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9-11

「ウンマ ウンマ」


「良かった良かった」


 ジャックはヨウムにまずいパンをせっせと与える。


「あんたが移転してきた魔導具、兄さんが戦利品の一つとして旧王都ローズウォールから運んで来たものなんだ」


 アリシアが唐突に魔導具の事を話し出す。

 

「アースラメント家は旧王朝に対してクーデターを起こしたんだったよな?」


「ああ、元々兄はイングラム家に仕える騎士だったんだけど、ちょっと政治的方針や、国防、魔獣の管理に関して衝突する事が多くてね。領地を与える名目でこんなど田舎に左遷させられた。何とか領地の財政を健全化しているって時に重税が課されたり……、色々あっての事だったのさ」


「え? ちょっと待ってくれ。ハロルドさんは、かなり若く見えるけど元々騎士で領地の管理からクーデターまでやり遂げたのか?」


「兄はああ見えて、30代後半だよ」


「えええ!?」


 つい最近この手の驚愕を味わった事を思い出す。

 

「それって、大魔術の影響かなにかで?」


 頭の中ではアルマがあざとく笑っている様子が浮かんでいる。 


「良く知ってるねぇ。まぁ、成長が止まってしまった事でも、周囲に不気味がられていたね」


「魔術は結構リスキーなんだな。あーそういえば俺を召喚するときに、犠牲になった人がいたな」


 古代王の血族という事をハロルドは言っていただろうか?

 あの時の不気味さを思い出して、パンの味がさらにまずく感じられ、口直しにリンゴを一口齧る。


「……アーロン前王の甥だね。イングラム家の者はハロルドの手で大半は殺されちまった……」


 アリシアの声は次第に低く、小さくなる。



 おや? とジャックがアリシアの方を見てみると、彼女は膝を抱え、途方に暮れた様な表情をしていた。

 

「ハロルドの身内として、罪悪感があるのか?」


「あたしが小さい頃遊んでくれた人達だったからね。恩を仇で返すようなもんさ。でもまだ全てが遅いわけじゃない」


「うん?」


「あんたに会わせたい人がいるって言っただろ? 助けたいんだ」


「俺に会わせたい人は前王朝の王族って事か?」


「ああ。あたしの友人なんだ。兄さんに気を遣って悩んでたけど、あんたに会って決心出来た。助けに行く」


「大丈夫なのか? 君はアースラメントの人間なのに」


「いいんだ。最近の兄さんの暴挙は目に余る。まさか魔術師狩りなんて馬鹿な事するなんて……」


「は? 魔術師狩りって、迫害してるって事か? 君もハロルドさんも魔術師だろ? 何で同士を迫害するんだよ?」


「アースラメント家や今回のクーデターでこちら側についた魔術師は勿論色んな恩恵を与えられてるよ。吊るしあげられ、拘束されてるのはそうじゃなかった魔術師連中さ」


「話し合いで和睦すればいいだけじゃないのか? ただでさえ魔術師は希少だろうに」


「自分の味方にならなかったってだけでそこまでするわけ無いだろ……。他に理由があるのさ」


 アリシアはそれ以上詳しく教える気がないのか、黙り込んでしまった。

 

 ジャックはなんとなく、元の世界でアースラメント家が魔術師の家系なのを隠していた事を思い出した。今語られた事が、後世まで関連する事なのだろうか?


「あたしの友人も魔術師なんだ。だからすぐに殺されずに拘束されてる。助けに行くのを手伝ってくれないか」


「いいよ。何か境遇的に親近感わくし」

 自分も理不尽に捕まえられた者として、同情する。出来るだけ助けてやりたいとジャックは思った。



 深夜、ジャックとアリシアはアストロブレームの外れに位置する砦の近くに身をひそめる。

 ヨウムに偵察に行ってもらっていて、人が少なくなった頃合いを教えて貰ってから乗り込む予定だ。


「随分頑強な砦だな」


「ここを境に魔術の結界が張られているんだ」


「魔獣の侵入を防ぐ為?」


「ああ。アストロブレームもついこの間まで魔獣がうじゃうじゃいて、あたしたちが何年もかけて都市内の魔獣は掃討した。住人を守る為に外からの侵入は何としても防ぎたいんだ。あたしたちが作り上げてきた物を絶対に壊させやしない」


 決意に満ちた声は、これから現王である実の兄の方針に背こうとする者にしては責任感を感じさせた。


 アリシアの言う事を裏付けるように、遠くから身も凍る様な鳴き声が微かに聞こえた。

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