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6-2

 部屋の中にページを捲る音と、紙にペンを走らせる音のみが響く。

 アルマと2人きりで静かな時間を過ごすのは久しぶりかもしれない。

 アストロブレームに来てから何かと忙しく、お互いの外出するタイミング等で、なかなかこうした時間がとれなかった。

 だから部屋を訪れたメイドから来客がある事を聞いた時、少しだけがっかりした。


「マイケル・ハドリー様がいらっしゃいました。どちらにお通ししましょうか?」


「ここに通していいわよ」


「宮内大臣をこのようにプライベートな部屋にお通ししても大丈夫ですか?」


 少し緊張した面持ちのメイドをアルマはかけていた眼鏡を下げて見た。


「問題ないわ。ここは執務室として利用しているし、向こうはもてなされたくて来たわけではないでしょう」

 

 アルマの効率主義な思考は王室出身の女性とは到底思えないのだが、シエルも面倒事は好きではないので、アルマのやり方に合わせておけば大抵不快感を最小限にしてやり過ごせる。 


 程なくして現れたハドリーはスーツを一部の隙も無く着こなしている。

 艶のある茶髪を後ろになでつけており、怜悧な顔に掛けたモノクルが印象的だ。

 見た目はまだ30代に見えるのだが、大臣職についているのだから、見た目よりももっと年をとっているかもしれない。シエルが嫌いなオッサン香水の臭いがするのでたぶんそうだ。


 シエルは宮内大臣マイケル・ハドリーと一年くらい前に一度顔を合わせていた。

 彼は大臣就任時にローズウォールを訪れたのだ。

 神経質そうでシエルは少し苦手なタイプだった。

 とはいっても、宮内大臣とは王室業務全般に携わり、各大臣や元老院とのパイプ役を果たす、いわば国王の執事。シエルは今後ハドリーとうまく付き合わなければならない。

 

 ハドリーを迎えようと立ち上がったシエルをアルマは座るように言った。

 上下関係を示すべきだという事らしい。

 そういうものなのだろうか?


  ハドリーが部屋に入った瞬間匂った香りが不快で、つい手に持った本を顔の前でパタパタと振ってしまったが、ハドリーと目が合ったので本をさっとテーブルに置いた。


「おはようございます。シエル様、アルマ様。このように早い時間に来てしまい、申し訳ありません」


 ハドリーは無礼なシエルの態度に気分を害した様子もなく、にこやかに挨拶をした。

  

「……おはようございます。ハドリーさん」


「おはよう、ハドリー。今日はどのような要件?」


「お二人がどのように過ごされているのか様子を見に来たかったのと、今後のシエル様のご予定を少し話し合えればと思いまして」


 自分の名前を出されたシエルは、居心地の悪さを感じるものの、当事者が席を立つわけにもいかない。


「そう。あなたもソファに座ったらいいわ。楽にして話しましょう」


「ではお言葉に甘えて……」


 ハドリーはシエルが座るソファとは逆側に腰かけた。

 メイドがティーセットを準備し始めたために会話が途切れ、3人の間に相手の出方を伺う様な間が生まれた。

 アルマと2人きりの時は沈黙が心地よく感じるのに、1人増えただけで部屋に満ちる静寂が気まずく感じる。


「昨日、国王陛下のお見舞いに行ったのよ」


「その様ですね。国王陛下は眠りについておられ、お話できなかったとか」


 口火を切ったのはアルマだった。

 アルマは昨日シエルが寺院に出かけた後宮殿に行き、国王を見舞ったらしい。

 

「国王陛下は、ずっと寝たきりなんですか?」


「ええ、医者はもう1か月も持つまいと言ってます」


 ハドリーはシエルの問いに目を伏せながら答えた。

 仕えてきた君主が弱る様子を見ているのは辛いのかもしれない。


「国王陛下が生きている間になるべく会いに行きたいわ……」


「おばあちゃん、私も見舞いに行った方がいいよね?」


「そうね、でももう少し宮殿内の様子等が明確になってから行った方がいいかもしれないわ。デリケートな時期だから……」


「そうなのね」


「おそらく、宮殿内はお二方が想像されているより歓迎ムードなのではないかと思います」

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