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1-1

 シエルはぼんやりした意識の中で、自分が不安定に上下に揺れているのを感じる。

 背中と膝が支えられている。


 シエルはブラブラと揺れる自分の腕が気になり、持ち上げてみると、ちょうどよく布の切れ端をつかめたので、ぎゅっと掴んで頬を寄せるようにする。

すると、何だかちょうどいい温もりを感じた。


「あったかい……」


「お……おい!」


(なんだろこの匂い……。あ、あれか)


「オッサン用の……香水の匂い……?」


「はぁ!?」


 耳元で響いた大音声に驚いて、パチリと目を開くと、間近からシエルを睨みつけてくる男の顔があった。


「わわ!!」


 改めて状況を確認してみると、暗闇の中でシエルは男に抱きかかえられている。


(何この状況!! お姫様だっこってやつ!?)


 シエルは恋愛小説を読んでこのような抱きかかえられ方を知っていたが、記憶が間違ってないならもっとロマンティックなやつのはずだ。

 間違っても、恐ろしい形相で睨まれながらされる事ではない。


「誰でしょう……?」


 この男が誰なのか思い出そうとするが、すぐには出てこなかった。


「忘れたのか? さっき俺を助けてくれただろ?」


 言われてみると、確かに男の顔には覚えがあった。さっきは緊急時だったので、マジマジとはみてなかったが、改めて見ると男の顔立ちは整っているし、都会的だ。


 切れ長の目はまっすぐにシエルを見ていた。



「さっきの人ですね!」


「そうだけど、俺の香水は君の好みの臭いじゃないみたいなんで、降ろしていいか? 正直重いし」



 重いと言われた事に少し傷つくものの、抱きかかえられている状況も恥ずかしい。


「降ろしてください!」


「はいはい」


 男は適当な返事をするわりに、シエルをそっと地面に降ろしてくれた。



「この周辺に住んでるんだろ? 送るから案内してくれ」


「ええと……、ここがどこなのか分からないです……」


「嘘だろ!? 俺も君が現れた方の道を歩いてるだけだぞ」


「どうしよう……」

 シエルが困っていると、頭上から羽音が聞こえた。

 見上げてみるとと、良く知った姿。祖母の使い魔のヨウムだ。


「ヨウム!」


「シエル!」


「迎えにきてくれたの?」


「ソウダ。ホメロ」


 ヨウムはシエルの肩に止まり、得意げに胸を張った。

 正直知らない男と2人きりなのは心細かったので、安心感が半端ない。


 安心感からか、急に色々な事が気になってくる。

 さっきの戦闘後、どのくらいの間眠っていったんだろうか?結界を確認していた他の魔術師達はどうしているのか?


 (まずは明かりを灯さないと……)


 暗がりの道中では迷うことがあるし、足元も危険だ。その中での灯は、野生の獣除けにもなるだろう。

 というか、何よりも危機感を持たねばならない対象はこの男だと思い至った。

 なぜ普段人がほとんど踏み入れないような領域にいたのだろうか。

 男が不審な行動をしたらすぐに対応できるように、周囲を明かるくしたい。


 シエルは杖の先にはめてある水晶から魔力が消えていることを確認すると、それを取り外し、エプロンドレスのポケットに入れた。その代わりに、腰に紐で下げてある2個の水晶の中から角が少ない方を選んで杖にはめようとするが、なかなかうまくいかない。

 水晶に彫ってある筋と杖の爪の形状が微妙に違ってるのだ。2つが擦れてガリガリと不快な音が漏れ出てしまう。


「何してるんだ?」


 男が不審がって近寄ってくる。


「ええと、この水晶を杖にはめたくて……」


「水晶? 貸してみろ」


「え、でも……」


 軽く抵抗したシエルから男は杖も水晶も奪いとる。


(どうしよう……。一番早く発動出来る魔法はなんだっけ?)


 先ほど結界を再構築させるための魔術でかなりの量の魔力を使っていて、シエルはまだ十分に使えるくらいの魔力が戻ってきていなかった。シエルが身構え、ぐるぐると悩んでいるうちに、男は簡単に水晶の装着に成功できたようだ。


「ほら」


「……有難うございます」


 杖を返してもらい、シエルは 自分の被害妄想を恥じた。杖を返してくれたという事は、もしかしたらいい人なのかもしれない。


 シエルは気を取り直し、杖を掲げた。水晶部分に手を添え軽く魔力を込めると、水晶の中心部から白い光が溢れだし、周囲を照らす。


照らし出された風景にシエルは見覚えがあった。これなら家に帰りつけるだろう。


「それは魔法?」



「そうです。わずかな魔力で使えます」


「へぇ……、便利だな」


 辺りが明るく照らされた事で、2人の間にあった、とげとげしい雰囲気が緩和されたように感じる。

 照らし出された男の姿は、意外にも若く、オレンジ色の髪に澄んだ青い目の持ち主だった。



「さっきも魔法を使って、獣に噛まれた傷を治してくれたな?君は魔術師なのか?」


「一応魔術師のつもりでいます!」


 近くに凄い魔術師がいるため、シエルはいつでも自分を未熟に感じられていた。

 魔術で人の役に立ちたいと考えてもいるのに、空回る事が多い。



「あなたはなんで魔獣に襲われていたんですか?」


「人に会いに来たんだけど、道に迷っているところ、いきなり魔獣に襲い掛かられた。この辺りは物騒なんだな」


「そうですね。特定の条件が重なると魔獣への遭遇率が高くなるかと。特にこの地には”アレ”がありますし」


「”アレ”?」


「!」


 シエルはつい口を滑らせ、”アレ”の事を話してしまいそうになったことに慌てふためく。


「アレです!土着の神様みたいなものですよ!」


「ふぅん?」


 男はうさん臭そうにシエルを見ながらも、深くは追及してこなかった。



「俺はジャック・フォーサイズ。王都から人を探しに来た。ええと、君の名前は?」


「私はシエルと言います。シエル・ローサーです」



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