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8-4

 地面に打ち付けられたジャックの顔の横に大剣がザクリと突き刺さる。


「それ、セコイですよ」


 恨みがましくパリエロを見上げると、ニヤリと笑われる。


「いや、これが古代から習わされる正当な剣術だ」


「まじですか……」


「俺がお前の懐に入った瞬間腹を蹴り上げようとしたところまでは評価できる」


「つい癖で……」


 ジャックは2年程前に荒れていた時に、乱闘騒ぎ等も起こしており、その際に喧嘩強くもなっていた。そこで培われた事が今何故か評価されている。


「いや、それでいいんだ。剣術と言っても、剣のみで戦うのではなく、他の動きで相手の隙を作るんだ。そこから致命傷を与える動きがうまれる。これは応用的な技だが、結構大事な事だ」


 真面目に考えると邪道としか思えないが、理にかなっている様な気もする。

 綺麗に戦う事に重きを置く事で命を落とすよりならずっといい。


 幸いにもジャックは近衛師団として日々トレーニングを積んでいるので、レスリング的な心得も一応はある。後は場数を踏んで、という感じか。


「取りあえずは、さっき言った基本型を体に染み込ませるのが先だな」


◇◆◇


 一瞬だけ曇りが晴れ、オレンジ色の光が窓から差し込む。

 久々に見る夕日が眩しくて、ジャックは目をすがめた。


 ジャックはパリエロからの訓練を終え、約束通りジャックは副師団長の執務室で、清掃をしていた。

 レジュメ等の資料を種類別にキッチリとファイリングし、確認しやすいようにしたり、本をジャンル毎に並べたりしていると、案外時間がかかる。


 パッと見綺麗にするだけならもっと楽なんだろうが、性格上どうしても細かい所まで拘ってしまう。

 


 本棚の高い所に青い背表紙のファイルを置こうとすると、肩にピキリと痛みが走った。


「……っ」 

 

 午後ミッチリとパリエロから大剣の基本を叩きこまれ、肩が悲鳴を上げている。大剣は持つだけで相当に負担がかかるのだ。


(エクスカリバーはそんな事なかったのにな……)


 腕にはまる聖剣のアクセサリーを撫で、溜息をつく。


 部屋に備え付けられている振り子時計を見上げると、とっくに定時を過ぎているようだ。今日は夜勤もないので、そろそろ帰ってもいいだろう。

 掃除の続きはまた後日だ。


 ジャックがモップとバケツを持ち上げると、ドアが乱暴に開き、同僚が顔を出した。


「大変だ! お前に可愛いお客さんが訪ねて来た!」


「客? こんな時間に?」


 同僚が何故か悔し気というか、憎しみというか、とにかく負の感情に満ちた様な顔をしている。意味が分からない。

 訝しく思っていると、彼の背中からヒョコリと小柄でふんわりとした少女が姿を現した。真っ白いワンピースドレスに同色の小さな帽子を合わせている。


「シエル!」


 少女が現れた瞬間、夕暮れ時の薄暗い部屋にポッと明かりが灯ったかのように感じられた。


「ジャックさん、御機嫌よう……、ぁっ!」


 シエルはぎこちなく膝を曲げ、淑女の挨拶をし、少しだけヨロリとした。


(相変わらず……運動神経のにぶそうな……)


 つい、腕を伸ばしたくなるが、両手が掃除用具で塞がっているので、踏みとどまった。

 

 最近この少女の仕草や視線が気になってしょうがない。


 なんというか……勘違いしそうになるのだ。

 

(冷静になろう。シエルは友人!)


 呪文の様に言い聞かせ、可愛らしく見上げてくる少女に心が波打たないように防波堤を作る。エレインの事があってから、恋愛感情は封印する事に決めたのだ。

 もう裏切りは懲り懲りしている。

 


「どうしたんだよ。こんなむさくるしい所に」


「えっと、ちょっとお話したいなと思って。ご迷惑でしたか?」


 胸の前で手を組み合わせて、視線を下げる様子は、他人から見たら、絶対に勘違いされるやつだ。


 ジャックはチラリと同僚を見遣ると、彼は盛大に顔歪めていた。


「シエルちゃん! この男、ゴシップ紙にも裏付けられているくらいのドMだぞ! やめた方がいい! 君が道を踏み外す事になる!」


 必死の形相だ。もしかしてここまで案内する間にシエルに惚れたんだろうか?


「知ってます! でも痛めつけられるジャックさんを見て、凄く面白い人だなって思って……」

 

「え……」


「こんな純粋そうな少女をSの道に進ませるなんて! うらやま……、外道な奴だ! 言いふらしてやる!」


 同僚は憎々し気に言い放ち、部屋のドアを乱暴に閉めた。


「あ! 今のは聞かなかった事にしてください! た、ただのノリですよ……。そう、ただの……」 


 シエルは顔を真っ赤にして、両手をアワアワと振った。


「だよな……。まさか俺が苦しんでる姿を見るのが楽しいとかあり得ないもんな」


「ええ! 貴族なのに掃除用具を携えている姿が様になってると喜んで見ていないです!」


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