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王都アストロブレーム
太古の時代、この地には巨大な隕石が落下し、長く人間が住むことの出来ない不毛の大地だった。
旧王朝の時代に王の騎士達へ領地が分け与えられる際、最も有力な騎士ハロルド・アースラメントにこの地が与えられたのは、その影響力を削ぐためだったと言われている。
しかしこの地は、領主となったアースラメントの英知により生まれ変わる。
草木すら生えぬ不毛の大地は農作物が収穫できるほどに整備開拓され、一次産業を中心とした雇用を生む事で移住者を呼び込んた。
領地として最低限の体裁が出来たアストロブレームは次に異様に多く採れるパラサイト隕石を商材に外貨を稼いだ。
その財源を利用して兵や兵器の増強をし、自らと同じように旧王朝に不満を持つ者に手を回し、ついに王位の簒奪まで成し得る。
その短期間での領地の財政立て直しとクーデターはまさに奇跡。
ハロルド・アースラメントは偉大な業績を礎にヘルジア王国の絶対的な君主として君臨することが出来たのだった。
そんなアースラメント家も1400年もの時が経ち、約100年前に東西に国が分割するという大失態があったものの、王位は揺るがぬものになっていた。
国境付近の東側との小さな小競り合いを抜かせばおおむね平和を維持出来ており、アストロブレームの住民達の最近の関心事と言えば、病に伏せる王の容体と次期国王についてだ。
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「マスター聞いてくれよ。次期国王はアルバート様じゃないかもしれない!」
早朝B&Bのドアを乱暴に開いて入って来たでっぷりとした中年の男もまた開口一番にお決まりのネタを話し出した。
白銀の髪の少年は、無遠慮に自分のテーブルに相席してきたその男を珍しいアメジストの瞳でギロリと睨んだ。
「あんた何勝手に……」
「アルバート様が国王にならないなら、第二王子様が即位するのか?」
苛立つ少年を無視し、マスターと中年の客は会話を続ける。
「いやいや、現国王のいとこ姪が国王に即位するかもしれないんだ!」
「何でそんな遠縁の方が国王になるんだ……?」
「さぁな……?もしかしたら王子2人がよっぽど無能か性的不能者なんじゃないか?まともじゃねーから即位できないんだろうよ」
「あり得るな」
朝っぱらから下品な会話でゲラゲラと笑い合う中年2人に、プラチナブロンドの少年は侮蔑の視線を投げ、大きな音をたてて席を立った。
「ごっそさん。くだらねー会話に興じる暇があるなら料理の腕でも磨け」
不快げに眉を顰めるマスターを一瞥し、少年は外に出る。
「この国の住民共の平和ボケ具合は笑えるレベルだな……」
ボソリと呟かれた独り言を聞いた者は誰もいなかった。