転生
「こんにちは。大野拓海さん」
目覚めると天使がいた。
よく可愛い子を天使とか言って表現するが、今回のは違う。
頭の上に天使の輪があるし、羽が背中から生えている。
「私は案内役のメルです。この度は誠に御愁傷様でした」
「俺、死んだんですか?」
「はい、残念ながら。でもでも、立派な最期でしたよ」
「立派?……ということはあの子は無事なんですね?」
「はい!いやー、映像を見せてもらった時は感動しました!まだこんな人がいるんだって」
「でしょう?俺もよく勇気出したなーって思いますよ!死んだことは残念だけど、小さな命を救えたならよかったかな……!」
「さすがですね!やっぱり捨てられたぬいぐるみでも文字通り命を賭けて救おうとする人は、他の人とは違いますねー」
「よしてくれよー!俺はただ捨てられたぬいぐるみを…………捨てられたぬいぐるみ?」
「あれ?ご存知ないですか?道路の中央に置かれたぬいぐるみを、必死に弾き飛ばしたじゃないですか!そのあとあなた自身が車に、弾き飛ばされちゃいましたけど!」
「あっ、今のうまい」
「そうですかー?ありがとうございます!」
「……ってちがーう!」
「え?」
「俺はぬいぐるみを……それも捨てられたものを命を賭けて守ったのか……」
「素敵じゃないですか!ぬいぐるみを必死に守るなんて」
よくよく考えたら、こいつおちょくってないか?
「それにしても、ぬいぐるみと人を間違えるってどういう状況だったんです?」
明らかに笑いを堪えながら、メルが聞いてくる。
うん。こいつ絶対おちょくってる。
「コンタクトをしてなかったんだ。俺、視力がめちゃくちゃ悪かったから」
「コンタクトをしてない日にぬいぐるみが道に置かれてるって運悪すぎですね!」
ほっとけ。
俺は昔から運が悪かった。
席替えの時だって好きな人と四席は離れていたし。
タイムセールの品物が目の前でなくなることがざらにあったし。
「で・も。転生をすれば、生前の運なんて関係なしに二度目の生を謳歌できますよ!」
「転生?それってあの?」
「はい!巷で有名な異世界転生ってやつです」
「する」
「早っ!?まあでも、話が進むことは悪いことではありませんし、早速手続きをしますね!」
「ん?なんか特別な能力とかないの?」
異世界転生と言ったら、特殊能力だろう。
いわゆるチーターのように無双する。
誰もが憧れるし、興味もあるだろう。
「ありませんよー。だってあっちに不公平じゃないですか。あくまで同じ条件で転生してもらいます!」
俺の憧れはバッサリ切り捨てられた。
「あ、そういえば。転生キャンペーン中なんです!運がいいですね!もちろん皮肉じゃありませんよ」
皮肉じゃねーか。
「キャンペーン?転生ってそんなのもあるの?」
一体なんだろうか。
お皿をプレゼント?
「その名も、『天界からのバンジー!異世界に降臨せよ!』キャンペーンです!」
色々と規模が違った。
「普段は陸地に直接転送させるんですけど、それでは味気ないなーと思いまして。こちらから落下していただき、ご自分で着地する場所を決めてください」
「それ、明確にはバンジーじゃないよね?ていうか、着地なんてできるわけないでしょ」
「それに関しては、安心してください!対物理用の一回きりのバリアをつけますので」
席を立たされ、指定された位置に立つ。
「準備はいいですかー?」
「準備も何も展開が早――
「では、レッツバンジー!」
「話を聞いてくれー!」
そんなこんなで第二の人生の幕が上がった。
*
――はずだった。
「えーっと……三分ぶりですね」
「なんでだよー!」
「……あのあと何が起きたんですか?」
身を乗り出して答える。
「物理法則を超えた妨害があった!バリアが仕事をしなかったんだ!」
「というと?」
「お前が言うバンジーは正直うまくいってた。そしてある程度落下してきたときに谷に差し掛かったんだ。そろそろ着地しようと谷に近づいた。その瞬間に!風が俺の体を押し戻したんだ!」
「それは単に持ち前の運の悪さを発揮したのでは?」
「いいや。俺は見たんだ。風の発生源にいた杖を持った女の子の姿をな!おかげで谷の下の川に落ちて、岩に頭をぶつけて、ここに元どおりだよ」
「いや、それを運が悪いって言うんですよ?」
「……確かに。……ってちょっと待て!お前、転生すれば生前の運なんて関係ないって……」
「……えーっと、その……ちょっとミスをしたというか……手続きを忘れちゃってました」
てへっと舌を出しながら、まるで反省していないかのように告げてくる。
こいつ地獄に落ちねぇかな。天使だけど。
「で、でも、もう大丈夫です。手続きは済んでます!キャンペーンも終了しました!」
「もう転生いいんだけど……」
天国でまったりコースとかないの?
「そんなこと言わないで!?ほ、ほら聖剣あげますし!」
「聖剣ってそんな軽いノリでもらっちゃ駄目だと思うんだけど!?」
「いいんですよ!そんなの。さあ早くゲートをくぐってください!」
いつのまにか目の前に、ゲートと呼ばれる門が設置されていた。
「なんか急いでないか?」
「キャンペーンやったのバレると、怒られるんですよ!」
バレちゃ駄目なキャンペーン……。
「では、あなたの二度目……じゃなかった。三度目の人生が幸福に満ち溢れますように」
背中をぐいぐい押され、ゲートをくぐる。
今度こそ転生生活始まる……よね?