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「この石板は何だ?」
「これが今から私達が行こうとしているエリアの結界の、最初のキーなのではないかと思います。恐らくこれに魔力を注いだら、扉が現れるのではないかと……。この解除法は残念ながら地図には書かれていないですね。魔術師なら当然解けるだろうという事なのかな。ジャックさん、ちょっと下がっていてもらっていいですか?」
「分かった」
ジャックは、壁に何等かのつなぎ目が無いだろうかと触り、確かめていたが、シエルの邪魔にならない様に離れた。
シエルは、水晶を一度通路の床に置き、右手を石板にかざした。
石板は彼女の魔力を吸収したかの様に、一度石全体が白く光りを放つ。
全体光が収まると同時に、石板に描かれた五芒星の溝に光がなぞるように走った。
シエルが手を離しても、五芒星の光は消えない。
それどころか、石板が埋め込まれている壁が、ザザ……と壁の白色と石の様な灰色が混ざりあい、不気味な光景になった。
「危険じゃないのか? これ」
「大丈夫ですよ。この壁はフェイクです。魔術で隠された扉が現れます」
2色の色がうごめいていた壁は徐々に灰色の割合が増え、10秒ほどで、天井まで届く大きな扉が現れた。
国家機密レベルの品を保管しているだけあって、かなり厳重な扉に見える。
扉全体には長方形の魔法陣らしきものが描かれている。
精緻に書かれた古代文字や、文様。
当然ジャックには何が何やらサッパリ分からない。
ジャックの胸の位置辺りには、扉に使われている素材とは異なる正方形の石板が4つはめ込まれていた。
4つの石板は、五芒星の周りを取り囲むように配置されているのだが、黒く、そして何も描かれていない。
扉の中でこの4つだけ、無であり、見ていて違和感を感じた。
じっと扉を眺めていたシエルが、4つの石板の一つに、スッと指を伸ばした。
「この4つの黒曜石の石板に正しい属性の魔術を施せば、扉は開きそうですね」
どうやら、魔術を使えない人間には想像の出来ない様な方法で開くつもりの様だ。
「属性……? 間違えるとどうなるんだ?」
「どうなるんでしょうね? 書物で読んでみた限りでの知識しかないですが、この手の結界は、解除法を間違えると、最悪な場合、自らが注いだ魔術が全て跳ね返ってくるそうです。なかなか恐ろしいです」
「え!? 凄く心配になるんだけど」
もし失敗した場合、ジャックの目の前でシエルが命を落とす事になるのだろうか?
悪い想像をしてしまい、急に落ち着かなくなる。
(もし失敗したら、俺が庇うか? でも間に合うんだろうか?)
詳しく知らない事だから余計に色々考えてしまう。
「大丈夫です。これを見てください」
シエルが笑顔で手の中の物を見せる。
先ほども見せてくれたスペアキーだった。
「これがどうかしたのか?」
「鍵についているキーホルダーを見てください。埋め込まれている宝石を属性に見立てられると思いません?」
シエルの言う通り、キーホルダーには赤・青・緑・黄色の小さな宝石が付いている。
さっき見た時は、貴族の持ち物らしい高級品だとしか思わなかったが、ここにヒントが隠されていたのか。
「赤は火、青は水、緑は気、黄色は土。これは東方の四元素説に基づく配置ですね。この並び順に魔術を施せばいいんです。チョロいもんですよ」
何かどうチョロいのかサッパリ分からないが、シエルに任せるしかない。
「そこまでのドヤ顔を見せてハズレたらどうするんだと思ってしまうけど。君がいいと思う様にやればいい」
「任せてください!」
シエルは右袖をまくり上げ、右手を4つの石板のうち、一番高い位置にある物にかざした。彼女が目を閉じると手の平から赤い光が生まれ、細かな古代文字が輪となり、石板の上に現れ、石板が赤く染められてゆく。
次に彼女は最初の石板の下にある物に手を移動させた。
「今のは火の属性です。次は水ですね」
同じように目を瞑り、青い魔方陣を石板の上に描き出すと、石板は青く染められていった。
シエルは同じ様に左右の石板を緑、黄色に染め、4つ全てに魔術の影響を加えた。
「完了です。さて成功するかどうか!?」
間違えたら命を落とすかもしれないのに、彼女はウキウキとしている。
念の為ジャックはシエルの前に立ち、身構える。
中心部にあった光の五芒星が輝きを増す。
ズズ……ズズズ……
重い石同士が擦れ合うような音と共に、石の扉が開く。
「良かった! 成功です!」
「おお……、凄いな」