2. SET UP
このゲームで何がしたいか?
それは、最初から決まっていた。
実家が道場を開いている事もあって、物心が付く前から俺は弓術一筋。
『お前、どうせ弓道しか興味無いんだろ? 今度正式稼働するVRMMOさ、フルダイブ型だからゲームの中でもリアルな弓を使えるぞ。しかも、立射だけじゃなくて、広大な世界で好きなだけ射れるんだ。な、な、やろうぜ?』
和希からの誘いに負けたのは認めよう。
そりゃあ、気にもなるさ。
現代社会では味わう事の出来ない、見渡す限りの大平原や、木々が生い茂った密林での狩猟生活ってヤツが。
完全に、ロマンだろ。
「なあ、これって、スキルレベル0だと武器装備出来ないとかってオチある?」
「無いわよ。ただし、0のままだとステータス補正も武技も何も無いから、オススメはしないわ。それでも使い続けていれば、いつかはスキルが生えるでしょうけど。あ、でも魔法は無理よ? 最低でも各属性ごとに1以上は無いと」
そう言う物なのか。
まあオススメしないんなら、とりあえず1だけでも振っておこうか。
下手な調整が掛かるのも考え物だけど。
魔法とかは今のところ使う予定も無いし、別にいいんだけどさ。
ピコピコ画面をいじって、上げたり、下げたり、繰り返して試してみる。
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名前:レイ (♂)
年齢:18歳
種族:人族
ランク:気象予報士 Lv.1
ジョブ:弓術士 Lv. 1
固有技:『天候操作Lv. 1』『気流操作Lv. 1』
スキル:『弓術Lv .1』『刀術Lv. 1』『鷹の目Lv. 1』
『夜目Lv. 1』『超嗅覚Lv. 1』
武技:ピアッシングショット
称号:【彼方よりの解放者】
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とりあえず、弓術メインで戦闘が出来そうなスキルを組み込んでみた。
刀術は、近接戦闘用で。
正解なんて分からないけど、まずは自分がやりたい事をやろう。
「ミリュイーヌ、終わっ……た……よ?」
「……う、ん……むにゃむにゃ……」
俺の足元には、大きな鼻ちょうちんを膨らませて眠りこける一羽のウサギがいた。
どうやら、夢の中に旅立っているようだ。
「────」
人が真剣に悩んでいた横で、普通に爆睡してるなんて。
すやすやと、気持ちよさそうに眠る間抜けで可愛らしい姿が、とても憎たらしい。
「おい、駄ウサギッ!」
げしげしと足裏で、眠るその頭を踏みつけてやる。
うりうり、オラオラ。
「うぅー……うん?」
「終わったってば!」
「ふゎあーぁ……あーもう、おっそいわね。待ちくたびれて、寝ちゃったじゃない」
「いやいや、そんな言うほど時間経ってないし。っていうか、普通ゲームキャラは寝ないだろ」
長いって言ったって、スキルを選んでいたのは十分やそこらだ。
しかも、コイツ完全に熟睡してたし。
プレイヤーを放置して寝るチュートリアルキャラって、どんなゲームだよ。
「ワタクシ達だって寝るわよ? 当然、ユーフォリアの住民達も、ね」
「そう言う仕様なのか……」
最近のゲームは、随分と進んでいるもんだ。
それじゃあ、夜しかログイン出来ない人が遊べない──と思ったけど、そう言えば和希が、ゲーム内は時間の流れが違うとか言ってたな。
リアリティーの追求ってヤツか。
「じゃあ、登録はこれで完了ね。初期装備はプレゼントしてあげるから、後でアイテムボックスを確認して頂戴」
ミリュイーヌが小さな手を振り、お辞儀をする。
「新たな英雄の誕生に祝福を! 行ってらっしゃい、無限遠の新天地へ!」
《『レイ』のユーフォリアへの転送を開始します》
《【警告】絶対に、ログアウト処理は実行しないで下さい》
アナウンスと共に、俺の視界がキラキラと輝き出した。
いや、違う。
俺の身体全体を包むように、光が溢れているんだ。
それでもミリュイーヌは、微笑んだまま手を振り続けている。
《【再警告】絶対に、ログアウト処理は実行しないで下さい》
「────」
あまりにも急なお別れの仕方じゃないか。
声を出そうとしても、もう俺の口から言葉は出てこなかった。
徐々に光の量は増えてきて、指の先が、足の先が、うっすらと──
(\(\
⇨ GO TO NEXT AREA …… „„ “( ・) バイバイ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄




