7-6
(でもちょっと、楽しそう?)
ミッドランド家の財産で競争相手を打ち負かせるんだろうか?
どういう人間が来ているのだろうと、キョロキョロと見回してみると、セールルームに居る人々はそれぞれ席に座ったり、部屋の隅で雑談をしていたりなど、慣れた様子だった。
その中の一人に見覚えがある人物が居て、シエルは「おや?」と首を捻った。
派手なイエローのドレスを着た人物はどうみても昨日ジャックと一緒にいるときに会った女性に見える。エレインと言う名前だったはずだ。
シエルがルパートにその人物の事を聞こうとした時、入り口付近で華やかな騒めきが起こった。
視線を向けると、セールルームに入室してきたのは派手な金髪の長身の男性だった。
「アルバート様! 本日は我が家へようこそ! 本当にいらっしゃるなんて、感激ですわ!」
エレインは金髪の青年の腕に抱き着いて行っていた。
「ちょっと気まぐれでね」
二人は恋人同士の様な距離で見つめ合う。
(むぅ……? あの女性昨日ジャックさんに復縁を迫ってなかったっけ? まさかジャックさん、あの人に振られた時の為にキープされかけてたのかな……、まさかそんな……)
どことなく金髪の青年の方が優位な立場に見える事から、シエルは恋愛小説で得た偏った想像を膨らませた。
シエルが口に手を当てて2人を凝視していると、ルパートが笑い声を漏らした。
「あの男性、気になります?」
「オーラが凄い方だね」
「この国の第1王子アルバート様ですよ」
「王子!?」
驚きのあまり大きな声を出してしまい、周囲の視線を集めてしまった。
「あ、騒がしくしてしまって、ごめんなさ……」
「僕がどうかした?」
斜め後ろの席の女性に非難の視線を投げかけられ、シエルは慌てて謝るが、その言葉は途中で遮られた。
声の方を向くと、ちょうどシエルの前の席に第1王子とエレイン嬢が座ろうとしていた。
やや長めの明るい金髪とシエルと似た色のアンバーの瞳、この国の第1王子は美形の中の美形だった。
「いえ……、初めてお目にかかるので……感動して……」
「ていうか、君の顔、誰かに似ているような……」
「!!」
アルバートに覗き込まれ、シエルは慌ててローブのフードを下に引っ張った。
アルバートは結構な頻度でアルマと会っていると思われる。
もしかしたらシエルの顔を見て、アルマの顔を思い浮かべているのかもしれない。
「気のせいですよ!」
「そうかな?」
「私もこの方をごく最近見た様な気がするのですわ、どこだったかしら……、私の物を奪い取られた様な……」
「!? 言いがかりはやめてください。あなたとは初対面です」
確かにエレインとは昨日会ったが、彼女の物等何も奪っていない。自由に喋らせては何を言いだすか分からない恐ろしさに震えそうだ。
「エレインさん、すいません。この方は俺の連れなんです。あまりこの様な場は慣れていないのでほどほどに……」
「あら、ラムジー君御機嫌よう」
「本日のオークションはお手柔らかにお願いしますね」
ラムジーと言う名はルパートの潜入時の偽名らしい。そして今日シエルは「シ」をとってエルと名乗ることになっている。
「シャイなお嬢さんは今夜何を競り落とすつもりかな?」
「い、隕石です」
アルバートの興味はシエルから反れない。
「ふーん……、隕石ね。急に欲しくなってきちゃったな。僕も狙うかな」
アルバートの無慈悲な宣言を聞き、シエルはウッカリ狙いの物を教えてしまった事を後悔した。
(もしかして私、王室の金庫を相手に戦わなきゃいけなくなった……?)
シエルは震える手でショコラを口に運んだ。
「これは、かなり厳しそうですね」
ルパートがヘラヘラとシエルに笑いかけるが、笑いかえす余力など無かった。