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魔術師は一般人からは奇人変人扱いをされている一方で、命の危険を冒して魔獣討伐をしたり、技術の推進に力を貸してきていた。
アルマはそれをノブレス・オブリージュ、つまり貴族の役割の一つとして協力してきているようだったが、内心は違ったという事なのかもしれない。
「おばあちゃんは、今は魔術師である事を隠して生活している人達にも、堂々と魔術師として生活できるような環境を整えたいと考えているの?」
「その通りよ。魔術師を専門職の一つとしてこの国に、世界に認めさせるいい機会だと思うの。わたくしは魔術師の地位を向上させたい……。あなたにいつだったか教えたと思うけど、100年前この国が2つに分かれた内戦は実のところ反逆者側は魔術師の家系の貴族だった。魔術師として誇りを持って生きたいという派閥と魔術師である事を隠したい派閥が領地を巻き込んで争う事になった。当初反逆者側が数的にも圧倒的に不利だったにも関わらず、他国の介入で国土の分裂という所までもっていったのは、自分達が誇る魔術ではなくて古の大量殺戮兵器あってこそだったというのは皮肉に思えるけど」
「そうだったね……」
「そこまで魔術師達を思い詰めさせる事になったのは、今の王朝が頑なに魔術師の在り方を変えようとしないからよ」
王になったら、そこまで根本的な事を変えられるようになるのだろうか?
そんな事をして許されるのだろうか?と思う一方、シエルの胸にはふつふつと燃えるような思いが生まれてきていた。
(この国は変わるべきなのかな……)
シエルは幼少の頃の事を思い出していた。ローズウォールは比較的魔術師が多く住む都市だった。だが、やはり普通の人間と比べて魔術師の人口が圧倒的に少ないという事もあり、偏見の対象だった。幼馴染のオリバーですら、魔術師としてのシエルを認めてはくれず、変人だと思っていたくらいだった。
きっと他の魔術師も同じような事を思いながら暮らしている。陰ながらやっている魔術師としての仕事を認められたいと思わない人はいないはずだ。
(魔術師であることを公言し、王になる。これはきっと私にしかできない……)
もしかしたら時代の流れに逆らう事になるかもしれない。
でも、魔力を持つ者はこれから先もずっと生まれ続ける。
魔術師が偏見の対象のまま、科学技術が進歩したとしたら、今は対魔獣対抗手段として最も有効な魔術は科学兵器にとって代わり、魔術を使用する魔術師の立場はより危うくなるのではないだろうか?
もしかしたら、酷い迫害に合うという可能性だってなくはない……。
その前にこの国の魔術師の地位を明示的に向上させるべきなんだ。
科学省があるんだから今は民間団体である魔術師協会も国の官公庁の一つにしてもいいんじゃないだろうか?
最先端の科学技術と魔術技術が融合する。そんな国が有ってもいいはずだ。
胸に渦巻く思いは野望以外の何物でもない。
シエルは顔を上げ、真っ直ぐにアルマを見た。
アルマは作り物のような謎めいた笑いをやめ、ニッとシエルに笑った。
「お考えは分かりました……。元老院の中にも魔術を使え る方達と使えない方達がいらっしゃいます。どのような判断が下されるか待ちましょう」
それまで黙って様子をうかがっていたハドリーが疲れた様に頷いた。
「そうそう、アストロブレーム周辺の結界を強化しておいたのよ。これからは王都に招き入れた協会員の業務の一つに結界の維持が組み込まれるはずだから、外側からの魔獣の脅威は少なくなるわ」
「アストロブレーム内の安全確保に努めていただき、有難うございます」