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2-2

「コノ ムノウメ!」


 軽い羽音の後に聞こえてきた間の抜けた声に驚き、ジャックが目を開けると、柄の上に地味なインコがチョコンと止まっていた。確かヨウムという名前だったはずだ。


「ヨウム……だったか?」


「オマエニ ナノル ナ ナド ナイ」


「むむ……、この鳥はアルマ・ローサーの使い魔か……。小癪な……」


 ヨウムが柄の上でピョンピョンとジャンプすると、嘴に小さな白い光が生まれた。

 その光を携えたまま、ヨウムは恐ろしい速さでジャックの顔面に飛んできた。


 ジャックの目の前は真っ白に染まった。


「いてぇぇえええええええ!」


 額に堅い嘴を思い切りあてられたのだ。インコの嘴は湾曲しているので、先っぽは当たらなかったようだが、充分痛い。

 ジャックは額を抑え、蹲る。


 ジャックの支えがなくなったことで、剣は床に倒れてしまった。


 ヨウムの頭突きで何故か腕が自由に動かせるようになっている。何かの術をかけたのだろうか?


「ヨウム、お前何でこんなところに?」


「オマエヲ ミハッテタ」


 家の中で不審な行動をとらないように監視していたという事なのかもしれない。


「オイ、キヲツケロ!」


 ヨウムの鋭い声にジャックは意識を男に戻した。

 男は手の平の上に装飾が美しい槍を生み出していた。


「どこから出したんだ!?」


「アレハ ロンゴミニアド ダナ!」


 ロンゴミニアドというのはあの槍の事だろうか?ジャックは何かの伝説にそんな名前の武器が登場することを思い出していた。


(ロンゴミニアドって、外国の大貴族が所有してるんじゃなかったか!?)


「本物は1400年ほど前私の所有する武器の一つだったが、この槍は、私の力で具現化させた、いわばレプリカだ。本当の性能の5分の1もだせまい。だが、お前にはこれで十分だろう。半死状態になっても、この剣の主になってもらう!」


 ジャックは血の気が引いた。

 男はゴツイ槍を携え、ジャックは銃一丁しか所持してない。

 ジャックは素早く辺りを見回し、武器になりそうな物や、隠れられそうな場所を探す。


「よそ見とは余裕があるな!」


 ジャック目掛けて鋭い突きが放たれる。


「!!」


 ジャックは寸でのところで、床を転がってそれをかわす。

 槍は見た目以上の威力があるらしく、床に敷いてある石を砕いた。


(なんて威力だ……、あんなもの食らったら、一撃であの世に行ってしまう)


 ジャックは傍にある篝火を手に持った。

 伝説の槍と対抗するにはあまりにも貧弱だが、ないよりはましだろう。


「そんな物に頼らずとも、お前には伝説の剣があるだろう!」


 男の笑い声が広間に響く。

 たとえ剣を使えたとしても、槍と剣とじゃリーチの違いで不利じゃないかと、ジャックは心の中で毒づいた。


 男は次にジャックの頭部を狙い、大きく横に槍を振る。ジャックは身をかがめてそれを避ける。槍の穂先が描いた軌道の延長にある壁に大きな亀裂が入った。

 恐らく槍から衝撃波か何かが発せられているのだろう。


 背筋が寒々しくなるジャックだったが、次々に繰り出される攻撃に立ち止まっている暇などない。

 銃を男が着る鎧の隙間を狙って発砲するも、逃げながらでは綺麗に撃ち込めない。

 時折半透明のバリアの様なものが現れるのは、視界の端で忙しなく横跳びをするヨウムの術かもしれないが、男の驚異的な身体能力の前には発動が一拍遅い。


 次に頭上目掛けて振り下ろされた槍をなんとか篝火のスタンド部分で食い止めるが、男の腕力は ジャックを上回っているようで、ジリジリと力負けし、槍を食い止めるために上げた両腕は徐々に下がる。

 ジャックは力を込めた腕の痛みに顔を歪めた。


(クソ……、なんて馬鹿力だ……)


 近くにある男の顔が篝火の明かりでよく見えた。

 弱きものをいたぶり、楽しむ表情に反し、目は澄んだ青だ。


 頭のすぐ上のあたりまで押されている。


(このままじゃ埒が明かない!)


 ジャックは体の中央部の重心をわずかに動かし、槍に力を込め続ける男に一瞬の隙を作ると、一気に男の懐に踏み込んみ篝火を男の腹部に思い切り打ち込んだ。


 しかし男はびくともしない。


「運動神経はなかなかいいようだな」


 男が振り回した槍に弾き飛ばされ、ジャックは床に倒れた。


「ここまでか……」


 頭から流れ出た血が目に入り、視界が悪くなる。


 逃げるか迷い、入り口に目をやると、擦れる視界の端にに何か白いものが揺らめいた。


(え……?)


 信じられずに何とかその方向に目を凝らす。


「!!」


 ジャックはガバッっと起き上がる。


「何やってるんだ!シエル!」


 このような場には不似合いな少女がいた。

 白い寝間着姿のシエルは大剣を抱きしめていた。

 男との戦闘でいつのまにか大剣は広間の入り口に吹き飛んでいたらしい。


「アルマ・ローサーの孫娘か」


「こ、この剣を再封印しますっ……!」


 シエルは男を気丈に睨みつけている。


「シエル! キャスト ヨユウガナイ!」


 先程のヨウムのバリアの様子を見ていると、呪術を発動させている余裕がないのだろう。

 そもそも運動神経が鈍そうなシエルがあの攻撃を避けれると思えない。


「嘘だろ……。より状況が悪化するなんて……。シエル、その剣を離せ!君が標的にされるぞ!」


「娘……邪魔するなら容赦せんぞ!」


 男が怒りを抑え、低い声で威嚇する。

 シエルは身を縮めるようにするが、恐れているかと思いきや、顔がニヤッっと崩れた。

 シエルはネグリジェのポケットに手を突っ込むと、楕円形の水晶を取り出し、部屋の中央部に投げつける。


 水晶が割れる音と共に大量の煙が溢れ出した。


「って、俺も巻き添えかよ!」


 周りが全く見えないし、目に染みる。

 ジャックはさっきシエルがいた入り口へ方向感覚を頼りにシエルを追う。

 ヨウムがジャックに追いつき、肩の上に止まった。


「シエルヲ オイカケロ!」


 羽を広げると、ジャックの視界は急にクリアになった。ジャックの中でのヨウムの株は急上昇だ。

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