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1-3

「アルマ様、そろそろ出発しなければ遅れてしまいます」


 気配を消すようにじっとしていたルパートが、アルマへ出発を促した。


「ちょっとだけ待ってちょうだい。シエル、呪印の状態は?」


「12個全部回ってきたんだけど、最後に行った山羊のマークの呪印が消えかかっ てて、それが原因で結界が解除されたんだと思う。私の他に確認してくれていた魔術師達はどうなったんだろう?」


「協会の魔術師達は一度うちに報告しにきてくれて、あなたが戻らないから、森に捜索に入ったわ」


「本当?大丈夫かしら」


「ヨウムに連絡を頼みましょう」


「リョウカイ!」


 いつのまにかアルマの腕に移動していたヨウムは羽を羽ばたかせて森の方に飛んで行った。


「他に入り込んだ魔獣がいないか心配だけれど、それは他の魔術師に捜索を依頼しておくわ。今からちょうど魔術師協会の会合に行くところだし。ジャックさんの話は明日以降に聞きましょう」


 ずいぶん遅い時間の会合だが、ローズウォールの魔術師達は昼間働きに出ている者も多いので、彼らに配慮してという事なのだろう。


「ジャックさんはウチに泊める?」


「そうね、車に乗せて街まで連れて行ってもいいけど、貴族のぼっちゃんを汚らしいホテルに泊めるのも寝ざめが悪いし、うちに泊まってもらいましょう」


「勝手に押しかけてきたのに、すいません……。俺は汚いホテルでもいいんですけど、せっかくだからアルマさんのお宅にお邪魔したいですね」


 ジャックはアルマの姿に圧倒されながらも、受け入れつつあるのだろうか?

 過去には、アルマの実年齢を嘘だと思い、言いがかりをつけてくる人間が何人もいた。


 魔術の事に拒否感がない事からも思ったが、ジャックはかなり柔軟な人なのかもしれない。


「ジャックさん貴族なんですね」


「一応な。でも俺は次男で、爵位は長男が相続するから自分は貴族って感覚はあんまりないかな。最近は家の状況がちょっと違ってきてるけど」


 含みある言い方は、少しだけシエルの好奇心をくすぐる。


 明日アルマとジャックの話の際に自分も混ざったら嫌がられるだろうか?


 アルマはヨウムに執事のグレッグへの伝言を伝え飛ばした後、再びルパードの手を借り自動車に乗り込んで行ってしまう。


「ではお2人さんご機嫌よう。気を付けて屋敷まで戻るのよ」


 美しい微笑みを残し、アルマは去っていった。



◇◆


 ジャックから王都の話等を聞きながら、シエルは屋敷の自室に辿りついた。

 疲れが酷かったがアルマの車で送ってもらえばよかったと後悔した。


 ジャックと一緒に夕飯を食べた後、シエルは大人しく自室に引っ込んだ。 


 机の上に置いてある箱の中に、今日使った水晶を一つづつ戻していく。


 この部屋は年若い女性が好むような内装からはかけ離れていた。

 オレンジ色のランプに照らされた部屋は、壁に一列に奇妙な形の杖が複数立てかけられているし、飾り棚には怪しげな色合いのビンが大量に詰め込まれている。本棚は分厚い本が並び、その辺でひろったような石ころや水晶、中には値の張りそうな琥珀なども隙間に収められていた。

 花のいい匂いもするが、シエルの場合ドライフラワーをリースにするのではなく、天井からそのまま束にして吊るしている。シエルはこの部屋が落ち着くのだが、新入りのメイド等は驚く事もあった。


 シエルはデスクの上に自分へ届けられた手紙が乗せられているのに気が付いた。

 宛先は自分だが、差出人名が書いてない。

 裏返してみると、赤い封蝋が目についた。そこに捺されている印璽に、シエルは覚えがあった。宮内大臣専用の紋章だ。

 それを見るとシエルは一気に気分が沈んだ。

 しかし手紙を無視することはできないのだ。


 魔法陣を試し描きした紙や分厚い書籍で散らかった机の上からペーパーナイフを探し出し、封筒を開けて上質の紙の便せんを取り出せた。


 書き綴られた文章を読み、シエルは頭を抱えた。


「最悪……」


 王都への呼び出しは以前から話があったのに、早まりそうだ。

 近い将来、自分の身に降りかかるであろう災いを予感せざるをえなかった。



◇◆◇


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