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「私ちゃんと変装できているかな?」
シエルは共にペラム男爵邸に来たルパートに恐る恐る尋ねた。
シエルは黒髪のウィッグと世の中ではまだ珍しい眼鏡、白いローブの中には普段あまり選ぶ事のない深紅のドレスを着ていた。
ローブについているフードを目深にかぶり、顔の半分ほどかくしている。
「そうですね。もともとシエル様のお顔を知らない人がほとんどかと思われますので、大丈夫だと思いますよ」
ルパートも今は金髪のウィッグと付け髭を付けている。
たぶんこれが秘密結社の人間と関わる時の変装なのだ。
「だといいけど……」
弧を描く優美な階段を上りながら、シエルは杖をギュッと握りしめた。
「変にコソコソするより、堂々としていた方がかえって分からないものですよ。さぁ、ここがオークションのセールルームになります」
階段を上り切ってすぐの大広間は、扉が開かれていて、中の様子が見えるようになっていた。
普通なら舞踏会に使われそうな室内には、多数の椅子や小さなテーブルが並べられ、奥の方にはオークショニア用の演説台がある。
ぺラム男爵家の使用人に誘導され、前方の席にルパートと座る。
テーブルの上にちょっとした軽食が用意されているのが嬉しい。
さっそくシエルはメレンゲを固めて作ってある菓子に手を伸ばす。
「どのように落札するの?」
オークション初参加のシエルはルパートに落札を任せようと考えているが、入札等のシステムには興味津津なのだ。
「ええと、これをお渡ししますね」
ルパートから手渡されたのは、ペラム男爵邸に入る時に召使達から受け取っていた番号札のようなものだった。
「これは?」
「パドルといい、ビットする時に上に掲げるのです。一応本日のオークションに参加する前に、俺名義の預金証明を結社側に提出していたんで、1.5億Gまでならビット可能ですよ」
「ルパートって意外とお金持ちなのね」
先ほど給料の話が出たときに、薄給なのではないかと思ったが、予想以上の預金額だ。
「いえいえ、俺の潜入活動資金として預かっただけですよ。結構金がかかることが分かったので、アルマ様に追加で貰って助かりました」
「なるほどね」
「で、隕石の落札についてなのですが、我々が狙っている物は最後に出てきます。オークショニアは最初低めの価格で案内をかけますが、複数の参加者がパドルを上げ、その金額へビットすれば、金額を上げていき、パドルを上げる参加者が一人になるまで吊り上げられます」
「負けず嫌いな人だったら莫大な金額でも入札しちゃうかもね」
「ええ、シエル様も気を付けてくださいね」
チラリとルパートの顔を見遣ると、いつもの笑顔だ。
嫌味を言われたように感じられたのはシエルの気のせいだろう。
「っていうか、ちょっと待って。その言い方だと私が競り落とさなきゃいけないみたいじゃない」
「そうですよ? アルマ様もそのおつもりでした」
アルマとルパートは何て無茶をさせようとしているのだろうか?
シエルは唖然としてしまう。
「え、無理じゃない?」
「番号札を上に上げるだけの簡単なお仕事です」
「ぐぬぬ……」
確かに上に上げるだけなら簡単だろうけど、このくらいが相場だという目安が分からないなら、怖いではないか。
シエルも一応ローズウォールで暮らしていた頃は、魔術師協会の構成員として仕事に見合った対価を貰っていて、それなりの金銭感覚はもっているものの、億単位の金額を使った事などない。
でも何でだろう、番号札を上げる事も出来ないのかと言われたら、ちょっと悔しいではないか……。
「やればいいんでしょ」
「流石シエル様です」