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1-5

ジャックは数日たってもやはり地図の事が気になり、知り合いのコネを使い、ヘルジア大学へ物理学権威スコット教授の元を訪れた。


「ゼロポイントエネルギーとは、量子力学の論点の一つですな」

「量子力学……」


 ジャックには全く理解できそうにない予感があったが、教授の話を一言も漏らさず聞こうと集中する。


 教授は、真空状態という前置きをしてから説明を始めた。


「空間からあらゆる物質とエネルギーを抜くとします。でも空間は完全な「無」になる事はないんです。最低限のエネルギーがゆらぎの様な形で残ります。そのようなエネルギーをゼロポイントエネルギーと呼ぶんです」

「ふむ……」

「このゼロポイントエネルギーの活用しだいでは、膨大なエネルギーを生む可能性もあると主張する論者もおりますが、実験にコストがかかりすぎるという事も災いし、どこの国でも研究が進んでないようですね」


 近年ではエネルギー調達が各国において急務とされている。

 この国では近年では公共施設や王都の一等地付近で電力の使用が徐々に普及してきていた。

 火力エネルギーが主力なのだが、原子力エネルギーという新エネルギーも研究が進んでいる。科学分野に非常に弱いジャックだったが、そのくらいは新聞記事からの情報で知っていた。

 ゼロポイントエネルギーという概念も、そのような技術革新の流れから研究されているのかもしれない。


 兄はエネルギー調達事業を考えていたのだろうか?

 ゼロポイントエネルギーについての実験候補地調査書をもっていたということは、兄が研究者達の支援として何かの活動を行っていたという事なのだろうか?

 ジャックの疑問は晴れるどころか膨らむばかりだ。


「そうそう、5年くらい前だったかな?ゼロポイントエネルギーの実験に関わった人間を一人知っていますよ」


「教えていただけますか?」


「アルマ・ローサーという女性です。ミッドランド伯爵領を所有している貴族の方ですね」


「俺が会う事は可能ですか?」


「今は社交界にはほとんど出ず、ローズウォールのカントリーハウスに孫娘と住んでるみたいなんですけど、いきなり行くのはどうですかね……。私が一度手紙を書いて確認をとってみましょうか? 」


「お願いします」


 ジャックは迷いなく頼んだ。

ジャックは自分の好奇心を満たすために赤の他人を巻き込む事にかすかに抵抗を感じた。

 でも自分を止められそうになかった。自分の身の周りが落ち着いてきたからこそ、兄の事が気になっていたのだ。


「知りたい事はもうありませんかな?」


「ええ、今日はもう結構です。また教えを請いに来るかもしれませんが、その時にゆっくり話しましょう」


「また会いましょう」


 にこりと相好を崩す教授と握手を交わし、ジャックは研究室を後にした。


 一週間後、ジャックの元に教授から手紙が届く。

 アルマ氏から訪問を承諾する回答が来たとの事だ。

 アルマ氏に会いに行く際はこの手紙を身元の証明として持っていけばいいだろう。

 ジャックは手早く教授にお礼の手紙を書き、執事に手紙の投函と、近衛師団への3日間の休みの連絡を頼んだ。


 ここからローズウッドへは片道3時間はかかる。

 明日行こうと考えていたが、ジャックは結局明日まで待ってられず、昼前にはローズウォール方面へ向かう機関車に乗車していた。


(何やってんだ俺。準備不足にもほどがある!)

 夜勤明けだったので、軍服から着替えてなかったし、着替えの服も持ってきてない。

 普通なら手土産の一つも準備すべきなのだが、教授の手紙とアルマ・ローサー氏宅への地図の他はいつも持ち歩いているものをそのまま持って来ていただけだった。


 座席に座ると、周りの乗客がジロジロと見てくるので落ち着かなくなり、何度も居住まいを正した。


 でも不思議な高揚感があった。


 軍務についてから王都を離れる事はまれであったし、ここ最近は休日も予定を詰め込んでいたので、数週間に1度程度気の置けない友人とパブで飲むくらいの息抜きしかしてなかった。 最近では窮屈感を感じる事も多々有ったのだ。


(何の収穫が無くても、小旅行と考えたら割といいかもな)


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