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9-5

 シエルとルパート、そして何故か付いて来たブレアが屋敷の中をアイリーンに案内される。


「あの……、どうしてブレアさんも付いて来るんですか? ジャックさんがいないなら、私達と来ても意味が無いと思うのですが」


「俺の勘が、これから貴女がお話しする内容を聞き洩らすべきではないと伝えるんです」


(勘……って)


 正直、ブレアには加わってほしくない。

 でも拒絶出来ないのは、ブレアがもしかするとジャックの友人かもしれないからだ。

 連絡も無く足を運ぶくらいだから、仲の良さを感じられる。


 でもこれからシエルは魔導具についての話をしなければならない。

 魔術についての知識が無いであろうアイリーンに頭がおかしい子だと思われるのは覚悟してきたつもりだ。だが、ブレアも同席するなら、4つの冷めた瞳に晒されるのだろうか?


 ジャックには何気なく魔術に関する話題を出せたが、それ以外の人に話すハードルはまだまだ高く感じられ、シエルはギュッと唇を引き結んだ。


「今日は天気もいいし、中庭でお話しましょう」


 アイリーンは彼女の息子に関する重大な話の場を、中庭と決めたようだ。


 シエルが中庭の様子を確認してみると、何故か庭に面するガラス窓のうち一カ所に木片が打ち付けられており、景観を壊している。

 シエルの視線に気づいたのか、アイリーンは笑い声をあげた。


「あの窓、相方とジャックが破損させたのに、どっちが弁償するかという話で揉めて、未だに修理出来てないのよ。親子揃って本当にみみっちいわよね」


「相方とはバーデッド子爵の事か?」


「ええ、そうよ」


 一瞬コメディアンとしての相方の話かと思ったが、口に出さなくてよかった。


 やや武骨なデザインのテーブルセットにシエルとアイリーン、ブレアの3人で座ると、すぐさまメイドを従えた執事が現れ、テキパキとお茶の準備を始めた。


「――さっきの……赤毛のメイドはどちらに?」


 従者らしく、シエルの後ろに控えたルパートが小声で執事に問いかけるのが聞こえる。

 窓等から急に襲撃される事を彼なりに警戒しているのかもしれない。


「ブリジットですか? あの娘はお遣いに出しましたよ」


「そうですか」


 ブリジットという女性がこの屋敷の中に居ない事を知り、シエルは内心ホッとした。

 あのメイドが切っ掛けになり、また自分に異変が起きるのではないかと少し怖かったからだ。人間に対して危害を加えようという思考になったのは、生まれて初めてだった。

 


「――シエルさん、聞かせてもらえるかしら? 息子の事」


 アイリーンに促され、シエルの心臓は大きく跳ねた。


「あの……これから話す事を、どうか落ち着いて聞いてください」


 震える様な声が出てしまった。


(――落ち着かなければいけないのは私なのに……)


 ギュッと一度目を閉じると、不意に背に温かなものが触れた。驚き、目を開くと、アイリーンが優しい眼差しでシエルを見つめていた。


(優しさには、誠意で返したい)


 シエルは改めて覚悟を決め、口を開いた。


「昨日、こちらに立ち寄った後、私はジャックさんと一緒に博物館に行きました。――閉館後の博物館に二人で忍び込んだんです」


「……それは、ジャックとデートしていたという事?」 「シエルさんとジャック氏はそういう関係なんですか?」


 妙にワクワクとした顔のアイリーンと、不機嫌そうなブレアに身を乗り出され、シエルは慌てて手を振った。


「デ、デートとかではないです! 私が嫌がるジャックさんを無理やり!」


「まぁ!」 「嘘だろ……? こんな純粋そうな子が……」


(え……、何か誤解されてない?)


 軍属のジャックが進んで博物館に不法侵入したという話に聞こえないように配慮したつもりなのに、二者それぞれの反応は意図したものとズレている。


「シエル様、おそらく一気に説明された方がよろしいかと」


 ルパートが呆れたように口を挟んできたのは、シエルに任せっきりにしたら日が暮れてしまうと思い始めたからかもしれない。


「そ、そうだね。ええと、ここからが本題なんです。ジャックさんはもしかしたら古代の魔導技術でどこかに……、国外とか……違う星とかに飛んでしまったかもしれないです。……そしてもしかしたら……死んで……」


 口に出してみて、改めて荒唐無稽さに頭を抱えたくなった。


(信じてもらえるわけない……、死んだという予想だけが事実であるように伝わってしまってないよね……?)


 潤んでゆく視界の中で、アイリーンとブレアの茫然とした顔が認識できた。


(ここで泣いたらだめだ!)

 

「息子は死んでないと思うわ」 


 ポツリと、だが毅然とした声にドキリとする。


「どうして……、どうして分かるんですか?」


 シエルがアイリーンを縋る様に見つめてしまうのは、『死んでない』――― この言葉を何よりも望んでいたからだ。


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