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「ジャックさんはノースフォール公爵と知り合いなのかしら? 意外と顔が広いのね」
「いえ……、実はケインズさんにノースフォール公爵を紹介していただいて、かなり長時間捕まっていたんです。肝心のケインズさんは会議があると言って出て行ってしまうし」
ジャックの顔には疲労の色が濃い。
(確かにあのノリは若者には辛いかもしれないわね)
アルマはこれから会う自分物を思い浮かべ、クスリと笑った。
「アルマ様、ノースフォール公爵家に行って怪我がないか診てもらいましょう!」
ロビンがアルマの元まで辿り着き、アワアワと喋る。
「まぁ怪我はないけど、ドレスがアチコチ焦げちゃったわ」
「ミッドランド家に連絡して、使いの者にドレスを届けさせます」
「ええ、お願い」
「ジャック様、アルマ様をお願いいたします!」
ロビンは一足先に公爵邸に向かって走って行った。
行ったり来たりさせてしまうことになり、ちょっとだけ申し訳なくなる。
「焦げるって、一体どんな戦闘をしてたんですか……」
ジャックは刺客が魔術を使用していない時に現れたから、相手が魔術を使える事を知らない。
「相手が魔術の使い手だったの。厄介なものよ」
「魔術師協会の協会長でも魔術師に狙われる事があるんですね……」
「そりゃ、あるわよ」
アルマは自分の武勇伝を話して聞かせたくなったが、時間が迫っているので、ここで話すのはやめておくことにした。
「シエルさんて今伯爵邸にいます?」
アルマはジャックの口からシエルの名前が出てきた事に首を傾げた。
「ちょっと出かけているわよ。どうかしたのかしら?」
「こんな時間に?」
「夜会に参加しているから、遅い時間なの」
「なるほど……、昨日会った時に元気なさそうに見えたからちょっと気になって……」
アルマはニヨニヨとしそうになる口元を扇で隠した。
「ジャックさんが会いたそうだったとシエルに伝えておくわね」
「え!?」
「さて、公爵邸に向かいましょう」
アルマは狼狽するジャックを置き去りに、歩みを進めた。
◇◆◇
午後7時
アストロブレーム一等地の外れに位置するペラム男爵宅では、自動車に送迎されてくるローブ姿の男女達が次々とエントランスに吸い込まれてゆく。
社交界シーズン真只中のこの時期、夜会を開く屋敷はエントランスからゲートまで続くレッドカーペットや煌びやかな照明等を飾る。
本日はペラム男爵邸で開かれるようで、エントランスに煌びやかな照明が飾られているが、他所で開かれている夜会とは少し様子が違うようだ。
怪しげな仮面を着用した召使達が門前でゲストを迎え、ゲスト達もローブや仮面を着用している。
でもまぁ、ちょっとばかり趣が違っていても中身は一緒だろうと、道を通り過ぎる者達は白けた目で眺め行くのだった。
◇