青い葉と結ぶ花
付き合い始めて、手を繋いで、キスをして、デートもした。
そしたら、その先は……?
「アンタ、まだアイツとそういうことしてないの?!」
昼休み。教室で机を向かい合わせて座る真美が、驚いた顔で結花に言った。
結花は「声大きいよ……!」と少し赤面して、自分の唇に人差し指を当てると「しーっ」と真美を困ったように見詰める。
「ごめんごめん──。でもさ、もう一年経つわけでしょ? 二人が付き合いだしたのって、確か文化祭終わってからだし……」
「もう高二の秋よ? 秋!」と真美は力強く言ってから唸った。
「うーん……やっぱり、遅いわ、うん──。アンタたち、今までどういう付き合い続けてきたのよ……。結花が草食なのは重々承知してたけど、アイツも草食だったっけ?」
と真美は考えるように口元に手を持っていく。
結花は「ははは……」と少し笑って答えた。
「草食かはわからないけど……。でも、手繋いだり、たまにギュッてしあったりするし、それに、き……キス、も、するよ……?」
少し照れたように結花が言うので、真美は「この子は……っ!」と額を押さえる。
「アンタね……小学生とか中学生じゃないんだから……。もう高二よ? 思春期よ? 青春真っ只中なわけ、わかる?」
「う、うん……」
「だから、今時キス止まりって、ないわよ。絶対先に行ってるから、アンタたちが手繋いでキスしてほわわんと過ごしてる間、周りのカップルたちはイチャイチャラブラブ──『今日、親いないんだよな……来る?』『じゃあ……行こうかな……』みたいなやり取りがあるのよ!!」
と真美は何故か熱く語った。
結花は「何かあったの……? 真美ちゃん……」と少し心配してから訊く。
「じゃあ、真美ちゃんは、その……そういうこと、した……?」
「……した。した後から、カレシが格好良く見えて困る……っ」
と真美は赤くなった顔を両手で覆った。
「真美ちゃん……。可愛い」
と結花は照れたようにする真美を見て微笑む。
「可愛くないから……。はいはい、ワタシの話は終わり──。で、アイツが本当に草食過ぎるのか、もしくは……」
「もしくは……?」
「結花に飽きたか、ね」
「えっ……」
真美の口から出た言葉に、結花は驚く。
「かもしれないじゃない──。そうだ、一回結花から誘ってみれば? そしたら、ほんとの気持ちがわかるかも」
「うーん……」
結花は「そうかなぁ……」と呟いて、帰りに言ってみようかな、と少し思った。
*
ちょうど時を同じくして、隣のクラスの結花の彼氏──青葉も机を向かい合わせて座る圭に、同じ事を言われていた。
「……青葉さ、彼女といつエッチすんの?」
「ブフッ──! 何だよ急に?!」
飲みかけていたお茶を噴き出しそうになりながら、青葉は胸を叩く。
「だってさ、お前の彼女ほんわかしてるけど、顔まあまあ良いし、スタイルだって良いじゃん? お前あれを好きに出来るんだぜ? 最高じゃん──」
と圭は何を思い浮かべたのか、ムフフと笑う。
青葉は「やめろ」と圭の頭上を手で払った。
「えー、だってマジでスタイル良くね? 真美はスタイル良いけど、胸がなぁ……」
「それ本人に聞かれたら殺されるぞ、お前……」
と青葉が苦い顔で言うと、圭は軽く手を振って続ける。
「まあまあ、それは置いといて──。マジで、青葉の彼女はさ、出るとこ出てるし、ウエストも細すぎないし、柔らかそうじゃん?」
「…………」
そう言われ、青葉は抱き締めた時の感覚を思い出し、まぁ……、と頷く。
確かに、スラッとしてる真美と比べ、結花は少し肉が付いてる。付いているといっても、一般的な付き具合だが──。
「だからさ、早くエッチしてどんな感じだったか感想聞かせてくれよ……」
「はあっ?!」
思わず青葉が赤面すると、圭はからかうように口を尖らせる。
「赤くなっちゃって、まあまあ──。てか、青葉はエッチしたくないのか?」
「したくないわけ……ないだろ……」
と青葉は机に両肘を付き手を組んで、その手に頭を垂れる。
青葉も一般的な高二男子なので、それなりの性欲はある。
だが、青葉も一年手を出さないとは思っていなかった……。
三ヶ月やそのくらいで一線を越えると思っていたのだが、実際結花と過ごしてみると、結花は話をしたりデートをしたり手を繋いだりするだけで、とても嬉しそうで楽しそうな顔をするので、青葉はそんなに急いで一線を越える必要もないかと過ごしていたし、それで気付けば一年経っていた──。
「……幸せって、こういうことか……」
「何一人で解決してんだ」
しみじみと呟いた青葉に、圭はツッコんで続ける。
「俺たちは男なんだぞ、想像してみろよ青葉──あの柔らかそうな胸に優しく触れた後、そのままゆっくり揉むんだ……。彼女の顔が恥ずかしさで赤くなって、目が潤んでいく……そしたらすかさず唇を塞い──」
「あああああっ、もういい! やめろ! 想像出来るだろうが!!」
と青葉は耐えきれなくなって頭をあげると「やめろやめろ!」と両手を振る。
第一、そんなことを圭に言われるまでもなく、青葉だってそういう想像をしたことはある──と言っても、つい今まで忘れていたが……。
「……一線なぁ……」
「越えちゃえ越えちゃえ」
「黙れ──」
ニヤニヤと言ってくる圭に一喝してから、結花の気持ちもあるしな……と、青葉は「うーん……」と唸るのだった。
*
その日の帰り。
結花と青葉はいつものように、でも少しだけ違う気持ちで並んで歩いていた──。
「……青葉くんは、私と居て楽しい?」
「は?」
ふいに結花に訊かれ、青葉はきょとんとする。
「あ、いや、その……私は楽しいんだけど、青葉くんはどうかなって……。そんな大した理由はないんだけど、うん……!」
と明らかに様子のおかしい結花を見て、青葉は脳内でもの凄いスピードで考える。
(何だ何だ? 今までこんな事訊いてきたことなんかないぞ?! 何かあったのか? もしかして俺に不満がある……? だから楽しいか訊いてきた……!? それとも本当に一線を越える越えないの問題が──っ?!)
青葉が一人で考えている間、そんなことを考えているとは知らない結花は、数秒の沈黙に、真美が言っていたことは本当なのかもしれない……と思った。
手を繋いだり、抱き締め合ったり、デートをしてキスをする──この一年間、それ以上のことはしてこなかったし、結花から言うことも、青葉から言われることもなかった。
もしかしたら、本当に飽きられてしまったのかもしれない……と、結花はきゅっと胸が少し苦しくなる──なので、思い切って言ってみた。
「あ、青葉くん……っ!」
「ぉ、おう!?」
「わ、私、青葉くんとなら、その……、あのっ、エッ──」
「言うな言うな! 先まで言わなくていい!!」
赤面して言おうとした結花にストップをかけて、青葉も少し赤くなる。
「てか、な、何で急にそんなこと……?」
「えっ、と、真美ちゃんが、青葉くんに飽きられてるんじゃないかって……。だから、その、それが問題で飽きられるくらいなら、その……青葉くんに……」
「捧げようと思って……」と恥ずかしそうに俯く結花に、青葉はギュッと胸が詰まった。
「お、れは、その……結花に飽きたわけじゃないし、結花と手繋いだりとかデートしたりとか、それだけで楽しくて、気付いたらこう……、一年経ってた、みたいな……」
そう歯切れ悪く青葉が言うと、結花は恐る恐る顔を上げて、ほっとしたようにはにかんだ。
「ほんと……? それなら、よかった……──」
安心したように笑う結花に、青葉は気になったことを訊いてみる。
「あの、さ……、さっきの、本当に良いのか……? 俺に捧げるって……」
青葉が頬を掻きながら結花を見ると、さっき言ったことを思い出したのか、ぽぽぽ、と頬を染め、少し視線を泳がせてから「……うん……」と小さく頷いた。
青葉はドキリと胸の高鳴りを感じながら、恐る恐る提案してみる。
「その……嫌なら嫌で、全然断ってくれていいんだけど……。ウチ、来る……? 知ってると思うけど、両親共働きだから夜まで帰ってこないし……」
そう頬を赤くしながら、少し視線を逸らして言う青葉を見て「本当に言われるんだ……!」と結花は思いつつ、頬を染めたまま、小さくコクリと頷いた。
「うん……、行く……」
照れたように笑って、結花は青葉を見る。
青葉も照れながら、じゃあ……と結花に手を差し出した。
「行くか……」
「うん──」
と結花は少し恥じらいながら、青葉の手を取って笑う。
「……なんか、ドキドキするね……」
「っ、あぁ、俺も……」
そして二人は小さく笑い合って、お互いにドキドキしながら青葉の家に向かうのだった──。
*
青葉の部屋に着いて、二人はベッドに腰掛けていた──。
「……良いの……?」
「……うん、良いよ……?」
結花に確認してから、青葉は結花に優しく口付けた。
そして優しくキスをしながら、そっと抱き込むように押し倒す。
「……っ、あ、ぉば、くん……」
「……ん?」
結花に覆い被さる形で、青葉は一旦止まった。
結花が頬を染めながら、何か言おうとしているのがわかる。
「あ、やっぱ怖い……?」
「ちょっと、怖いけど……、緊張の方が勝ってる、かな……」
と結花は苦笑いする。
それから「お願いなんだけど……」とさらに顔を赤くして、結花は言った。
「や……優しく、お願いします……っ、は、初めて、だから……」
それから恥ずかしそうに視線を逸らした結花に、青葉は一瞬目を見張ってから、同じように顔を赤くして頷いた。
「了解……」
それからもう一度結花に口付けて、今度は優しく口内に侵入する。
「……ン──っ」
と結花が少し苦しそうな声を発して、青葉はゆっくり顔を離した。
結花は浅く息を整えながら、とろんとした目で青葉を見詰める。
青葉は小さく息を呑んでから、先に進んだ──。
ブレザーを脱がして、リボンを外す。
ブラウスのボタンに手を掛けて、一つずつ外していく。
その間、結花は恥ずかしそうに顔を腕で隠したまま、固まっていた。
「……大丈夫か?」
「ぇ……?」
青葉が心配して声を掛けると、結花が腕をどけた。
ポロリと涙が流れて、青葉は慌てる。
「ど、どうした?!」
「っ、ごめ、っ何でもない……」
と結花は涙を手で拭う。
「緊張してるだけだから、……っ、大丈夫……」
そうは言っても、よく見れば涙を拭う手が小さく震えていた。
青葉は「ごめん」と言って、ギュッと結花を抱き締める。
「……ごめん、泣いてんの気付かなかった……」
「え……?」
「そりゃ緊張するよな……。男はさ、言っちゃえば突っ込むだけだし、女子は入れられる方だもんな、そりゃ怖いよ、得体の知れないのが入ってくるんだもんな、俺だったら絶対悲鳴あげるわ」
「得体の知れないのって……自分のじゃないの?」
と結花が「ふふ……」と耳元で小さく笑ったのが聞こえた。
「違う違う、俺が女だったらの話」
「ふふ、じゃあその時は誰と付き合ってるんだろうね」
「そりゃお前だよ。ただし、男の結花な」
「何それ──」
と結花の緊張がほぐれたのを確認してから、青葉はそっと離れて結花を見詰める。
「……でも、今は俺が男だから」
「っ、うん……」
「優しくする、絶対」
「うん……」
青葉が真剣な目で見詰めてくるので、結花は信じて頷いた。
青葉は微笑むと、そっと結花に口付けて残りのブラウスのボタンを外す。
青葉もブレザーを脱いでネクタイを緩めた。
「…………」
「ぁ、の、……恥ずかしい、よ……?」
青葉が見過ぎていたのか、恥ずかしそうに結花は胸を庇いながら言う。
「ぁ、ごめ……ん──」
いつも抱き締めたりするときに感じていた弾力と柔らかさを改めて目の当たりにして、青葉はそっと顔を両手で覆った。
普段何も考えずに抱き締めていたが、改めて目の当たりにすると凄い……。
「……青葉くん?」
「ん、ちょっと……」
落ち着け俺……と内心呟いて、そっと顔から手を離す。
それから結花に口付けをしに行き、そっと胸に触れた。
ピクリと結花が反応したのを感じて、青葉は今度ゆっくりと手に力を込める。
……見た目と同じで、柔らかく、弾力のある感触だった──。
「っ、あ、青葉く……ッ」
「ん、結花……」
結花を見ると、上気した顔で微笑んでいた。
青葉はもう一度口付けて、深く唇を重ねる。
それからそっと手を、結花の下半身に伸ばした。
スカートの中の下着は既に湿っていて、余計に青葉の心を逸らせる。
下着の中に手を忍ばせて、ソコが濡れているのを確認してから、青葉はゆっくり指を滑らせた。
「ぁ、ッ──!」
「痛い……?」
「だ、いじょ、ぶ……」
目を潤ませる結花に、青葉は口付けて、ソコを傷付けないように、ゆっくりほぐしていく。
「っ、は、ぁ……」
「もうちょっと……、そしたら、入れさせて──?」
余裕のない笑みを浮かべて、青葉は結花に言った。
青葉の余裕のない顔を初めて見て、結花は少しきゅんとする。
「っ、う、ん……」
結花は我慢している青葉を見て、繋がれば、二人で気持ち良くなれるのかな……とぼんやり思っていた──。
それから十分にほぐしてから、青葉は自分のベルトを外して、ベッドの引き出しからゴムを取り出した。
「あ……、ちょっと待ってて……」
「……うん……」
頷いた結花に背を向けて、青葉はズボンを下ろして、下着から自分のモノを出す。
流石に直で見られるのは恥ずかしいし、結花も見たくないだろう。
既に元気になっている自分のモノにゴムを装着し、青葉は結花に向き直った。
「じゃ……、入れるよ──」
結花の脚の間に入り込み、ソコに自分のをゆっくり入れていく。
結花が苦しそうに息をするのが聞こえて、青葉は一旦止まった。
「……っ、息、深呼吸して……」
「ぅ、ん──はぁ……っ」
結花の呼吸に合わせて、青葉はゆっくり入れていった──。
「……っ、結花、入っ、た」
「んっ、うん……わかる、よ……」
と結花は自分のお腹辺りに手を当てる。
「ふふ……入ってる……」
しばらく青葉がそのままでいると、辛さが多少減ったのか、結花はほわわんと笑った。
青葉もふっと笑って頷く。
「あぁ──動いていいか?」
「うん……」
結花の返事を聞いてから、青葉はゆっくり動き出す。
「い、たく……、ない……っ?」
「っ、うん、大丈夫ッ……きもち、い」
結花がふわっと笑うので、青葉もつられて笑顔になった。
「あ、おばっ、くん、は……?」
「ん、俺も……っ、気持ちいい──」
時折洩れる結花の甘い声に、青葉は可愛いと思いながら、もっと早くしてればよかったかもな……と少しだけ思った──。
*
甘い時間を過ごした後。
結花を先にお風呂に入れて、交代で青葉もお風呂に入った。
飲み物を持って青葉が部屋に戻ると、結花はちょこんとベッドに座って、ぼんやりしていた。
「……結花? 大丈夫か? どっか痛い?」
飲み物を渡しながら青葉が隣に座ると、結花は飲み物を受け取りながら、はにかんだ。
「ううん……大丈夫。真美ちゃんが言ってたこと、ホントだなーって思って」
「何か言われたのか?」
「こういうことした後から、真美ちゃんは彼氏が格好良く見えるんだって」
「は……っ?!」
と青葉が赤くなると、結花は「ふふ」と笑う。
「青葉くん、優しくしてくれたでしょ? だから、ちゃんと気持ちよくなれたし、青葉くんが余裕無い顔してるの、普段見ないからきゅんとしちゃった。それに──」
と結花は青葉を見詰めると、幸せそうな顔で告げた。
「やっぱり、青葉くんが好きだな、って……」
「…………」
青葉は一瞬目を逸らしてから、唇に優しくキスをして結花を見詰める。
「俺も──、結花が好き」
ふいにキスをされた結花は、ぽかんとしてからぷっと笑い、青葉は「なっ、笑うなよ」と突っ込んで微笑むのだった──
その後の二人。
結花「ふふ……(好きだなぁ)(微笑む)」
青葉「?…何だよ(可愛いな…)(微笑む)」
真美「何あの幸せオーラ…!」
圭「それなー(笑)」