1. NEW GAME
「ようこそ、無限遠の新天地へ! 新たな英雄の来訪を歓迎するわ」
拓けた、真っ白な空間が俺の目の前に広がっている。
そこは一面見渡す限り何も無くて、幻想的というか、電子的というか。
──アンリミテッド・フロンティア・オンライン、通称『アンフロ』──
悪友の和希に誘われて、やって来たこの世界。
VRMMOなんて、縁遠い世界だと思っていたのに──
ゆっくりと、俺は視線を下に向ける。
もう、ゲームは始まってる……、かな?
開いた両手をくるくると回しながら見つめても、なんの違和感も無いし、握って、開いても、確かに血のめぐりを覚えるような感覚があった。
顔をペタペタと触れば、頬骨の張りも、鼻の高さもちゃんとあるし、髪の毛だってサラサラと指を通って流れている。
この目の前の真っ白な景色を除けば、とてもゲームとは思えないクオリティの世界があった。
でも……、ここには人も建物も、敵キャラすらもいないんだけど。
「ようこそ、無限遠の新天地へ! 新たな英雄の来訪を歓迎するわ」
どこからか、二回目の呼び声が聞こえた。
何だ?
キョロキョロと周りを見回してみても、何も見付かりはしないのに。
脳内音声かな?
首を傾げて、考え──
「どこ見てんのよ! コッチよ、コッチ」
不意に俺の足が二回、ボスッ、ボスッと蹴られた。
……全然、痛く無いんだけど。
蹴られたのはふくらはぎ。
何事かと思って、後ろを振り返る──
「うおッ!」
足元に、なんかいた。
長靴を履いた……、ウサギ?
程よくリアルで、でも若干デフォルメされた可愛らしい姿。
かなり予想外過ぎる登場に、思わず驚きの声をあげてしまった。
「ようこそ、無限遠の新天地へ! 新たな英雄の来訪を歓迎するわ」
「しつこいな……」
もう三回聞いたよ……
AIの知能が足りないのか、仕様なのか。
可愛らしく微笑んでいるから、なんか凄い憎たらしいな。
「ワタクシの名前は、ミリュイーヌ。アナタには、これから創世の神フュリウスが産み出した世界、ユーフォリアに旅立って貰うわ」
つらつらと、ウサギが喋り出した。
喋るウサギって、違和感しか無いんだけどな。
つまりはこれが、いわゆるチュートリアルってヤツかな?
さしずめ、ここはキャラクター作成用の特殊空間って事なんだろう。
「まず最初に、アナタの新しい名前と年齢、性別を教えて頂戴」
「えーっと……名前はレイで。年は18歳、性別男」
「ありがとう。次に、一番得意な事と、一番苦手な事、一番好きな事と、一番嫌いな事は?」
「弓術、英語、ぼーっと雲を眺める事、忙しい事」
何だこの質問?
「好きな異性のタイプ、理想の人物像、嫌いな著名人は?」
「ちょっ……まだあるの?」
ゲームに関係あるのかも分からない質問が、ひっきりなしにミリュイーヌから飛んでくる。
しかも、なんでウサギにこんな事を教えなきゃいけないんだ?
「ええ。後、五十項目位かしら? ちゃんと答えないと、まともなユニーククラスに就けないわよ?」
「うげぇ──」
マジかよ……
軽い罰ゲームじゃないのか、コレ──
《キャラクター『レイ』が作成されました》
《『レイ』の【ユニーククラス】が、『気象予報士』に決定しました》
疲れた俺の頭の中に、ピンポーンと言う新着音が鳴り響き、同時に無機質なアナウンスが聞こえてきた。
終わった……
まだゲームを起動してから、たったの数分しか経っていないのに。
怒濤の質問攻めに遭ったせいで、物語が始まる前から既に、疲労の色が隠せなかった。
恥ずかしいやら、なんとやら。
「ご苦労様、決まったみたいね。続けて、容姿と種族、メインジョブの決定、スキルポイントの割り振りに入るわ」
「おう、お疲れ……それで、この『気象予報士』って、何が出来るの?」
「天気予報でも出来るんじゃない? ワタクシも知らないから。詳しくは、後でゲーム説明でも読みなさい」
適当なミリュイーヌの答えは、ハズレ枠にしか聞こえないんだけどな……
それにしても、このお嬢様口調で喋るウサギは、一体なんなんだろう。
ふざけてる訳じゃあ無さそうだし。
チュートリアルキャラのはずなのに、クラスの詳細も知らないだなんて。
「なんの役に立つんだよ、ソレ」
「さあ? ワタクシが知ってる一番のハズレは『靴磨き士』だから、まだマシじゃない?」
「本当に……このゲーム、人気あるのか?」
当然の疑問だろ。
靴磨き士って、生産系の技能ですら無い、本当の職業じゃないか。
……いや、気象予報士も余り変わんない気がするけど。
「ワタクシに聞く事じゃないでしょ。少なくとも、今日の招聘でだけでも一万人は軽く超えてるらしいわよ?」
「マジか……まあいいや。とりあえず、見た目は作るのめんどくさいからリアルベースで。あ、髪の色だけ……茶髪にしといて。種族は『人間』な。メインジョブは『弓術士』かな? スキルポイントってのは何すんの?」
《『レイ』の【種族】が、『人間』に決定しました》
《『レイ』の【メインジョブ】が、『弓術士』に決定しました》
続けざまの新着音が、疲れた頭に響いてくる。
これは、早いとこ音量を下げないとうるさいな。
えーっと……システム設定は、メニュー開けばいいのかな?
「ステータスオープンって頭で念じれば──そう、そこの中ね。スキルポイント、表記上のSPは初期5ポイントを自由に振って。レベルが上がれば、ツリーに隠れている上位スキルも出現する事があるわよ」
丁度よくメニューを開いたタイミングで声を掛けられたので、通知音量をとりあえず最小にしてからスキル欄を眺める。
空中に浮いた半透明のディスプレイは、違和感しか無いんだけど。
どれどれ?
剣に関するスキルだけでも、短剣、片手剣、両手剣、刺突剣、小太刀、太刀……、無理無理。
武器だけじゃ無くて、魔法やら特殊技能やらが盛り沢山。
これは、即決出来る量じゃないだろ。
「うーん……ちょっと考えさせて?」
「いいわよ。決まったら、声を掛けて頂戴」
また頭を使うのか。
なんだか、長い戦いになりそうだな──
/)/) ♡
*・×・) ハヤクシテネ