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4-8

「ケインズさん、最寄りの駅までどのくらいかかるかしら?」


「だいたい20分くらいかかりますかね」


 アルマの質問を投げかけられたケインズは、長椅子の影からヒョコっと顔を出した。


「20分?それなら一度停まってもらって、降りた方がいいかもしれないわね」



「本来停まる予定の駅ではないので、運転士に連絡してあげないといけませんね」



「運転士に連絡する事が出来るんですか?」


 ジャックは一号車と運転室は容易に行き来出来ないイメージを持っているため、聞いてみる事にした。


「1号車つまりこの車両に磁石式電話機があるので、運転室へ連絡が可能です」


 ジャックはようやく1号車まで来た理由が分かった。

 最後尾の車両も電話機があったと記憶していたが、モス卿の裏切りの件があったため、さっさと移動したのだろう。


「私が一度連絡してみましょう。電話局を介さないので、すぐに繋がりますよ」


 ケインズが受話器を耳に当て、ハンドルを回す。

 ハンドルを回してから、数秒たち、数十秒たち、1分ほどたってから、ケインズは首を傾げた。


「あれ?おかしいな。作業中なんですかね。誰も出ません」


 ケインズがもう一度ハンドルを回し、かけ直すが、やはり数分待っても誰も出ないようだ。


「壊れているのではなくて?」


 アルマが眉を寄せ、ケインズを見つめた。


「いえ、そんなはずは……」


「俺が屋根伝いに運転室の様子を見に行きます」


 ルパートが窓を開けながら言った。


「危険すぎるんじゃないか?」


 なかなかにリスキーな事を言いだしたルパートに、ジャックは声をかけた。

 1号車と運転室の間には炭水車があり、すんなりと行けない。

 走行中の列車の屋根は風圧や煙がかかるはずなのだ。


「心配いりません。もしもの事を考えたら戦闘力がそこそこある自分が最適なんです」


「ルパート、宜しく頼むわ。気を付けてね」


「アルマ様、お任せ下さい。ケインズさん、俺が運転室に辿り着いたらまた電話を鳴らしてもらっていいです?」


「分かりました。ご武運を!」


「行ってきます」


 ルパートは窓枠に足をかけ、するりと屋根に上って行ってしまった。

 ジャックは窓から顔を出し、ルパートの様子を観察しようとしたが、煙がこちら側にたなびいてきたので、一度窓を閉める事にした。


 車内に目を戻すと、シエルがさきほどアルマに倒された刺客の傍にしゃがみこんでいた。


「シエルは何をしているんだ?」


「この子、刺客の手当てをしているのよ」


 シエルの代わりに、アルマが呆れ顔で答えた。


「なんだって!?」


「べ、別にいいじゃないですか。目の前で死んでいくのを黙っている事は出来ないです」


 シエルの手の平から発せられる白い光は小さな魔法陣を描き、男の首の傷口を埋めていっていた。


「この人はまだ息がある。助かるかもしれないから……」


「あなたねぇ……。そんなに甘っちょろい子に育てた覚えはないのだけど」


「甘っちょろくてもいいじゃない! 私におばあちゃんの理想を押し付けないで!」



 シエルに言い返され、アルマが驚いたような顔をした。

 もしかしたら今まであまりシエルに反抗された事がないのかもしれない。


(この2人の関係、少し複雑なのか?)


 ジャックとしては、口を挟む事も出来ない展開に気まずい思いだ。


 特にやる事もなく、治療を受ける刺客を見つめていると、青白くなっていた顔に生気が戻った。


「これでよし!」


 シエルはその男にも蔦を巻き付けて、自由を奪った。

 一応刺客に対しての危機感は持っているらしい。


「皆さん、ルパート氏が運転室に入って行きました!電話を鳴らしてみますね」


 ケインズがさきほど開いていた窓と逆の窓からルパートの様子を確認し、また電話機を操作した。

 ジャックは固唾を飲んで様子をうかがった。


「……、あ、ルパートさん!」


「ルパートさん、電話に出たんですか?」



「出ましたよ!」


 ケインズが電話の向こうのルパートに話しかけている。

 無事に辿りつけたみたいで、ジャックはホッとした。


「え……、それは本当ですか!? はい……、分かりました。それはこちらで話し合ってみますね」


 ケインズは青い顔をしてこちらを振り返った。


(まずい事でも起こってたのか?)


「落ち着いて聞いてください。運転士2人が殺されているみたいです。運転室にいた刺客が残っていたみたいですが、ルパートさんは何とか排除して侵入したみたいです」


「嘘だろ……?」


 これが落ち着いていられようか?ジャックは今聞いた事が信じられず、思わずケインズの顔を凝視してしまった。


「俺たちの仲間が運転室に殺しに行ったんだ」


 蔦でぐるぐる巻きにされている刺客の一人が気味の悪い笑みを浮かべながら言った。


「一般人まで巻き込むなんて……」


 青ざめた顔で視線を落とすシエルが、ポツリと呟いた。

 確かにその通りだ。だけど自分達の身に迫った危険を優先して考えるべきなのだ。


「一般人を殺した事も罪深いが、運転士がいないこの列車はどうなる?」


 シエルの言うように、この件に直接関係ない人まで巻き込まれ始めている事に危機感を感じるし、さらに悪いことに、運転士2人が死んだ事でこの列車の安全性のリスクがこの上なく高まった。

 一般人への犠牲が大きく増えてしまうかもしれない。


 車内が何とも言えない嫌な空気に包まれた。



「ルパートに運転させたらいいわ。あの子は蒸気機関車の運転の訓練を受けているはずよ」


「無茶です。運転は最低2人いないと……。石炭や蒸気を調整する人間が必要なんです」


 アルマの提案はすぐにケインズに否定された。


「そうなのね……。ルパートは一応魔術を使えるけど、魔術を使って一人足りない分を補うなんてことはできないのかしら?」


「俺も運転室に行きますか?」


 ジャックは蒸気機関車の運転技術はないが、石炭を火にかける作業くらいは手伝えそうな気がした。


「それでもいいのかもしれませんが、蒸気のメーターまで見る必要がありますよ? 想像されてるより、プロとしての動きが求められるんです。ルパートさんがその辺の知識があり、ジャックさんに指示するというならまだ良さそうですが……」


「ここでジッとしているのも手持ち無沙汰なので、とりあえず行ってみます」


「ジャックさん、気を付けてくださいね。って、わわ!!」


 ジャックはシエルに、エクスカリバーを手渡した。



「流石にこれを持って運転室まで行くのは大変そうだから、預かってほしい」


 ジャックの顔を戸惑った様に見上げるシエルに、ジャックは出来る限り明るく笑いかけた。


 この剣はジャックだけで手に入れた物じゃない。

 シエルと2人で手に入れた。だから預けるなら彼女しか考えられないのだ。


「分かりました!」


 シエルが頷くのをしっかり確認してから、ジャックは窓枠に足を乗せた。




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