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「あら?4日前の事件はお忘れかしら?近衛師団団長が起こした暗殺未遂事件。王宮内でどんな輩が潜んでいるか分からないから迂闊にシエルを連れていけないのよ」
ローズウォールにずっと引きこもっていたシエルの姿はまだ公開されておらず、まだ外を歩いても特に危険は感じない。だが、名前を明かして宮殿の中を歩き回るのは、どういう意図を持つ派閥があるのかハッキリとしないため、その辺の街中より命の危険がありそうだ。
「では宮殿に居を移すのもまだまだ先ですね」
「そうね。国王の指名は受けているけど、議会からの正式な決議は受けていないし、第1王子を担ぎ出そうという動きも心配よね」
「レオナルド様ですか……」
「ええ、あの子も大人しく領地に引っ込んでいればいいものを、魔力が無い者としてアルバートに共感でも抱いているのかもしれないわね」
現国王の弟君レオナルドの話はシエルも聞いていた。
直系長子相続を重視し、第1王子のアルバートを国王にしようと議会メンバーに働きかけているらしい。恐らく先日シエルを襲ってきたモス卿もこのレオナルドの派閥についているのだと思われるが、彼らの働きで議会の決議が遅延するのは明らかだった。
現国王からの承認はどうするのかと思わなくもないが、近い将来国王が亡くなった後の混乱の時期に何か手を打つ予定なのだろうか?
「私は、以前現国王から意向を聞いており、シエル様以外国王はあり得ないと考えています……。スムーズに即位していただく事は出来ないものでしょうか? 何かあってからじゃ遅いのではないかと」
「議会を構成する元老院と代議院のうち、国王選出等の国のトップに関するに実質的な選出権を与えられているのは元老院なの。代議院は地方予算や地方行政についての決議の優先度が高くされていて、国に関しての事は元老院から流れて来る決議済みの議案をただ眼くら判を捺すだけ。実質的には元老院の過半数の首を縦に振らせればいいだけよ」
「元老院の票数を集める手立ては立っているんですか?」
「貴族を中心に構成される元老院には、公にしていない魔術師が複数名いるの。だからその方たちに裏から働きかけてもらう。それからわたくしロビイストとも繋がりがあるからそちらから利益をぶら下げて釣ってもらうとかね。それでも駄目なら……」
アルマは扇子で自らの首を切るような動作をし、クスリと笑った。
「エグイ……」
「おばあちゃん、お願いだから過激な事はしないで……」
アルマのあまりの傍若無人ぷりにシエルは顔を覆った。
「そこまでしなくてもいいよ! 私、アルバート様に即位してもらってもいいの。だって私には志が無いもの……。この国をよくしようとするお気持ちがあるんだったら、彼が王になるべきだと思う」
アルマが自分の為に手を汚すくらいなら、自分は王位なんかいらない。
でももう巻き込まれてしまっているから、王にならないとしたら、どこかに幽閉されてしまうのだろうか?
(自由が奪われるくらいなら東に渡って、お母さんに会いに行くという選択もありなのかな……)
「あなたが魔術師だから王位に就くべきという理由以外にも、わたくしはあなたに成し遂げて欲しい事業があるの。だからわたくしが出来る範囲で押し上げたいのよ」
「え……?」
「アストロブレームを王都及び魔術の中心都市として行政の在り方を整えるいい機会かもしれないと思ってるの。今までのアースラメント家は魔術師が王族にいるという事を隠し、ただの普通の人間が起こしたように見せた奇跡的な業績で民心を得てきたけど、曲解されて魔術師である事を隠さなければならないという風潮になっている事は、差別を生むきっかけになっているわ。わたくしはソロソロそこを変えるべきだと思う」
シエルに国を根本から変えてほしいのだろうか?