#7 上洛と大将軍
「エミール殿、実は一つ、頼みがあるのじゃ。」
マチナガ公が宇宙より帰還して2週間が経っていた。マチナガ公が居城、ナガヤ城に呼ばれらエミール殿と妾に、マチナガ公がこう切り出した。
「何でしょうか?」
「いや、簡単なことだ。わしの言う通りに駆逐艦を動かしていただきたい。」
「はあ?」
「ああ、今すぐではない。とある場所でそれをして欲しいのじゃ。さすれば、お主らとこの国との同盟、交易も捗るがゆえ、悪い話ではないぞ。」
「はあ、左様ですか。しかし、それは一体どういうことでしょうか?」
「うむ、実はな、わしはこれから上洛しようと思っておる。」
「ジョウラク?何ですか、それは?」
「都に赴き、天子様に会ってわしを大将軍に任命してもらうのじゃよ。この国の政の一切を任せてもらうのじゃ。この先はこの国をまとめるだけではなく、この星の他の国とも結びつきを強めねばならん。そのために、まずわしは大将軍となって、この国における権力を掌握せねばならぬ。そのために、お主らの船を貸してもらいたい。」
「はあ。ですが、我々の駆逐艦など使ってどうされるので?」
「都の空で、ただわしのいう通りに動いてくれるだけでええ。空中に浮かぶあれだけの大きさのものが、わしの言葉通りに動くのを見れば、天子様もわしに国を任せる気になるじゃろうて。」
自信満々に応えるマチナガ公に、妾は尋ねる。
「マチナガ様、左様なことをされずとも、すでにこの国の大半を支配されておる身。労せずとも、大将軍になれるのではありませぬか?」
「いや、アツ殿、そうでもないのだ。都の皇族、公家というものは、我ら武人を礼儀知らずの田舎者と小馬鹿にしておる。やれ大将軍の血筋ではないだの、礼を失した地侍だのと罵り、なかなか位を譲ろうとはせぬものよ。なればこそ、時代が変わったことをあの井の中の蛙どもに思い知らさねばならぬ。そのためのお願いじゃ。」
「マチナガ殿、そのお話、よく分かりました。それでは直ちに交渉官殿にかけあってみます。」
「うむ、頼んだぞ!」
エミール殿と妾はナガヤ城をあとにする。駆逐艦へ戻る前に、以前呉服屋へ注文していた妾の着物を引き取るため、城下の街に立ち寄る。
「そういえばアツ、お父さんに会わなくてもよかったの?」
「父上は東国に出向き、領主や豪族を説得されておるとのこと。残念ながら、今日はおらぬそうだ。」
「そうなの。せっかく立ち寄ったのに、残念だね。」
父上もすっかりマチナガ公の元で、天下平定に向けて働いている。その父上を支えるため、妾も何かせねば。
「空の若旦那と姫さま!おひとついかがです!?」
街の者が声をかけてくる。ナガヤ城下の街に来ると、いつもお茶屋を営む主人が妾らに茶菓子を勧めてくる。
「じゃあ、いつものをもらおうかな?」
「へい!毎度!おい、ナツ!お客様だぞ!」
「はいはい、ただいま!」
出て来たのはここの茶屋の娘、ナツと申す者。愛嬌があり、駆逐艦乗員には人気があるようだ。
「いつもありがとうごぜえます。おかげさまで、お空の方々にはごひいきしていただけるようになりました。」
この街の者は皆、地球278から来た人々を「お空の方々」と呼ぶ。空から舞い降りた人々であるから、そう呼ぶそうだ。
「いえいえ、ナツさんが綺麗だからですよ。艦の者は皆、ナツさんにべた惚れですよ。」
「まあ、エミール様、お上手ですね。」
茶屋の娘を褒めちぎるエミール殿。確かに、エミール殿の言葉は正しいのであろうが、なぜだか妾は不愉快である。思わずエミール殿の太ももをつねる。
「いててて!な、なにするのさ!アツ!」
「エミール!妾には、かような言葉をかけては下さらぬではないですか。」
「あれ?もしかしてアツ、妬いてるの?」
「いや、そのようなことは……」
「いいよいいよ、そういうところも可愛いよ、アツ姫殿。」
これは本心で話しておるのか、それとも妾をからかっているのか、一向にわからぬ。だが、人前で「可愛い」などと申して抱きついてくるエミール殿に、思わず妾は恥ずかしくなる。
「べ、別に妬いてはおらぬ……大体エミールは妾のことを……」
反論しようと思ったのだが、エミール殿は急に冷静になってこう返す。
「それじゃあアツ、せっかくのお茶とお菓子、冷めないうちにいただこう。」
「は、はあ……いただきまする……」
この男、妾をはぐらかすのが実に上手い。感情的になる前に、上手く切り返してくる。妾も思わずそんなエミール殿の策略についつい乗ってしまうな。
その後、呉服屋に立ち寄りて新しい着物をいただいて帰る。その途上、この街でたくさんの駆逐艦乗員とすれ違った。すでにナガヤ城のそばに、20隻分の臨時の宇宙港ができている。いずれ百隻以上が収容でき、民間船も行き来できるの本格的な宇宙港ができる予定だ。
そして翌日、その宇宙港から10隻の駆逐艦が「出陣」する。
いよいよ、マチナガ公上洛が行われるのだ。帝より、地球278との交易や、地球807となったこの星の上の他の国との折衝を行うための許可を頂くため、そして、それをマチナガ公が円滑に行うことができる権限を持つ「大将軍」の位を頂くためだ。
すでに我が国においては並ぶ者のいないほどの大大名であるマチナガ公であるが、帝の権威はこの国ではまだ絶対的な力を持つ。まず足元のこの国をまとめ上げるために、帝の持つこの権威は必要だ。
都の手前にある峠に駆逐艦10隻を待機させ、マチナガ公は哨戒機で都のそばに降り立つ。そこから帝の在わす宮殿を目指す。
都の通りを、牛車に乗って進む。公家や有力武将のみが使える権力の象徴である牛車だが、哨戒機や駆逐艦に慣れた我らにとってはいささか遅すぎる乗り物だ。
「ああ!まだ着かぬか!遅いのお~!」
マチナガ公も苛立っている。妾もその気持ちはよく分かるものの、まさか帝の在わす宮殿の前に航空機や駆逐艦で乗り付けるわけにはいかない。そんなことをすれば、不用意に警戒されてしまう。まずは都の慣い通り、牛車で向かう。
三刻ほどかけて、ようやく宮殿にたどり着く。用向きを伝えて、迎えのものが参るまでにさらに半刻。やっと奥の御所へと通され、天子様と相見えることとなる。
といっても、天子様は簾の奥にて控えておられ、壇上には帝の言葉を伝える付き人がいる。壇上の下の白州の只中に、公家のようないでたちのマチナガ公が座り、その後ろにはエミール殿と妾が控える。
ただ、妾とマチナガ公は座しているのの、エミール殿は直立している。それを見た壇上に座る付き人が、マチナガ公にくってかかる。
「わしは左大臣、ヒトマロである。ナガヤ守殿よ、何ゆえ後ろの家来の者は平伏せずつったっておじゃるのか!?」
ナガヤ守とは、宮中におけるマチナガ公の役職である。この左大臣殿の恫喝に、マチナガ公はしゃあしゃあと応える。
「かの者は、星の国よ参られた者ゆえ、我らとはしきたりが異なります。何卒、ご容赦頂きたい。」
「されど、お上の御前であるぞ!ここは都、どこの国のものであれ、ここに作法に従うのが礼儀ではござらぬか!?」
左大臣殿はひどくお怒りのご様子で、こちらの礼に従わぬエミール殿を追い出そうとしたが、簾の奥より帝がその左大臣に申し上げられ、エミール殿はそのまま居られることになった。
「……まったく、礼儀知らずの田舎侍が。お上の寛大なる御心に、感謝致せ。」
こうして、マチナガ公はようやく上洛の目的である「大将軍」下賜を帝に願い出る。無論、一筋縄ではいかない。
「大将軍は、古来よりミナモト姓の家柄の者が賜る慣わし。はて、ナガヤ守殿はミナモトの一族であったか?」
「元より、我らマチナガ家はミナモトの血筋にございます。ゆえに、武家の棟梁で、この国の政を取り仕切る大将軍の位を頂く資格は充分にございます。」
「とはいえ、そなたのいうことが本当かどうか、見極めねばなるまい。単に山猿の戯言かもしれぬゆえ、しばし吟味することとなろう。」
「それでは遅すぎるのでございます。なにせ星の国との交易を始めねばならぬゆえ、本日ここに大将軍の位を賜りたく存じます。」
「た、たわけたことを申すな!かような重職を、この場で決めよと申すか!戯れも大概に致せ!」
「いいえ、ふざけてはおりませぬぞ。事は一刻を争いますゆえ、申し上げている次第。」
「単なる異国との交易ではないか、何ゆえその程度のことに大将軍などという位が必要なのじゃ!?」
「事は交易のみではありませぬ。この国だけでなく、海を越えた異国も含め、皆一丸となって手を組まねばならないほどの事が、まさに今起きているのでございます。かような状況で、この国ひとつまとめられなければ、我らは世の流れより取り残されてしまいます。そのための大将軍宣下のお願いにございます。」
「何を言っておるのか、まるで分からぬぞ!異国と交易するのに、異国と手を結ぶとはこれいかに!?」
「星の国とは異国ではありますが、海の向こうの国ではございませぬ。空高く、星の世界にある国にございます。そこにあるのは2つの勢力。一方が我らとの同盟を所望しておる次第です。もはや海の向こうの国など、都の街にある呉服屋と変わらぬ存在。この地上をまとめ上げ、広大な星の世界からの外敵に備えねばならぬと申しておるのですぞ。」
もはや左大臣殿は、マチナガ公が何を言っているのか理解できないのであろう。それゆえ、こう言い放った。
「のう、ナガヤ守よ。大将軍欲しさに戯れ言を申すにしても、もう少しましな話を作れなんだものか?なかなか面白そうな物語ではあるのじゃが、宮中の女子らでももう少し心に染み入る話を述べるものぞ。」
「いえいえ、かような田舎侍に面白き物語など作れる道理がございませぬ。今述べたことは、全て事実にございます。」
「たわけた事を!そんな空高くにある星の世界などから、如何様にしてこの都に来ると申すのか!」
「では、これよりご覧に入れましょうぞ。その星の国の乗り物とやらを。」
そう言い放ったマチナガ公は後ろに振り向き、エミール殿に言った。
「ではエミール殿。始めるとしようかの。」
「はっ!」
「ではエミール殿、駆逐艦を10隻、この宮殿の真上に動かしてもらいたい。」
「はっ!ただいま!」
そしてエミール殿はスマホを取り出す。
「エミールより駆逐艦0710号艦へ!全艦、微速前進!宮殿上空まで、前進されたし!」
静かなこの御所の白州に、エミール殿の声が響く。左大臣殿はキョロキョロと、落ち着きなく周りを見渡している。
「……な、なんじゃ。何も起こらぬでは……」
左大臣殿がそう言いかけた時、突然空からゴゴゴゴッという低い音が鳴り響いた。
その直後に宮殿の真上に現れたのは、この宮殿よりも大きな灰色の石造りの四角い砦。あれはまさしくエミール殿が呼んだ駆逐艦だ。全部で10隻。横一線に整然と並び、この御所の真上で止まった。
「な、なんじゃ、なんなのじゃ、あれは!?」
左大臣殿は、突如現れたこの異様な物体を見上げて叫んでいる。宮中のあちこちからも、悲鳴のような声が聞こえてくる。
天子様も簾越しではあるが、立ち上がって空を見上げていらっしゃるご様子。この見たこともない巨大な灰色の空飛ぶ砦について、左大臣殿はマチナガ公に尋ねる。
「ナガヤ守!一体なんじゃ、あれは!?」
「さきほども申したではありませぬか。星の世界から来た者の乗る、乗り物にございます。」
「な、なぜあのように大きなものが、空に浮いていられるのでおじゃる!」
「さあ、わしにもよく分かりませぬ。が、すでにあの空飛ぶ船は我らナガヤに出入りしてございます。」
「な、なんじゃと!?あのようなものがそなたの国にいると申すか!何を勝手に……」
「勝手ではござらぬ。こうして都に出向き、左大臣様をはじめ、天子様にご報告申し上げておるところではございませぬか。」
「何を申すか!あのようなものを繰り出して、我ら朝廷を空から脅しておるだけではないのか!」
「いえいえ、彼らは天子様の忠実な配下にございます。何かお命じになれば、その通りに彼らを動かすこともできましょう。」
「な、なんじゃと!?あれに命じるじゃと!?そんなことができるのか!?」
「そうですな、早速ご覧に入れましょう。エミール殿、艦隊を鶴翼陣形に!」
「はっ!承知いたしました!エミールより0710号艦!鶴翼陣形へ移行!」
エミール殿の言葉に反応して、上空の駆逐艦が動き出す。中央部が後退し、左右が前に動き、「鶴翼の陣」が出来上がる。
「う、動いた……」
「まだまだ、続いて、魚鱗陣形!」
「はっ!0710号艦、魚鱗陣形へ移行!」
マチナガ公の指図をエミール殿が伝え、上空の10隻の駆逐艦がその通りに動く。あまりに巨大なその船を自在に動かすマチナガ公に、左大臣殿は尋ねる。
「な、なんなのじゃ、これは。何ゆえナガヤ守の言葉通りに動くのじゃ?」
「彼らは我々と同盟を結びたいと願っております。ゆえに、わしの言う通りに動いてくれておるのでございますよ。もし天子様の身に危機が及ぶ様な事あらば、彼らはすぐに駆けつけてお守りすることもできましょう。」
「じゃが、高々空に浮かぶだけでは何もできぬではないか。」
「いいえ、あの10隻は我らが5千の軍勢の進撃を止めたほどの力を持っております。その身で体験なさいますか?あの船の力を。」
「た、たわけたことを!そ、そのようなことをして都を騒がせ、何をするつもりであるか!?」
焦る左大臣殿に、マチナガ公は続ける。
「ところで、実はかような船が、この空の向こうには1万隻もいるのでございます。」
「い、1万隻じゃと!?それはこの帝の治める国を攻めてきたのではないのか!?」
「いえ、彼らの目的は、あくまで我々との交易と、同盟でございます。」
「何ゆえにそのようなことを、あれほどのものならば攻め入れば済むことでは……」
「先ほども申しましたが、星の世界というところは2つの勢力に分かれてございます。その一端が、我らに助力を求めておるのです。我らも直ちにあのような船を1万隻揃えて、星の世界での戦に備えねばなりませぬ。それにはまず乱れたこの国をまとめ上げ、さらに海の向こうの国とも手を結び、一致団結してことに当たらねばならぬのです!」
事の重大さが、ようやく左大臣殿にも伝わったようだ。いや、左大臣殿だけではない。帝は簾を開けて、壇上に立たれ姿を現される。
「ナガヤ守よ!直答を許す!その星の世界の者らとは、もはや手を切れぬのであるか!?」
「ははっ!すでに我らのこの星のことは、星の世界に知れております。手切れをしたところで、もう一つの勢力の者がやってくるだけにございます。」
「つまり、引き返せぬと申すのじゃな?」
「恐れながら……」
「ならば、進むしかあるまいな。ナガヤ守よ、あのような空に砦を浮かべるほどの者らを相手に、うまく立ち回ることはできようか?」
「ご覧の通り、あの船を意のままに操ること、叶いましてございます。」
「うむ、確かにな。が、朕が気にかけるのは、民のことじゃ。」
「民、でございますか?」
「すでに戦乱の世が100年は続いておる。多くの民が戦乱に疲弊し、その日食べるものにも困るものも多いと聞いておる。左様な世に、さらなる動乱を巻き起こすようなものを招き入れては、民をさらなる困窮の中に貶めることにはならぬか?」
「ご心配には及びませぬ。同盟を結び星の世界へ足を踏み入れることは、この地上での争いごとが減り、民の暮らしは豊かになりまする。」
「うむ、左様か。なれどその言葉、まことであろうな?」
「そうでございますな。この船と同様、一度ご覧いただくのがよろしかろうと思います。」
そういうとマチナガ公は後ろを振り向き、手をあげる。
それを合図に、たくさんの荷物を持った者達が入ってきた。白州の上に次々と並べられる荷物。左大臣殿も帝も、突然持ち込まれたこれらの荷物に驚いている。
その場で荷物は開けられて、中から様々なものが出てきた。大きなテレビモニター、ガラス製の器、見た目が色とりどりなお菓子に、まるで金のように光るお酒など。
「こちらは天子様や左大臣様への献上品にございます。ぜひお手にとってご覧下さいませ。」
マチナガ公はこの宮中では誰も見たことのないこの品々を左大臣殿に渡す。帝もそれらを手に取り、お菓子などは口になされていた。
「これは美味であるな。何と申すものじゃ?」
「それはクッキーと申すお菓子にございます。甘さと歯ごたえが何とも言えぬ菓子ゆえ、お持ちいたしました。」
「この大きなびいどろの器は、何に使うのじゃ?」
「それは横にございます、お酒を飲む際に使うものにございます。」
と、マチナガ公は地球278から運ばれた品々を次々に紹介する。
「ところで、そこにある大きな四角いものは何でおじゃるか?」
ひとつだけ、大きすぎて壇上に上げられない品があった。テレビモニターだ。
「あれはテレビモニターと申すもの。星の世界より、天子様への書状の代わりに預かったものにございます。」
「書状?あれには文字が書かれておるのか?」
「いえ、そうではありません。一度ご覧いただければ、お分かりいただけます。では、アツ殿、そのモニターをつけてはくれぬか。」
「はい、すぐに。」
妾はマチナガ公の合図に応え、テレビモニターを帝の方に向けて、その下にあるスイッチを押した。
画面が付き、虚空の只中に地球が映っている。その地球がどんどんと大きくなり、地上の風景が見えてくる。
そんな映像を見て、左大臣殿が叫ぶ。
「な、なんでおじゃるか、これは!?」
「そうですな、これは動く絵草紙と思っていただければよろしいでしょう。中に人やものが閉じ込められておるわけではありませぬ。」
その動く絵草紙は、この地上を遠く宇宙から見た姿や、他の星のこと、連合と連盟との2大勢力のこと、そして、同盟や交易のことを短く簡潔に述べる。
それを聞いていた帝は、マチナガ公に聞いた。
「なるほどの、そなたの申すこと、この動く絵草紙とやらで分かった気がする。」
「ははっ!さすがは聡明な天子様でいらっしゃいます。ついでにもう一つ、そのお耳に入れておきたきことがございます。」
「なんじゃ?」
「実は、本日献上したこれらの品は、星の世界では民も手に入れられるものばかりにございます。」
「なんじゃんと!?そのテレビモニターと申すものや、この酒や菓子も民は手に入れておるというのか!?」
「左様にございます。天子様にかような庶民のものを献上いたすはご無礼と思いつつも、星の世界とやらを知っていただくためにあえてそのようにいたしました。重ねて、ご容赦くださいませ。」
「なんと、これらのものを民が……」
「星の世界では、2つの勢力の争いごとがある一方で、地上では争いごとをやめて団結して、かように贅沢なものを楽しんでおるのでございます。彼らとの交易と同盟は、我が国の民にとっては計り知れない利益をもたらすものでございます。」
それを聞き、しばらく考え込んだ帝は、マチナガ公に向かってこう言い放った。
「ナガヤ守マチナガよ!そなたをこれより、大将軍に任ず!」
「ははっ!」
突然の帝のこの言葉に、左大臣殿は慌てて止めに入る。
「な、なりませぬ!主上様、いささか性急すぎではおじゃりませぬか!?」
「急ぎすぎて困ることはなかろうて。そなたも見たであろう、そして今、ここに浮かぶこの空飛ぶ砦。このマチナガに全てを託すほかあるまい。」
「し、しかし……」
「マチナガよ!正式な宣下は追って沙汰するが、今日これより大将軍を名乗り、直ちに我が国を平定せよ!そして、海の向こうとも交渉を始めるが良かろう!」
「ははっ!ありがたき幸せ!このマチナガ、命に代えましてもその役目、果たしてご覧に入れます!」
「うむ。ところでマチナガよ、ひとつ朕の願いを聞いてはもらえぬか?」
「ははっ、なんなりと。」
「空に浮かぶこの船を都より退去させてはもらえぬか。宮中はもちろん、都の民はおそらく驚いておることであろう。戦乱で疲弊した民の心を、これ以上騒がせたくはないのじゃよ。」
「ははっ!直ちに!」
マチナガ公はエミール殿に、都の外まで駆逐艦を後退させるよう伝えてもらう。駆逐艦10隻は直ちに都を離れていった。
こうして、マチナガ公は「大将軍」となった。名実ともに、武将の棟梁である。
「はっはっは!やっと願い叶って大将軍となったわ。じゃが、これからが忙しいのう。」
「はあ、そうなんですか。今日もなんだか疲れちゃいましたけど。」
「何をいうか、エミール殿。これからさらに忙しいぞ!我が軍門に下らぬ大名の城に乗り込んで、次々に従わせるのじゃ。そのためには、その大名のいる城に駆逐艦ごと乗り込んでいき、さらに大将軍の称号をちらつかせる。これで一気にカタがつくじゃろうて。」
「ええっ!?また駆逐艦を使うんですか!?この先まだまだ疲れちゃいそうですね……」
「何を申すか、こうなったら5日で全国の大名を従えるぞ!そして今度は海の向こうじゃ!忙しいぞ!」
意気揚々のマチナガ公と、うんざりとした顔の我が主人。しかしマチナガ公が大将軍となり、いよいよこの帝の在わす国から戦乱が消えようとしている。あの城で死を覚悟した日からわずか1、2か月ほどで、時代は大きく動こうとしていた。