8-3
何だかそれは現実味があるような気がした。
(本当はエクスカリバーに選ばれたのはシエルなんじゃないのか?)
そんな思いが浮かんでくる。でも剣を鞘から抜く時に苦しんだのはジャックだったし、エクスカリバーが形態変化した腕輪がはまったのもジャックの方だ。
この剣については謎が多すぎる。ホープレスプラトゥに行く前に一度調べる必要があるだろう。流れで所有者になったものの、これに頼らざるを得ない状態なのに出し入れすらままならないのでは話にならない。
ふとパリエロが魔術の事について口に出した真意が気になってくる。エクスカリバーの形成以外でも何らかの関わりがあるかのような言い方だった。
「剣術と魔術は何か関連があるんですか?」
「対魔獣で強みを発揮するのはやはり魔力だ。剣に魔力を帯びらせる事で殺傷力が飛躍的に向上するんだ。でもエクスカリバーの場合、それ自体が魔獣に対してダメージを負わせやすいと聞いた。お前が魔術を使えなくても問題ないだろう」
「一つ疑問があります」
「なんだ?」
「先ほど副師団長は軍部内での魔獣対策の部門の事を口にしてましたけど、魔術的な素養が無ければ魔獣に対抗できないという事になりませんか?」
ジャックは陸軍内部に魔獣駆除専門の部門がある事を知っていたが、魔術師がいるという話は聞いた事が無かった。
「魔力を持って生まれてきても、全員が魔術師になるわけじゃないのは知っているか?」
「いえ、詳しくは知りませんが……」
「魔術師協会に所属する魔術師は、子供が生まれた場合、魔術師協会での魔力の測定に連れて行くという義務がある。そこで出た魔力量次第で、子供が魔術師になる道に進むか、一般人として暮らすかが決められるんだ。外来生物対策部に集められているのは、微弱ながらも魔力を保有する連中だ」
「失礼ですけど、微弱な魔力で魔獣に対抗できるんですか?」
シエルをはじめ、ローズウォールの魔術師達の魔術の様子を想像するに、あれくらい使えなければ、強大な生命体へ勝つことは厳しいように思える。
「まぁ普通はそう考えるだろうな、だが…‥」
パリエロは手に持つ大剣の刀身に手をかざす。
そうすると、刀身にはこの国の古代文字が青白く浮かび上がった。
意外な事に、パリエロは魔力を持っているらしい。
「魔術師協会からの支給品の大剣だ。この剣自体に仕込まれた呪印が勝手に体内の魔力を吸い、ごく短時間でなら魔獣へ致命傷を負わせる事が出来るんだ。まぁこれっぽちの事をするにしても、少しでも魔力がなければ無理だがな。あとこれだ」
パリエロは腰のホルスターから銃を抜き、片手で構えて見せる。
「銃ですか?」
「ああ、つい1年程前に魔術師協会長のお孫さんの発想で実用化されたんだが、圧縮した魔力が銃弾に込められている。通常の銃の10倍以上の威力がある。これも魔力が無いなら無用の長物だな」
この魔術具についてはローズウォールからの列車の中でルパートから聞いたかもしれない。友人である少女の凄さを改めて思い知る。
でもこの武器は魔力がなければ話にならないのだ。諦めるしかないだろう。
「お前は大剣を使いこなす事が強さへの近道だろうな」
「そう思います」
せめてこの巨大な大剣に振り回されるような状態は避けたいところだ。
「まぁ、さっき言った基本を全て体に叩きこんでもらうが、それだけだと実戦向きではない。剣の振り方にプラスアルファで別要素を加えていく事も大事だ」
「別要素ですか?」
パリエロは首を捻るジャックを笑いながら、二本持って来た大剣のうちの一本を差し出す。
「実戦の動きは、実際に味わってもらった方が早いだろう。適当に俺に攻撃してみろ」
手合わせしてくれるという事なんだろうか?
「分かりました。怪我しても知りませんからね?」
「お前が俺に怪我? あり得ないね」
馬鹿にしたようなパリエロに少しカチンとくる。細身のパリエロにだったら、割といい勝負になるのではないだろうか?
ジャックは、渡された大剣を構える。突きの方がいいか、振る方がいいのか。
なんでもないように緩く構えるパリエロは隙だらけの様に見える。
ジャックは大きく踏み込み、パリエロに対して剣を横から振る。当然の様にそれは受け止められ、今度は上段から大剣を振り降ろした。
パリエロの剣から阻まれたかと思うと、刀身をわずかに斜め下に動かされ、ジャックはややバランスを失う。
「え……!?」
戸惑う隙に素早く懐に潜り込まれ、咄嗟に腹を膝で蹴り上げようとした。
しかし一歩遅く、腕を腰に回され、おまけに足を蹴られたため、視界がグルリと反転する。
(これ、レスリング!?)
抵抗する事もままならず、ジャックは地面にそのまま激突した。