14. ピエドラの、羽ライオン
《パーティーに『トレイル・エクス』が加入しました》
「じゃあ、いい加減に行くぞ?」
「ああ、まだまだしばらくまっすぐ行って、大きな岩が見えて来たら左手から回るんだ。そこを越えれば次のマップだ」
まだまだ……ね。
和希がマップ三つ先って言ってたから、結構遠いモンなんだな。
ゲームなんだから、その辺はショートカットさせてくれてもいいのに。
ただひたすらに、四人で荒野を進んでいく。
楽しめるほどの風景なんてあったもんじゃない。
せいぜいが小高い岩山と、枯れ落ちた木々。
木はたまにモンスターだしな。
相変わらず俺の視界に入った敵は、一矢のもとに射抜かれ続けている。
「そういえば……レイさん達って、どこに向かってるんですか?」
「「クゥアールン山岳」」
それがどこなのかは、俺も知らない。
「あんな辺鄙な場所に行くクエストがあるんですか?」
「あるんだな、これが。……そうだ、カミラ。トレイン君にもクエストって受注出来るのか?」
そうじゃなきゃトレイン君が付いてきても、一人だけ仲間外れ感が出てしまう。
「同じパーティー内なら適応拡大可能なのー。トレインお兄さんにもお願いするのー!」
融通が効くクエストでよかったな、トレイン君。
っていうか、俺から言っといてなんだけど、自由過ぎるだろこのゲーム。
「え、いいんですか? これ、お二人が受注したクエストですよね?」
「んー……零がいいって言うんなら何も言わないけど、これ一応ユニーククエストだぞ?」
「何だそれ?」
「他人が再受注不可能なタイプの、特殊クエストの一種ですよね」
「ああ。つまり、達成しようが失敗しようが、このクエストはこの世界で二度と発生しないって事だ」
「へー、そうなんだ。じゃあ、絶対に成功させなきゃな」
俺は別にコレクションがしたい訳でも、独占したい訳でもない。
和希には申し訳ないけど、ただこのゲームを満喫したいだけだ。
「お、そろそろ見えてきたぞ、あれがアンダルシア荒野の名所、ピエドラの巨岩石だ」
和希が正面の方を指差し、一同に声を掛けた。
俺もずいぶん前から気付いてはいた。
だけど、あれが岩だと言われても……普通に巨大な壁だろ。
切り立った岩肌の先は、二十階建てのマンションよりもなお高く見える。
「すごいな……アレは圧倒される」
「だろ? 噂では、あの上もまだ未開放な小エリアじゃないかって言われてるんだ」
「へー、何かいるのかな? ちょっと試しに……」
弓を構え、ゆっくりと引き起こす。
中ったら儲けもの。
どうせ何も見えないんだから、狙いは多少奥の方。
「お、おい、零……」
「レ、レイさんッ!?」
やや山なりに、矢を放った。
次第に遠くなる矢の向かう先、やがて視界から消えて──
『ギョエーー、ギョエーーーッ!』
なにか、とても低い不気味な鳴き声が周囲に木霊した。
「お、中った!」
「ウソ──」
「ちょ、えッ!?」
「レイお兄さん、すっごいのー!」
「さて、鬼が出るか蛇が出るか──」
慌てふためく二人をよそに、次なる矢を番えて待つ。
一体、なにが来る?
堪らなく気分が高揚する。
そして、切り立った岩の上から姿を現したのは──
「羽の生えた、ライオン?」
「いやいやいや、それなんてキメラ?」
「あれ、マンティコアらしいですよ……ログに出てる……」
「βじゃ未実装だよ、そんなの!」
あの時のドラゴンよりも近くで見ているせいもあって、的はデカイ。
狙いは一点、赤黒い右の瞳。
周囲を見渡して敵を探している羽ライオンに、再度先制の矢を──、放つ!
瞬間、響く弦音を耳に感じ取った羽ライオンは離陸を試み、翼をはためかせて空へと一歩脚を踏み出した──が、当然そんなものは想定内。
次の矢を番えながら、軌道を修正して──
『ギョエーーーッ!』
あり得ない曲線を描いた矢は、見事に羽ライオンの右目を貫き、
「『スニークアタック』」
見届けた直後、キラキラと煌めくエフェクトに気を削がれる事もなく、緑のオーラを纏った矢を放った。
落下する羽ライオンの側頭部に目掛けて。
会心の、低い弦音が耳に残響している。
そのまま残心を取り、ゆっくりと息を整えた。
《ランクレベルがアップしました》
《ジョブレベルがアップしました》
《スキルレベルがアップしました》
《称号【荒野の支配者】を獲得しました》
「ふぅ。終わった──」
「ライオンさん? もう倒しちゃったの?」
「バカ、零のバカッ!」
「あり得ない……そんな馬鹿な……」
和希は俺をポカポカと叩き、トレイン君はその場でへなへなと座り込んでしまった。
なんだ?
ただ敵を倒しただけだぞ?
〃o(。>Д<。)o〃 バカァー




