4-13
「謝罪なんて必要ないわ!あなたが無事なのがとても嬉しいから。」
「シエル様……」
ルパートは人懐こそうな顔を破顔させた。
そうして笑うとルパートはかなり若い青年に見える。
今まで浮かべていた笑顔が作り笑いで、こっちが本当の笑顔なのかもしれない。
「お2人さん、再会を喜ぶのはいいと思うけど、まだ2匹残ってるからな?」
無粋かと思ったが、ジャックは一応伝えた。
「2匹だけだったら殺ってしまいましょう」
ルパートは好戦的な笑みを浮かべている。
「ルパートならどうやって2匹と戦う?」
「シエル様、そうですね。例えばこうです」
返事を言い終わらないうちに、ルパートの手から2本の鎖が上空に伸びていった。
鎖に気づいたワイバーン達はそれらを避けようと動くが、鎖もまた生き物の様に、2匹の内1匹を捉え、胴に巻き付いた。
捉えられたワイバーンは無茶苦茶に暴れまわり、騒々しく騒ぎ立てる。
「痺れてもらいますよ」
ルパートの顔がニタリと性質の悪いものに変わり、手から紫のプラズマが溢れ、瞬く間に鎖を伝って登っていった。
ワイバーンまでプラズマが届き、バチリと大きな音が響いた。
感電したワイバーンが力を無く地面に墜落する。
「ルパート危ない!!」
ルパートに向かって急降下してきた最後の一匹に気づき、シエルは悲鳴を上げた。
ジャックは降下するワイバーンに銃で迎撃するものの、ただの銃弾はワイバーンにかすり傷を負わせる程度にしか効かない。
ワイバーンは銃弾を煩わしく思ったのか方向を変え、ジャックを攻撃対象にした。
ジャックは大きく踏み込んでワイバーンにエクスカリバーを叩きこもうとするが、ヒラリとかわされた。
大剣を扱いきれていないジャックは遠心力に負けてすぐに体制を直すことが出来ない。
「クソッ!」
体制を崩しているジャックを見逃さず、ワイバーンは、飛び掛かってくる。
ワイバーンがジャックに当たる前にジャックの前には大きな岩が現れ、飛んで来たワイバーンはそれに激しくぶつかった。
「やった!!今の私のキャスト、最短かもしれません!!」
「シエルが守ってくれたんだな、有難う」
「いえいえ!」
魔術が解け、岩がズズズ……と地面に沈む。
ジャックの願い虚しく、現れたワイバーンは倒れておらず、臨戦態勢をとっていた。
地面に岩が完全に沈み込むより前に、ジャックに飛び掛かってくる。
ジャックはとっさにエクスカリバーを盾代わりに構えた。
ワイバーンが当たって来た衝撃を受け止めたはいいが、力のせめぎ合いで身動きが出来ない。
(反撃できねぇ……)
ワイバーンの凶悪な顔が間近にある。
(うわ……まじで顔が無理……)
ジャックが辟易としていると、いつのまにかルパートが隣に立っていた。
「助太刀します」
ルパートは手に持つ拳銃を無造作にワイバーンの開いた口に突っ込んだ。
ガチャっと引き金を引く音がしたと思ったら、ワイバーンがあり得ないほど後方に吹っ飛んだ。
見るのもおぞましい程にワイバーンの顔はグチャグチャになっていて、思わずジャックは顔を背けた。
「何て威力だ……」
「いいでしょう、これ。シエル様が水晶に魔術を閉じ込める技術を活かして、魔力を圧縮した銃弾を開発してくれたんです」
「シエルは技術者なのか?」
「そんな大層なものではないのです!」
「見かけによらず凄いな……」
「見かけによらずって、今までどう見てたんですか!?」
「いや、別に深い意味はないけど……」
「シエルさんの発想力は天才的です。まだ実戦経験は少ないので戦闘力はあまりないかもしれませんが、そこは自分がフォローすればいいと思ってますので」
「ルパート……、私は別に戦場に行くわけではないわよ」
「あれ?そうでしたっけ?アルマ様から私はシエル様は戦いに向かわれると聞いていたんですけど。」
「それは言葉の綾ってものよ!」
シエルに訂正されてもルパートはキョトンとしている。
かなり天然かもしれない。
「それにしても何で急にワイバーンは3体に増えたんだろうな……」
「おそらくアルマ様の方に行っていた個体達が集まってきたんです。初めこちらにいたワイバーンがシエル様の居場所を伝えたのではないかと」
ジャックの疑問にルパートが答えてくれた。
「おばあちゃん、大丈夫かな……」
シエルがポツリと呟いた。
「あの方は大丈夫です。何度となく死線をかいくぐって生きてこられた方ですからね」
「そっか……、そうだよね!」
ジャックはアルマの今までの経歴を知りたいような、知りたくないような気分になる。
今更ながら、あの見た目と行動、好戦的な性格が50歳オーバーとは信じがたい。
行動と性格が変わっているのはアルマに限った話ではなく、シエルについても言える。
育てたのがあのアルマだから仕方がないのかもしれない。
でもその破天荒ぶりがジャックにとっては全くマイナスではないのだ。不思議な事に。
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