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8-10

 慌てて室内を見渡すと、綺麗に並べられたガラスケースの他に、石像もいくつか置かれていた。ジャックが恐る恐る近づいてみると、その石像はこの世の物とは思えないくらい不気味な生き物の形をしていた。


(魔獣を模しているのか? 石……だよな?)



 よほど腕のいい職人の手で製作されたのか、今にも動き出しそうに見える。

 ここは魔導具を保管している所だという認識だったが、この石像も用途があるという感じなのだろうか?

 

 さらに目を凝らすと、部屋の奥に小さな扉が有った。


「行ってみるか……」


 あまりこの部屋に長居したくもなく、次の部屋に移動する事にする。


 間を隔てる扉には細かな古代文字が書いてあったが、どうという事もなくアッサリと開いた。


 部屋に入ると、その物々しい様子に驚く。


 博物館のスタッフ用の通路からこのエリアに入る際に解除した扉にも使用されていた黒曜石が、中央の石板にも使われていて、床に貼り付けられるように配置されている。

 それを取り囲む様に無数の巨石が立ち並ぶ。

 郊外の遺跡でこの様な並びの巨石群を見た事があるかもしれない。


 ジャックはフラリと石板に近づく。

 ツルツルした表面はよく磨かれており、何も描かれていない。


「単なるオブジェか?」


 危険性も感じないため、ジャックはその黒い石板の上に乗ってみた。

 それでも何の変化も起きないので、そのまま中心部に歩みを進める。


「魔術師が乗ったらまた違うのかもな」


 何の変化も無いように思える。

 

 しかし光の様な物が視界の端をチラついた様な気がして、足元見る。


 変化は確かに有ったのだ。


 「な……っ」


 ジャックの足元を中心にして、青白い光が古代文字となり、ゆっくりと放射状に広がっていた。

 その光が取り囲む石柱まで届くと、今度は石柱が光を放つ。


「何か発動してるのか……? やばくないかこれ」


 石柱同士が細い光で繋がれ、ジャックは光の中に囚われてしまった。

 慌てて石板の外に出ようとするが、石柱から伸びる細い光に触れると、バチリッと何かに弾かれた。


「い……てぇ。くそ、どうなってる。解除法は……?」


 石板上や石柱を見渡すものの、状況を改善させる事が出来そうなものは見当たらない。


「ジャックさん!? 何があったんですか!?」


 澄んだ少女の声が、室内に響いた。

 ジャックが声の方向を見ると、入口付近にシエルが立っていて、茫然とした表情をしていた。


「い……今どうにか出来ないか探りますから少しだけ待っていて下さい!」


 彼女は転がる様に走り寄って来た。


「悪い。まさか魔導具の中に捕獲する物があると思わなくて……」


「この部屋の扉には、かなり古い結界が貼られていました。ジャックさんはどうやって入室したんですか!? というか、思い出しました……ローズウォールのウチの地下の結界も……解除しましたよね?」


 シエルのジャックを見つめる瞳は困惑で揺れていた。


「……分からない。普通に入れたから結界が貼られている事すら気づかなかったんだ」


「ジャックさん……あなたは一体……」



 ゴゴ……ゴゴゴゴゴ



 シエルのか細い声は、突然響いた異音にかき消された。


 空気が震え、酷い耳鳴りがする。


「う……耳が……」


 ジャックは不快な騒音に耐えられずに耳を抑える。

 シエルの様子が心配で彼女の方を向くと、目を見開いてジャックの背後を指さしている。


「嘘……、ワームホール!? ジャックさん!!」


 ジャックが背後を振り返るより早く、強力な力がジャックの体を捉え、引っぱる。


「シエル……逃げ……」


 最後の言葉は紡げなかった。

 泣きそうな表情を浮かべるシエルが心配でならない。

 その思考も全てバラバラになるような感覚の後、暗闇に染まった。



 「貴様……人間か?」


 居丈高な声色に呼びかけられ、意識が浮上してゆく。

 堅く冷たい床はツルツルとし、石の様な質感だ。

 一度目を開けるが、酷く擦れ、視界がぼやける。


「目が、見えない……」


 すると温かな手の様な物がガシリと目に押し当てられ、視界が一度白い光に染まった。

 

「これで見えるはずだ」


 ジャックが再び目を開けると、視界はクリアになっていた。

 自分の目の前に立つ人物を確認する。


「シエル……? 良かった。無事だったのか」


 クリーム色の髪にアンバーの瞳、可愛らしい顔は珍しく苛立ちの表情を浮かべていた。


「はぁ? シエルって誰だよ。俺はハロルド・アースラメント。せっかく前王の甥を生贄にしたのに、貴様のような貧相な男を召喚してしまうとはな」


(シエルじゃない……? 男なのか。というか名前が……歴史上の偉人? )


 よく確認してみると、髪は肩の辺りまでしかない。


 生贄という言葉も気になり、周囲を確認すると、ジャックのすぐ傍に20代くらいの男の亡骸が横たわっていた。



「この死体は……?」


「めんどうだ」


 ハロルド・アースラメントと名乗る少年は、ウンザリしたように舌打ちしたのだった。


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