10. 遭遇、発覚
街からの脱出は、思いの外上手くいった。
そりゃあ、検問や順番待ちがある訳じゃあ無いんだから、当然なんだけど。
「そう言えばさ、和希のメインジョブって何なんだ?」
多少の起伏がある荒野が広がるフィールドに出て、俺と和希は横並びで、その後ろからはカミラがついて来ている。
ゆっくりと窪地を越えて、丘を登る。
「ああ、俺は【僧侶】だよ。零はどうせ【弓術士】なんだろ? さっきからカモフラージュ使ってるしな」
今のところ、周囲ではレベル上げの真っ最中、敵影はあっても、戦闘中なものばかりだ。
「その通りだな。へー、和希が【僧侶】……ね。って事は、完全に後衛なのか?」
「いや、【聖騎士】目指してるから、前衛もやるぞ?」
……聖女で聖騎士って、和希はジャンヌ・ダルクにでもなるつもりなのか?
まあ僧侶って言っても、普段の和希の男勝りな姿からは余りにもイメージが湧かなすぎるから、聖騎士の方がまだ納得だけどな。
実際、剣とか超お似合いだし。
「レイお兄さんとカズキお姉さんって、強いの?」
「零は強いぞ? 黒竜を一人で倒しちゃう位だからな」
「すっごいのー!」
カミラの何気ない質問に、和希は腰に手をあて胸を張り、まるで自分の事のように語る。
俺の事だと思うと、ちょっと恥ずかしい。
しかもカミラは、目をキラキラさせながら感心しているのだ。
「まあ、あれは、不意討ちみたいなモンだったからさ」
「そうだ、零、パーティー申請送るから入ってくれよ」
「ああ、そう言えばそうだな──」
《『麞』よりパーティー申請が届きました》
《加入しますか? ⇒ YES or NO》
──え、誰?
って、和希しかいないか。
さっきなんか名前を呼ばれてて聞いた気もするけど、なんて読むんだコレ?
「なあ、和希、お前の名前……」
「あー……そうだよな。それ、クジカって読むんだよ」
「へー」
カズキでクジカ……ああ、アナグラムか。
まあいいや、YESっと。
《『麞』のパーティーに加入しました》
「お……っと、いたいた」
さっきからずっと探していた敵の姿。
目算で、およそ三百メートルと言った所かな?
それなりに遠くだけど、台地の上にやっと見つけたその姿は、狐のような熊のような、大柄な人型のモンスター。
その頭に狙いを定め、弓を引き絞って──、放つ。
カンッ──と低い弦音を残して、矢は敵影目掛けて──
「──中った!」
《ジョブレベルがアップしました》
「なんだ? 零、何がいたんだ?」
「ん? なんか、おっきい熊みたいな人型のモンスターだな。もう、消えたけど」
「獣人タイプか。一撃って事は、急所判定で──お、おい、こいつNMだぞッ!? 与ダメがおかしな事になってるし……なあ、零、お前のレベル幾つだよ?」
何かを焦ったように、和希が勢いよくまくし立ててきた。
よく分からない言葉を交えながら。
とりあえず──
「NMってなんだ? レベルなら、【気象予報士】は十二、【弓術士】は二十……あ、今のでもう一つ上がったな」
「──はぁッ!? に、じゅうッ!? お前、何やって……そう、だったな。一人でレイドボス倒してたんだな……」
はぁ、とため息をついた和希はこめかみを押さえながら、一人納得したように語ってくる。
何か、おかしいのか?
あいにくこの手のゲームは初めてなんで、さっぱり分からないんだけどな。
「NMってのは、ネームドモンスターの略。名前持ちの、レアなヤツだよ。何か気になるランクも聞こえたけど、とりあえずメニューから、ログ見てみなよ」
ログ、ね……
何なのかもよく分からないけど、メニューを開いて……あった、これか。
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Rayの攻撃。クリティカル!急所判定!
致命の一撃が発動。
→Onyxish Headtakerに、4,740ダメージ。
Rayは、Onyxish Headtakerを倒した。
Onyxish Headtakerは、断罪の首飾りを持って
いた!
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「────」
これが、何かあったのか?
なんかアイテム持ってるけど。
メニューで、インベントリ……あれ?
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断罪の首飾り 《首》 【Rare】
防1 STR+2 DEX+1
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アーギュストの瞳 【Rare】
黒竜アーギュストの瞳。その瞳は、人間の暗黒面を見通し、快楽と恐慌を讃える。
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宵闇のマント 《背》 【Legendary】
防20 AGL+20 回避+20 敵対心-3
隠密効果アップ カモフラージュ効果アップ
夜目効果アップ
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強いのかもよく分からないが、インベントリの中に、何か一杯効果の付いたアイテムを見付けた
名前入りの瞳とかもあるし、これはあの竜が落としたんだろうけど。
それにしてもアイツ、どこにマントなんて持ってたんだ?
……まさか、コレ翼じゃあ無いよな?
「なあ、和希。アイテムの横に、レジェンダリー?とかって書いてあるヤツって、何なんだ?」
「他人への譲渡が不可、現行では最高レア度のアイテムの事だけど、なんで知ってるんだ?」
「いや、持ってるし。宵闇のマントって名前のヤツ──」
「ば──はあッ!? ち、ちょっと待て……まあ、そうか。そりゃあ一つ位は落としてもおかしくは……無いのか? それの性能はどうなんだ?」
「えーっと……防20、AGL+20、回避+20、敵対心-3、後、隠密、カモフラージュ、夜目が効果アップって書いてあるな」
和希の目が大きく見開き、そして項垂れる。
やがて、渇いた笑いを浮かべながら、
「……ダメだ、お前、ヤバい」
──片言じゃねぇか。
o(>_< *)(* >_<)o ヤバイヨ




