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従者のルパートはアルマの命を受け、またしても危険な仕事を請け負ってしまっているようだった。 思い返してみると、確かにルパートはローズウォールに住んでいた時に時々いなかったかもしれない。
シエルはルパートがいつかこの家に愛想を尽かして出ていくのではないかとハラハラしてしまう。
すぐに表れたルパートは、いつもどおり人好きのする笑顔を浮かべていた。
直前に潜入先に行っていたのか、貴族の子弟の様な布の素材のいいベストとスラックス姿だ。
「お待たせしました。何か御用でしょうか?」
「ルパート、あなたの潜入先の事について教えてちょうだい」
「ああ、地獄の門ですね。首尾よくいってますよ。おそらく」
「潜入って、危険はないの?」
「危険は特に感じた事はないですね。組織の構成員は一部を除いて皆さん育ちがいいですから平和なもんです。俺の素性すら怪しみませんよ」
心配するシエルにルパートは大丈夫だという様に頷いてみせた。
ルパートは華奢な青年だが、いざとなったらかなり強いので、普通ならシエルは心配する必要なんかないのだ。
民間の中規模な組織くらいなら彼一人で壊滅させる事が出来るかもしれない。
「地獄の門クラブで何が行われているか教えてちょうだい」
「地獄の門は当初、ちょっとした刺激を求める上流階級の方々達によって作られた社交クラブだったようです。ですが、3年程前にクラブのグランドマスターが代替わりしてから、活動内容が変わってきたとか」
アルマに命じられたルパートは淡々と語りだした。
「その活動内容とは?」
「クラブには政財界の様々な方が所属しており、その活動は多岐に渡ります。例えば、株価や原油、鉱物価格の不正操作、政治家への働きかけ、他国への西ヘルジアの内部情報の横流しなど」
「まさしく国内の癌と言えるような活動内容ですね……」
ハドリーは呆れたように溜息を尽いた。政治家としては聞き逃せない様な内容だから当然と言えば当然かもしれない。
「そんなの経済活動として誰でもやってる事の範囲よ。わたくし達が聞きたい事は別なの。分かっているでしょう?」
「ええ、勿論。そこの調べは充分とは言えませんが、ただお耳に入れておきたい事があります。このクラブには、魔術師がバックについているかと」
「嘘……っ!?」
「やっぱりね」
驚愕するシエルに対して、アルマは合点がいったようだ。
「なんでやっぱり、なの?」
「今までだって手品等の子供だましの手法で 魔術を使っているように見せる事が出来た。でも地獄の門絡みの噂はよりグロテスクな内容なの。それこそ魔術的な何かを匂わせる様な……ね。だからこそ会員数を急激に増やせてるのだと思っていた。バックに魔術師がいるのは明白よ」
ルパートはポケットに突っ込んでいたヨレヨレの手帳を取り出して、ペラペラと捲った。
「アルマ様がおっしゃられている様に、やはり一般人は魔術のような事が出来るようになります。その中でも俺がやばいと思ったのは召喚を行う魔術ですね」
「召喚……って何を……?」
秘密結社は悪魔崇拝を謳っている。まさかとは思うが悪魔を召喚しているとでもいうのだろうか?
シエルはドキドキしながらルパートの回答を待った。
「召喚しているのは……、魔獣です」