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「レディースアンドジェントルマン! 今宵は良くお集まりいただきました! 我らが地獄の門クラブが主催するオークションには多数の出品物が集まっております! 狙いの物がある方々は勿論、見学目的の方々もお楽しみくださいませ! まずはこの素晴らしい邸宅を会場として貸してくださったペラム男爵から一言いただきます!」
オークショニアが良く通る声で高々と開幕を宣言した。
目の前に座るアルバートの存在が気になり、身動き一つするのすら気を遣っていたので、シエルは始まってくれた事にホッとした。
「隕石以外にはどういう物が出品されるんだろうね?」
「エル様が欲しがられそうな物が多数出品されると思いますよ」
「へぇ……」
ペラム男爵のグダグダとした挨拶が終わると、いよいよオークションスタートだ。
1番に出品されたのは、随分古びた杖だった。
「これは、かの有名なアラン・ビアンキ氏の杖です! 魔術師ならだれでも欲しがる一品!」
アラン・ビアンキ氏とは東ヘルジアの高名な魔術師だ。
彼によって考案された新魔術は多数あり、現在の実用的な魔術の元になっている物もある。そして彼は先のクーデターにも一枚噛んでいただろうと言われている。数十年前に亡くなっているのだが、魔術の教科書等で今なお語り継がれる伝説の人なのだ。
「いいなぁ……ほしい」
「欲しいなら入札したらいいですよ。どうせ隕石は無理ですし……」
「むむ……、私まだ諦めてないから」
アラン氏の杖は500万Gからのスタートだったが、みるみるうちに価格が吊り上がり、最終的には2,000万Gになった。
落札者は洒落たストライプのスーツに身を包んだ青年だった。恐らく魔術と縁が遠い……どこかにまた転売するのかもしれない。
シエルは残念な気持ちになる。
(せっかくの品が商売に使われるなんて……)
というか序盤でこれ程まで価格が上がるなんて予想外だ。
ラストにはどのくらいの金額になるんだろう?
「まぁ、一番最初にそれなりの一品をもってくる事もあるんで、今から出品されるのがこれより金額が上の物ばかりではないですよ」
「だといいけどね……」
2番目に出された魔獣の牙や、3番目に出された4種の言語で同一の内容の事が書かれている石板は、ルパートの言う通りどちらも1,000万Gを超えず、その後の出品物も1,000万Gを超えたり超えなかったりだった。
それにしてもこの落札戦は見ているとそれなりに楽しい。
オークショニアがそれなりに盛り上げ上手だからかもしれない。
今度普通のオークションに参加し、自分の所持金でほしいものを競り落としてみたくなる。
セールルーム前方には台車で大小様々な水晶が運ばれて来る。
「皆様! 魔力の込められた天然石を紹介させていただきます!」
透き通るような水晶は普段シエルが良く使う様な魔道具で、魔術を使える者が手にしてようやく意味ある代物だ。魔術学校に通っていた者は水晶に魔力を込める技術は卒業試験の課題にもなるため、普通なら自前で用意出来る。
これを欲しがる層は、碌に魔術の勉強をしてこなかった魔術師だろうか?
それとも展示用?
2,3上がったパドルの主達を見ても、見知った人物はいなかった。
価格はこれまでの物よりかなり下がり、高くても200万程度だった。
自分の魔力を補充して使った事しかないが、これを使い切りにする人もいるんだろうか?
他の出品物に比べて安いとはいえ、1度使うだけの物にこの金額を出せるのは驚いてしまう。
オークショニアは小ぶりの隕石を手に取り、案内を始めた。
「パラサイト隕石です! 本日ご用意した物は、プラズマを発生させる効果、風を発生させる効果、爆発する効果、この3点になります! さぁ皆様、どんどん入札してくださいませ!」
「私、今回もあれを落札しますわ」
斜め前に座るエレイン嬢が楽しそうにアルバートに話しかけていた。
「まぁ自慢のネタにはなるよね。あ、君もこれ狙いで来たんでしょ?」
アルバートがシエルを振り返り、話しかけて来る。