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「隕石に元の姿を形成する魔術を仕込んでおき、それと量子化した魔獣を磁気を利用して閉じ込めた真空容器と共に破壊すると、魔獣が形成されます。悪魔崇拝を標榜する組織でこの召喚の儀をとり行う事は、会員の支持を得る事に大いに役立っているようですね」
「ちょっと待って、魔獣を量子化すると簡単に言うけど、そのキーになる魔獣を一体どこからを運んでくるの?まさかその辺にいるのを捕まえるとか?」
ローズウォールからアストロブレームへ移動する際に出現した魔獣はこの術を使っていたのではないだろうか?
モラルの無い金持ちが魔獣を使い、偶然を装って殺人を行える状況という事なのだ。
その危険性の高さに、焦りを覚える。
シエルはやや混乱気味にルパートに問いかけた。
「そのケースもあると思いますけど、たぶん異世界から連れてきているのではないかと……」
「ワームホールを開けて、異世界から魔獣を呼び込んでいるんじゃないよね?」
「そうなんじゃないかしら?ただ、それほど能力のある魔術師がこの国にいて、その人物が民間団体の危険な所業に加担していた事実に少しだけ寒々しくなるわ」
「でも、ワームホールを開く為には大量の負のエネルギーを必要とするのに、一体どうやって……」
「あなたには黙っていたけど、ここ数年間で何度も科学省は負のエネルギーを発生させる実験を行っていた。おそらく……成功したんじゃないかしら? 信じられないけど
」
アルマの苦虫をかみつぶしたような顔を見ながら、シエルは初めて聞く話に茫然とした。
「実験って、もしかして魔術を使って……?」
「そうよ」
「信じられない……、科学省か実験に参加していた魔術師から技術が漏れてるって事じゃない!」
「悪用が秘密結社にとどまるのか、他の組織にも広まっているのか……。取りあえず地獄の門への対処を優先させましょう」
「そうね。ルパート、パラサイト隕石に刻まれている量子化された魔獣を再形成する術式を私達が見る事は出来ない?記憶してきたなら教えてほしいの」
「俺の記憶力が良かったならそのような芸当をやってのけれるんですけど、残念ながら記憶力は並ですので……、あっ、でもパラサイト隕石に仕込まれた術式は見れるかもしれませんよ」
「どういう事?ルパートが持ってるから?」
「これから競り落として手に入れればいいんです!」
「競り落とすって、……どこで?」
「本日の19時より、地獄の門会員限定のオークションがアストロブレーム内の、貴族の邸宅で行われます。参加して競り落としてやりましょう」
ルパートは妙に楽しそうだ。
「いいんじゃない? オークションなんて久しぶりだし、わたくしが参加しようかしら」
シエルはアルマのウキウキした様子を見ながら、記憶の中に引っかかりを覚えた。
(隕石を競り落とした人、最近会ったような……)
記憶を探ると、恐ろし気な赤い美女に思い当たった。ジャックの昔の彼女、エレインと呼ばれた女性だ。
その美しい顔を思い出すと、不思議と気分がモヤモヤとしてくる。
(この気分の悪さ、隕石から魔術的な気配を感じたからかな……)
釈然としない気持ちになるが、今は考えない事にした。
それはさておき、オークションというイベントにシエルは興味があった。
アルマとルパートが楽しげなのは、札束で殴り合う事が楽しいからに違いない。
「私も行きたいって言ったら怒る……?」
シエルはアルマとハドリーの顔を伺った。
「駄目です! あなたは自分の身の価値を知るべきです。もし何か有ったらどうするんですか!?胡散臭い秘密結社のアジトに乗り込んで、もし何かあったらどうするんですか!」
(やっぱり駄目かぁ……)
ハドリーのヒステリックな叫び声にシエルは耳は塞いだ。
ガッカリしていると、アルマと目が合った。
(?)
その含み笑いは何かを企んでいるような顔だ。
次は何を企んでいるやら……だ。
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ストックが無くなってきたので、2日に1回更新になります。。。申し訳ないです。