさん。そのくらいにしとかないと、晒し者になってますよ?」
「……げッ!」
見上げれば、崖上から身を乗り出したアーサーを筆頭に、ニヤニヤした面々がこっちを眺めている。
それに気付いた和希の顔は、一瞬で赤から青に変化した。
リトマス紙か、っていうレベルの反応速度で。
本当に、和希とはどれだけ一緒にいても飽きないから面白い。
「そろそろ、いい加減に行くぞ? 俺は腹が減ったんだ」
「そういえば、レイさん。上にいる人なんですけど……」
「なんだ?」
「アレは……クランランキング一位、『蒼剣の十字軍』のクランリーダーで、個人ランキングでも三位の実力者です」
クランランキングね……
和希がなんか言ってたな……二位と四位、それに五位だっけか?
このゲームには一万人いるとか聞いてたけど、随分と世界は狭いもんだ。
まあ、それで一位って事はさぞかし凄いんだろう。
っていうか、よく皆そんな事まで覚えているな。
「へえー。そうか」
「へえー。そうか──、じゃあないですよ! トップクランですよ!? バリバリの攻略組ですよ!?」
「だから、それがどうかしたのか?」
結局のところ、他人は他人でしかない。
そんなもの眺めている暇があるのなら、自己鍛練に時間を費やした方がよっぽどいいと思うんだけど。
ただの冷やかしで他人を見るのは、己の技量が行き詰まってからでも十分だ。
「トレイン君、レイにはそういうの関係ないよ。コイツ、順位とかにこだわりがないからインハイも出ないし、国体の強化選手とかも全部断ってるんだから。ほんっと、出てたら賞を総なめ確実なのに!」
「そういえば、そんな事もあったな」
「ほら、こんなヤツなんだよ」
こんなヤツで悪かったな。
そういう和希だって、大会に出れば好成績を残せるくらいの腕前なのに、俺以上に出たがらなかったじゃないか。
忘れたとは言わせない。
「……素敵ですね。でも、それも私達だけの秘密ですからね!? レイさん、ますます殺したくなっちゃいました!」
しーっと、トレイン君は指を立てて内緒のポーズをとっている。
いや、なんで……それが殺したい欲求に繋がった?
「ダメだ……ここには、まともなヤツなんていなかった。──っていうかレイ、足を怪我してるじゃないか!」
「ああ、コレか」
完全に、忘れていた。
動く木からの嫌がらせに耐える為の自傷跡。
相手からは一切ダメージを受けなかった分、余計に目立っていた。
そういえば、これが初ダメージか。
「ああ、コレか──、じゃないって!」
「もう血は止まってるし、自分で刺しただけだから大丈夫だよ」
「いいから待ってろ、《ヒール》」
和希の身体から魔法発動のエフェクトが発生し、俺の身体は緑の柔らかい光に包まれて、皮膚の表面からほのかに温かい。
言わずと知れた、回復魔法。
この感覚は例えるのが難しい……
しいて言えば、ぬるま湯にゆっくりと頭まで浸かった感じが近いかな?
すぐに光は消え、後には傷一つない俺の太腿があった。
随分と便利なモンだな。
「レイさん、自殺はノーカウントですからね?」
「はぁ……もういいだろ? クジカ、ありがとな。行くぞ──」
振り返った瞬間、両手をそれぞれ一つづつ、和希とトレイン君に掴まれた。
これは……まさか……
「レイお兄さん、カミラをおんぶしてほしいのー!」
完全な晒し者なんだけども。
俺の固有スキルのデモンストレーションは、僅か数秒で終わりを迎えた。
何もないように見える空間を、ただ歩いただけの簡単なお仕事だ。
崖上に降り立ち、相変わらず怯える和希、テンションの上がったトレイン君とカミラから解放されると、再びアーサー達と向き直る。
「お帰り、レイ! 凄いじゃないか! まるで、マジシャンが透明な階段を上っているみたいだったよ!」
そのアーサーの見当は、当たらずといえども遠からず。
そりゃあ無色透明な空気の階段の上を歩いているんだから。
端からすれば、手品師にだって見えるだろう。
まあ、俺の本来の使い方とは違うんだけど。
「ああ、これが俺の固有スキルな」
「一体、どうやってるんだい?」
「どうって、気流を操作してるだけだぞ」
慣れてしまえばとても簡単。
しかも、意外な活用法だ。
「ば、バカッ、レイッ!」
「安心して下さい、クジカさん。引き換えに、今から俺の固有スキルも見せてあげるから」
「えッ!?」
「お前が自分を見失ってる間に、そういう話になったんだよ」
「そう……なの、か?」
和希が聞いてないだろうとは思ったよ。
だからこそのアーサーとの交換条件だしな。
さて……一体トップランカーの固有スキルとは、いかほどのものかな。
さして興味はなかったが、いざ見るとなれば、それはそれで気にはなる。
「そういう事なんです。それじゃあ、レイ、行くよ! 【ブレイブ・ビルド】」
スキルのキャストと共に両手を天にかざしたアーサーの身体は、熱を帯びた深紅のエフェクトをまとう。
次第に膨張──、いや、正確には背が伸び、筋量が増して、急激に成長促進しているようだ。
まるで、大人へと変身する魔法。
自身の理想形へと、一足飛びの進化──
( ̄Д ̄;) ……




