表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/49

21. ネームレス、ウロボロス 2

「な、ぁ……」


 武技が発動を失敗したのか、トレイン君の身を包むエフェクトは霧散した。


 何て事はない。

 短剣を構えるトレイン君の右手を掴み、外側に捻り上げて武器を落とさせた。

 多分、発動準備のモーションだったのだろう。

 あまりにも緩慢な動きが発生したせいで、今のうちに狙って下さいと言ってるような物だった。

 そのまま俺とトレイン君は取っ組み合う形で対峙している。


「流石ですね……私も、自信はあったんですけど」


「筋は悪くないぞ。和希となら、いい勝負が出来るかもな」


 そうだな。

 両手剣の和希となら……だけどな。


「クジカさんと、いい勝負……ですか。コレでも、今まで狙った獲物を逃した事なかったんですけどね」


「それは、相手が素人だったからじゃないか? ここに来るまで、何回か殺気も漏れてたし」


「……え?」


 最初から、大量のモンスターを引き連れてきた時点でダダ漏れだった。

 なんなら、同じ濃度の殺気を街を出る際にも感じていたし。

 トレイン君が付いてくると言い出して、俺にくっついて来た時にも。

 羽ライオンを釣った矢を射った時もそうだ。

 ズー・ルーを倒した直後も、カニと戦っている最中だって。

 当のトレイン君は、全く気付かれていないと思っていたらしい。


「あの……一応、私、気配遮断のレベル七なんですけど……」


「そういう数値なんかに頼ってるから、素人なんだよ。俺は、目に見える物が全てじゃないと思うよ」


「れ、レイさん……」


 今のトレイン君には……難しいかな?

 和希にもまだ早いレベルだしな。

 まあ、俺だって理解出来るようになったのはここ三年くらいの話だ。

 四六時中うちの爺ちゃんに狙われ続ければ、自然と身に付くんだけどな。

 あまりに人にはオススメしない、いわゆるヘルモードってヤツだ。


 そのまま何かを考え込むようにして、トレイン君は深くうつむいてしまった。


「なあ、何で俺を狙ったんだ?」


「ワールドアナウンスの通知でレイさんの名前を知って……街中で一騒ぎ起こして、クジカさんと一緒に逃げたって噂を掴んで……クジカさんが男と街を出るって情報を聞き付けて、大急ぎで先回りしたんです」


 うわー……俺の行動がバレてるじゃないか。

 ゴシップ紙かって。

 情報網ってのは、恐ろしいな。


「零……マズいぞ、天涯が来るかも知れない──」


「ああ、それは安心して下さい。街を出たって情報はうちのクランのルートからなので、他所には漏れないと思います。なにせ……うちにもクジカさんの熱狂的なファンがいますから」


 和希が、ぶるりと身を震わせた。

 ゲームの世界にファンがいるなんて、和希も中々やるな。

 まあ、普通に見た目は美少女の部類だし。


「──それでレイさん、私のクランに……入りませんか? レイさんならどんなヤツでもキル出来ますよ!」


「おいッ! ちょっと待て、ふざけるなッ!」


 突然、トレイン君からクラン加入の勧誘を受けた。

 それに対して、和希からは異を唱えられる。


「【ツンデレ巫女】さんは、黙ってて貰えますか?」


「な──、お、おい、止めろッ!」


 ツンデレみこ、って……なんだ?

 それが何なのかを知っているのか、和希がやけに慌てて両手を突き出し、トレイン君を制止しようと試みる。


「他のも出しましょうか? 【素──」


「わー、わー、わーッ!」


 トレイン君の声を上書きせんばかりに、和希は大声を張り上げた。

 まるで子供のようなやり取り。

 しかし、和希の慌てふためく姿を見るとちょっと気になるな……

 後でこっそり、トレイン君に聞いて見ようか。


「じゃあ、静かにしていて下さい。それでレイさん、どうですか? 私は、あなたが欲しいッ!」


「うーん……俺は遠慮しとくよ」


「何故ですかッ!?」


「分からないから……かな? そもそもPKクランって、なんだ?」


「……は?」


 今の今まで高揚していたトレイン君の顔から、表情がすっと抜け落ちた。


 第一、俺は別にクランとやらに加入する必要性を感じていない。

 このゲームを始めた理由も、一度自由気ままな狩猟生活を送ってみたかっただけだからな。

 それなのに、余計なしがらみなんかはゴメンだ。


「やっぱり知らなかったか……残念だけど、コイツは完璧 なオンゲー初心者だ。零、PKってのはプレイヤーキラーの略で、そこのクランは、意図的に他のプレイヤーに害を与えるイカレ野郎の集まりだよ。さっき一度MPKの説明したじゃないか……」


「ああ、あったなそんなの。残念だけど、それならより一層興味ないな」


 そうそう、それで彼の名前はトレイン君になったんだった。

 別に忘れてた訳じゃないぞ。

 ただ、二つが結び付かなかっただけだ。


 ──ん?

 つまり和希のファンの一人は、害虫イカレ野郎って事か?

 おいおい、それは聞き捨てならないな。


「ハハハ……そうですか。……なら──ッ!」


 ほんのちょっと意識を傾けた。

 その不意を突くように、トレイン君の顔が急速に近づいて──

(OДO;) ノォォォー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読み頂きましてありがとうございます。
よろしければ『評価』や『ブクマ』、『感想』等を入れて頂けると、更新のモチベーションアップに繋がります!

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ