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8-1

 自宅謹慎日の次の日の昼下がり、ジャックは王室師団司令部庁舎内の廊下を歩いていた。


 わざと小さく作られた窓から差し込む弱い光。

 今日もまた王都は曇りだ。


「ジャック! 元恋人とのSMプレイをゴシップ紙に載っけられて、謹慎くらったって本当か? この色男はよ~」


「プレイなんかじゃない。あれは暴行を受けただけだ」


 すれ違う同僚からのいじりに、ウンザリと返事を返す。

 ジャックは王室師団において、不名誉な噂を立てられる事が多いが、そのほとんどがとばっちりによるものだった。

 こうした噂話の主人公になるのは、懲り懲りしているのに、時々羨ましがる人間がいるのだから、色んな種類の人間がいるものだと思わずにいられない。


 同僚と午後からの業務について簡単に打ち合わせ、ジャックは本来の目的の場所に向かう。


 突き当りから2番目の扉、ここは王室師団副団長の執務室だ。


 ドアノックをコンコンと打ち鳴らし、声をかける。


「副師団長、ジャック・フォーサイズです。少しお時間宜しいでしょうか?」


「入れ」


「失礼します」


 ジャックはドアを開け、室内に踏み入れる。


 副師団長の執務室には初めて足を踏み入れる。


 数多くの木箱や乱雑に積まれた書類、棚からはみ出た道具等、かなり散らかっている。

 血液型がA型のジャックは、部屋の有様に若干不快感を覚え、顔を顰めた。


「散らかってて悪いな。ここに異動になってからなかなか片づける暇がなかったんだ」


 副師団長リュー・パリエロは窓側のデスクに座っていた。


 キッチリと後ろに流したこげ茶色の髪、シャープな顔立ちのパリエロは、軍服も隙無く着こなしていて、この部屋の有様とはギャップがある。


「異動とは言っても、こちらにいらっしゃってからもう5ヶ月は経ちますよね?」


「月日が経つのが早いから驚いてしまう。謹慎中の報告に来たのか?」


 パリエロに言われて、ジャックは目的の一つを思い出す。 


「昨日は家で自主練をしていました」


「面白みの無い報告だな。ケインズがお前の家に行くと言っていたから、てっきり二人でどこかに出かけたかと思っていたんだが。あのピエロが何の思惑も無しに人の家に訪問するとも思えんしな」


適当に家から出てなかったと伝えて終わろうと思ったが、許されないようだ。

 そうえいえば、ケインズとパリエロはパブリックスクール時代に交流が有ったと言っていたか。ジャックは若干嫌気が差してくる。


「ええ、確かにケインズさんはウチに来ましたね。彼の腹違いの弟さんを紹介する為のようでした」


「科学省のあの生意気な小僧か!」


 パリエロは露骨に顔を歪めた。

 前に衝突した事でもあったのだろうか? ブレアのあの灰汁の強さに辟易しているところに変な共感を覚える。

 ジャックはブレアからの昨日の申し出の件を話題に出してみる事にした。


「昨日ダグラス氏の話の中で、俺の家の……バーデッド子爵領の鉱山が魔獣の巣窟になっているという話を聞きました。副師団長はご存知ですか?」


「ああ……、軍部だと役職クラスや専門部署にしか知らされていない事だな。考えてみるとお前の実家に深く関係する事だ。ブレア・ダグラスから伝えられるまで知らされていなかったのは、秘密が厳守されていた事を喜ぶべきか、当事者を除外していた事を嘆くべきか……」


 パリエロのジャックを見つめる瞳には同情の色が浮かんでいる。


 ジャックは再び昨日の苦い感情が蘇った。

 領地の民の事を考えるのは、当主や、後を継ぐ者の役割だと考えていたのは、否定できない。だが、領地は家に紐づく。問題が起きているなら、次男だろうが関係なく、対処すべきなんだろう。

 というか、責任の有無に関わらず、ジャックは行こうという気になっていた。

 平和に暮らしていた住人は、もしかしたら生命を奪われたかもしれない。もしくは住む家を去る事になったかもしれない。

 その原因が兄の判断ミスにあるのだとしたら……。

 放っておく事など出来るわけがない。


「ホープレスプラトゥで魔獣掃討作戦があるそうですね。俺はそれに同行します」


「ほぅ……、陸軍からは、外来生物対策部を派遣する事になっていたが、お前にも話が行ったのは、やはりその腕のオソロシイブツの所有者だからか」


「それもケインズさんに聞いたんですか?」


「ああ、アイツに知られた事は一週間以内にこの国の上層部に知れ渡ると思え」




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