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7-1

 ミッドランド伯爵邸にて、アルマは外出の為の身支度を整えていた。

 

 侍女が衣裳部屋から持って来たドレスをアルマは確認し、頷く。

 袖についたフリンジが特徴的な瑠璃色のドレスは、気取らない席に相応しい。


「雲行きが怪しいですね」


「そうね」


 窓から見える空はどんよりと曇っている。



 面倒な身支度が終わった頃、自室のドアを叩く音が聞こえた。



 侍女は速やかにドアへと向かい、訪れたメイドを招き入れた。


「どうしたの?」


「アルマ様に、マイケル・ハドリー様から電話でございます。お繋ぎしてもよろしいでしょうか?」


「繋いでちょうだい」


 何故電話をかけてきたのか察したアルマは、ハドリーのマメさに呆れてしまう。

 部屋に備えらえた電話が鳴り、応答する。


『アルマ様ですか?』


「そうよ。あなたもしかしてシエルの様子を伺いに電話をかけてきたの?」


『そうです! 血迷ってオークションに出向いていないか心配になりましたもので』


「オークションにはルパート一人で行ってもらったわ。シエルは自室にいるわよ」


 アルマは平然と嘘をつく。

 

『そうなのですね。安心しました。では時間も時間なのでこの辺で失礼しますね。素敵な夜をお過ごしください!』


「……あなたもよい夜を……」


 ハドリーのあまりの手ごたえの無さに驚き、アルマは回線が切れてしまった電話の受話器を数秒見つめた。

 まぁダラダラと話されるよりは全然いい。


「出発するわよ」


「下僕に車を用意させてあります。あの、本当に私も一緒に行かなくてもいいのですか?」


「不要よ。今日はもう休んで」


「有難うございます」


 アルマは小さなバッグと、愛用している杖を持ち、屋敷の外に出る。

 ポーチに横づけされた自動車は綺麗に磨かれていた。

 下僕のロビンに開けられたドアから車内に入る。運転も彼が担当するらしい。


「まだ運転に慣れていませんが、善処します」


 運転席に座ったロビンは申し訳なさそうにアルマを振り返った。ルパートがいないので、彼が運転する事になったようだ。


「人さえ轢かなければ何でもいいわ」


「なるほど……」


 ロビンが走る車は、かなりの低速で伯爵邸の門扉を抜ける。


 アルマとしてはいくら何でも遅すぎではないかと思わなくもなかったが、これから会う相手も時間にルーズなので、会う時間が多少遅れても問題ないだろう。


 大通りに出ると、かなり自動車の交通量があった。

 ローズウォールに住んでいた頃から良く王都には訪れていたが、ここ数年で急速に発展しつつあるようだ。


 自動車のウィンドウにいくつかの水の雫が筋となって流れる。


「やっぱり王都は雨が多いのね」


「そうですね。大雨になる事は少ないのですが、年中小雨が降ります。すぐ止むといいですね」



「ええ……」


 ふと、シエルに貸したドレスの裾の長さが気になってくる。

 この雨だともしかしたら濡れてしまうかもしれない。シエルが風邪をひかないように、帰る頃にはやんでくれたらいいが……。


(それにしても、シエルは初めてのオークションに慌てふためいているのかしら?)


 アルマはシエルの様子を想像し、フフっと笑い声を漏らした。


「思い出し笑いですか?」


「何でもないのよ」


 シエルが王位についたら気楽に外出は出来なくなるだろう。その前に綺麗なだけではない貴族の裏の顔を見せた方がいいと思った。

 そしてオークションでどれだけの無駄な金が動くのかというのも。

 シエルがパラサイト隕石を競り落とすためには、かなりの度胸が必要になるだろう。


 いい経験になるのでは? とアルマは思うのだ。


 自動車は大通りを抜け、小路に入る。

 目的場所のノースフォール公爵家はやや奥まった場所の位置する。

 小路という事もあり、自動車はかなりスピードが落ちる。


 公爵家まで後少しという所で、ガクンと急ブレーキが踏まれた。


「どうかした?」


「前方で人が倒れました」


 ロビンが指さす方を見遣れば、ライトに照らされた黒い服を着た人物が道に倒れており、空から降る小雨に打たれていた。


「こんなに進行の邪魔になるように倒れられるものかしら? もしかして当たり屋かもしれないわね」


「降りて様子を見てきます」


「安易に小銭を握らせたら、調子に乗ってさらなる強請りをかけてくるから、あくまで口で解決してちょうだい」


「了解いたしました」


 ただでさえ小雨が降っているというのに、ご苦労な事だ。

 ここからなら公爵家も近い。倒れた人物の事はロビンに任せ、公爵邸へ歩いて行っても問題ないだろう。

 



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