24. お兄さんは、柴刈りに
「後一歩──、着いたぞ」
全員無事、崖の上に到達した。
道中はそれなりに大変だったけど。
「いや、コレ怖いって!」
「中々スリルがあって楽しいですね! 下を見たら、一瞬上下が分からなくなって、地面に落ちていってるのかと思いましたよ!」
「レイお兄さん、おもしろいのー! もういっかーいなのー!」
和希は、途中から目を瞑っていたし、トレイン君は下を覗いて狂喜していた。
カミラはきつく掴まって揺れ動くもんだから、俺までバランスを崩しそうになるし。
お蔭でたったの十秒が、とてつもなく長く感じられた。
後一回……コレをやるのか。
「いやいや、ちょっと──、って、おいおい……」
「え? あ……」
「何です……か、あはは……」
「おーっきい木なのー!」
見上げる次の崖の上には、巨大な木が半ばから顔を覗かせていた。
枝には青葉が瑞々しく生い茂り、その樹高は、根元が見えていないのにすでに崖の高さを越えて、まさに雄大という他ない。
こんなもの……間違いなく、さっき試しで登った時には存在していなかった。
しかも無数に繁る枝をザワザワと揺らしながら、徐々にこちらへ近付いてきている。
つまりは、コイツが地響きの正体か──
「カミラ、降りろ、早く!」
これは……マズいな。
「あれって、マデラの巨老樹じゃないか? なんでこんなところに!?」
固有名称なんて今はどうでもいい。
欲しいのは、アイツの情報だ。
「風の噂で聞いた事はあったんですけど……これ、本当に動くんですね」
「トレイン君、どういう事だ?」
「うちのクランメンバーが、一度だけ見た事あるそうなんですよ。あのオブジェクトが動いてるところ」
「いや、アレはただの飾りなんかじゃないな。どう見たってモンスターだろ」
俺達の目の前でいまだに動く木は、非常に重厚な威圧感を放っている。
絶対に無機物足り得ないほどに。
相対する距離の影響もあるだろうが、この世界に来て一番強烈に感じられる殺気だった。
「どうして……あッ! もしかしてレイ、この崖を登るのがトリガーなんじゃないのか? それが原因でアクティブ化したとか。どうみても、こっちに来てるし……」
そうか……
用語は分からなくとも、直訳で意味は通じた。
となると、つまりはその狙いは初めから俺達──、って訳だ。
横着すれば、進む先では鉄槌特化型モンスターが起動し、上から襲撃を仕掛けてくる。
熟練者達ならまだしも、そんじょそこらの連中であれば、あの圧倒的な質量がいきなり上から襲い掛かってきた日には、ひとたまりもないだろう。
唯一の救いは、移動速度が並って事か。
これこそまさに、奇襲の丘だ。
「か……クジ……カ? トレイン君、木の化け物の弱点って知ってるか?」
駄目だ、言いづらい。
クレジットカードの略し方間違えたみたいな、和希の名前。
……そのうち慣れればいいけど。
「うーん……普通のサイズならだけど、斬属性と火属性。それに、身体のどこかにコアとなる魔石があるはず!」
「魔石は心臓の位置ではなく、根元付近にありますよ!」
まあ、定番というか、当然というか。
弓よりは刀の方が。
分かったのはいいが、実戦で役立つかどうかは別だな。
やはり、人型以外は勝手が違う。
とりあえずは先制の一矢を射っておこう。
開いた両足の親指の先を動く木に対して一直線上に構え、呼吸を整えた後に矢を番えて、弓構えからの打起し。
会に至るところまで弓を引き絞り──
「『スニークアタック』」
緑のオーラを纏った矢は勢いよく射られ、低い弦音が残った。
放物線を描くようにイメージして、勢いよく上昇し、急速にに落ちる。
これが根元の魔石とやらに刺されば儲け物だ。
「中った──、な」
枝々が一層ざわめきを増し、開戦の合図と相成った。
問題は──
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Rayはスニークアタックを発動。
クリティカル!
→Vardhana Foolish Elder Treantに、424ダメージ。
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想像通りというか、物足りない。
まあ、相手の全容が見えていない現状では致し方ないけど。
こればかりは、武器の相性もあるだろうし。
──やる他ないか。
「三人とも、ちょっと行ってくるわ」
「ちょッ!? おい、レイ……お前、まさか……」
「レイさん、やっちゃって下さい!」
「レイお兄さん、どこ行くのー?」
「お兄さんは、山に柴刈りに行ってくるよ」
ゆっくりと歩き出し、後ろ手に仲間に手を振ると、矢を番える。
なおも和希の止める声が耳に届いているが、終わってからたっぷりと聞こう。
空気の階段をイメージして。
さて──、と。
地響きの主にお目見えだ。
(((;0Д0))) コワイヨー




