4-12
刺客達のうち、さっき自分で縄を切った男がワイバーンの後ろ脚に持ち上げられていた。
「助けてくれ!!」
身勝手な事を言う男に腹が立つ。
彼の仲間は見捨て、散り散りに走って逃げて行っていた。
「私を狙いなさいよ!」
「シエル!やめろ!」
「私に指図しないでくれます!?」
「今はそれどころじゃないだろ!?」
シエルの顔をちゃんと見てみると、恐怖を隠そうと必死の顔をしていた。
ジャックはその顔をみると、逆に冷静になっていった。
ワイバーンは掴んでいた男を離し、狙うべきものを正確に特定し、二人の正面で羽ばたいている。
顔をよく見ると、目が赤い。
ジャックは今まで日中に魔獣と遭遇した事がなかった。
だから思い出した。魔獣は赤い目を特徴としているのだ。
(クソ……今気づきたくない事を気づいちまったじゃないか……)
ジャックは昨日同じ瞳を見ている。
心に静かな絶望が広がっていくけど、それをどうにかねじ伏せた。
杖を強く握りしめるシエルの前に出て、エクスカリバーを顔の右側に剣先を正面にして構える。
「危ないですよ!後ろに下がってください!」
「君の今の状態、戦えると思えない。後に下がった方がいいのは君だ」
「……っ!」
ワイバーンが威嚇するような唸り声を上げ、シエルを目掛けて急下降してくる。
それをエクスカリバーの長い刀身を活かして防ぎ、剣が後ろ脚で掴まれる前にクロスしていた手を解く動きで回転させ、ワイバーンの脚を切りつけた。
エクスカリバーは予想以上の切れ味を見せ、ワイバーンの片脚が胴から千切れ飛んだ。
不思議な事に、この剣を使っていると重さの感覚が軽減されるようだ。
ワイバーンの攻撃を防いだ時もワイバーンの体重は支えるのが無理なほどには感じなかった。
エクスカリバーの不思議な力なのかもしれない。
ワイバーンは苦痛の叫び声をあげ、上空に舞い上がった。
「ジャックさん、剣術得意なんですね」
「いや、全然。思い出しながらやってるだけだから」
ワイバーンを見上げると、胸を反らし、膨らませていた。
ワイバーンが口を大きく開き、黒いブレスを2人に吐き出すと、ジャックの背後からシエルが白い閃光をワイバーンを目掛けて放った。黒い霧を破り、ワイバーンの翼を貫いた。
ワイバーンは地面に落下し、もがく。
ジャックはワイバーンが首をもたげたタイミングでエクスカリバーを大きく薙ぎ、胴体から切断した。
切れた首からはどす黒い血が噴き出す。
ジャックは慌てて血をかぶらないようにシエルの元まで戻った。
「アイツはもう戦闘不能だよな……?」
「ええ、でももう2匹います!」
シエルの指さした方向を見ると、上空で2匹のワイバーンが旋回していた。
「列車に戻ろう。さっきの刺客はもう逃げてる。アルマさんが来るまでならしのげるだろう」
先ほどシエルとヨウムが車体の強化の術を維持していてくれたお陰でまだ列車はつぶれていなかった。
「そうですね。流石に2体相手するのはきついかもしれません」
ジャックとシエルが話していると、車両の入り口から灰色の物体がふらふらと飛び出て、ポトリと落ちるのが見えた。
ホコリの塊かと思ったが、よく見るとホコリではなく、ヨウムだった。
仰向けに倒れている。
「魔力を使いすぎたんだわ!」
シエルはヨウムを両手で持ち上げ、ポシェットの中に突っ込んだ。
「そんな扱いでいいの!?」
「いつもこうやってるから大丈夫です!」
よく見るとヨウムの顔が隙間から出ている。呼吸は大丈夫そうではある。
ヨウムが倒れたという事は列車に術をかけるのはシエル一人だけという事になる。
入るべきだろうか?それとも入ったらワイバーン達の思うツボか?
「シエル様!ジャックさん!」
2人の名前を呼びながら走って来る者がいた。
声の方向を見ると、スラリとした体躯の青年が運転室側から走ってくる。
ローサー家のフットマンであるルパートだった。
「ルパート!無事だったのね!」
「シエル様、遅くなって申し訳ありません。蒸気機関車の運転に慣れず、停車時の安全を確認するのに時間をとられました」
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