6–13
「そこで行われた実験が、ゼロポイントエネルギー実験という事なのか?」
ジャックの問いに、ブレアはニヤリと笑った。
「なんだ、情報ダダ漏れじゃないか」
「兄貴の所持品から察しただけだ」
ローズウォールで兄ブライアンと会ったという事をブレアやケインズに話すつもりはなかった。ブライアンの失踪にブレアの所属する科学省の関与がないとは言えないからだ。
だから、取りあえず端折って伝える事にした。
「ふーん……、まぁそういう事にしておいてやってもいいぜ」
ジャックを見つめるブレアのアメジストの瞳に、まるで見透かされているような気分になる。
「まー、実験については俺も後日レポートで知ったくらいだなんだけどな。ゼロポイントエネルギーは、高エネルギー研究所の主導で研究が行われていて、これはあんたも知らないだろうけど、最先端の科学実験は国内トップレベルの魔術師との共同で進める事が多い」
「アルマさんとかか」
「そう、ミッドランド伯爵はよく協力してくれてたな。だけどあの日実験場に訪れたのは、魔術師協会の魔術師ではなかったらしい。あれほどの魔道技術をどこで学んだのか……。秘密結社と繋がりがあると聞いたけど……、あんな危険な奴がその辺を普通に歩いてるなんて想像したくないな」
ジャックはローズウォールから王都までの道中にアルマと話した事を思い出していた。
魔術師協会が関与したわけではないとの事だったが、あれは本当の事だったのか。
「あいつは負のエネルギーの取り出しと、ワームホールの出現、拡大化をやってのけたらしい。レポートによれば、空間が歪んだと思ったら、大量の魔獣が溢れ出したらしい。まさしく地獄だ」
「魔獣が溢れ出したって、一体どれくらいの頭数が?」
「すぐに撤退したらしいから、正確には分からない。だが、あの事故後継続的に調査を行っている者の報告によると、ワームホールから現れた魔獣達は独自の生態系を作り始めているそうだ」
「つまり、当初この世界にやってきた魔獣よりも数が増えてるって事か?」
「そういうこと」
2年前の事故後すぐに対処しなかった事で、事態が重くなっている事が伺い知れた。
これを放置した場合、いずれ魔獣の活動範囲は広がり、ホープレスプラトゥ周辺だけではなく、大都市へ被害が及ぶかもしれない。
「というわけで、アンタの手助けが必要になるってわけ」
「討伐にか?」
「話が早くて助かる。出発予定は今日から10日後。平日だから、あんたの上司には公用外出になるように話をつけといてやるよ」
「俺はまだ行くとは言ってない……」
ジャックは口でそうは言うものの、数年前に行ったホープレスプラトゥの住民の姿を思い出し、胸が痛んだ。平和に生きていた中、襲った悲劇。
(あの人達は生き残れたのか……?)
「自分の領地の安全を守る気もない奴が領民に地代納めさせる資格あんの?」
「……っ」
まだ自分が領主になるとは決まってないとは言えなかった。ブレアが持つ領主の家の者としての責任感が自分にはないと宣言する事になるように思われたからだ。
「仲良くやろうぜ、この国を背負って立つ者同士さー」
ブレアの憎たらしい表情から目を離し、ジャックはガックリと脱力した。