18. 魔法、そしてドロップ
始めから、急所なんて狙えない。
動き出さない敵に狙いを絞ったところで、先に射掛ける矢など牽制にしかならない──、と思うだろう?
『ギャオゥゥゥ!』
「えッ! って、ええッ!?」
しかし、現実として今放った先制の矢は、あり得ない方向へ弧を描きながら、崖から飛び降りてかわそうとしたズー・ルーの左足付け根の柔らかい部分に深々と突き立った。
本当は急所まで引っ張ろうと思ったけど、実際のところ、この距離じゃあ当てるのが精一杯だった。
矢の初速が……速すぎるな。
そのまま体勢も中途半端な状態で、宙に身を投げ出す事になったズー・ルー。
オマケで、空気抵抗も遮断しておこう。
これこそまさに、自由落下だな。
体勢も変えられず、まともな受け身も取れないままに。
加速度的に増したスピードで、ズー・ルーは右肩から地面に激突し、骨が折れたのだろう鈍く大きな音が響いた。
『グ……グルルルゥゥ』
低く唸りながら、ズー・ルーはそれでもどうにか起き上がってきた。
左足はくじいたように引きずり、残念ながら右腕は上がっておらず、剣士としてはすでに死に体であろう怪我を負いながら。
刀を手離さなかった事は、素直に誉めるに値する。
更には、窮地に陥ったこの状況下であっても、そのドス黒く濁った瞳は俺をとらえて放さない。
大したモン、だが──
「判断を誤ったな。残念だよ」
番えておいた続く矢を、右の瞳に目掛けて放ち、ゆっくりと残心を取る。
そして、弓をインベントリに収納すると、腰のショートソードを引き抜いた。
相手が剣士なら、せめてもの礼節をもって送ってやらないとな。
『グギャァァア!』
叫ぶズー・ルーの悲鳴を余所に、ショートソードを正眼に構えて一足に飛び込むと、首筋に沿うように一息に薙ぐ。
一閃。
深々と食い込んだ刃は、骨を断つには至らないものの肉を大きく斬った。
HPとかの概念についてはよく分からないが、これが現実世界であれば確実に致命傷。
そのまま斬り抜けると、ショートソードを鞘に納めて、インベントリから取り出した弓を担いだ。
《ジョブレベルがアップしました》
《スキルレベルがアップしました》
「終わった、な」
勝利を告げるアナウンスと共に振り返り、仲間達の元へと足を進める。
「いやー。近くで見ると、より一層卑怯だなお前」
「えっ! って、ええッ!? 今、矢が曲がってましたよね? 何でッ!?」
トレイン君は目の前で起きた現象に右往左往している。
っていうか、今まで気付いて無かったのか。
うーん……なんと説明すればいいのかな?
和希にあんまり情報を漏らすなと言われてるし──
「魔法だな」
「……あ、ああ……魔法だ」
和希が苦い顔をしながら、俺の方便に相槌を打った。
あれ?
間違えた?
「……レイさん、新規で始めたばっかりの弓術士なんですよね……魔法って。魔法系のジョブのレベルアップか、魔導スクロールを持ってない限りは覚えられませんので、覚えておいて下さいね。まだ僕には内緒だって事だけは、分かりましたよ」
そうか。
それは知らなかったな。
「そういう事にしておいてくれ」
それより──
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南泉一文字 《両手刀》 【Epic】
攻38 STR+5 命中+5 急所判定+2
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なんか、刀を拾った。
強さは相変わらず分からないけど。
早速、ショートソードと装備を交換してみようか。
南泉一文字──、ずっしりと、手に吸い付く打刀。
その拵えは華やかで、鞘には紺の上から蔓と牡丹の金模様。
すらりと抜けば、刃渡りおよそ六十センチ強、刃文は華麗な花が咲き誇る──大房の重花丁子乱ってヤツだな。
とてもズー・ルーが持ってたとは思えない意匠の打刀だった。
名前からして、業物なんだろうな。
さすがはゲームの世界。
そもそも剣と魔法の世界に日本刀だしな。
しかも、重量もしっかりと再現されているし、素人じゃあ振れないだろ、コレ。
「あ、レイさんドロップ品ですか? カッコいいですね、ソレ!」
「レイお兄さん、カッコいいのー!」
「っていうか、お前……ドロップ運おかしいだろッ!? それも明らかレアドロップじゃないか!」
「うーん……エピックとか書いてあるな」
エピックって、なんだっけ?
聞き覚えがあるような、ないような。
多分授業では習っていないだろうその単語、正直意味は分からなかった。
「ほら出た!」
「いわゆる★4ってヤツですね。おめでとうございます!」
「それ、何段階中?」
「現行五段階だよ!」
レジェンダリーの下か。
って事は、一応強い部類なのかな?
「そりゃラッキーだな」
「はぁ……」
和希は諦めにも近い壮大なため息をつき、項垂れた。
俺……なんかしたっけ?
(*>Д<)=3 ハァ……




