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客室を開くと、乗客がざわついていた。
ヨウムとルパートはジャック達を置いて一足先にアルマを追って行ったから、全力疾走していった若者とインコの姿に驚いているのかもしれない。
整然と並んだ長椅子の間をジャックはシエルの手を引き走った。
そうして何車両か突っ走ると、前の車両から乗客が大量に雪崩込んできた。
ジャックはその中の一人を捕まえ、話しかける。
「どうしたんです?なぜこんなに人が流れて来いてるんですか?」
「1号車で乱闘騒ぎが起こっているの。シエルと名乗る女の子が剣を振り回して暴れているわ。私の孫はあんな娘に育たないようにちゃんと教育しなければ。」
「な……っ!?私が乱闘……!?」
ジャックの後ろで憤るシエルに、教えてくれた婦人は首を傾げた。
「偶然同じ名前で不快だったようですね」
「なるほど……」
婦人に礼を言い、2人は再び1号車に向かった。
「誰かが君の名前を勝手に名乗っているかもしれない」
「もしかしたらおばあちゃんかもしれないです。暗殺者達の注目を浴びるようにわざと目立つように行動しているのかも」
人の波に押し流されないように、かき分けながら、2号車の中を進む。
「キャー!!」
1号車の方向から女性の鋭い悲鳴が聞こえてきた。
アルマの声ではない。
「何があったんでしょう?」
「分からない。俺たちも急ごう!」
「はい!」
ようやく正気に戻ったシエルと一号車の客室に踏み入れると、アルマとヨウム、ルパート、鉄道会社のケインズ。そして3名の男が相対していた。既に床に男が2人倒れている。
「お疲れ様、シエル、ジャックさん」
血で濡れたレイピアを携えたアルマは、優しげに2人に微笑んだ。
(床に倒れてるやつらはアルマさんがやったのか……)
「おばあちゃん!その人達どうしたの?もしかして暗殺者とか?」
「おそらくね。2人は殺っておいたけど、人数が多いとめんどうだわ。あら?ジャックさんが持っているのは・・・エクスカリバーかしら?」
「そのようです。先程取り出せてしまいました」
アルマは目の前の男達から目を離して大剣をマジマジと見た。
それを男達が見逃すはずもなく、アルマに一斉に襲い掛かった。
アルマは無駄のない動きで躱し、小さく剣を振りながら後ろに回り込んだ。
一人の男の首から血しぶきが噴き出す。回り込む際にアルマが男の頸動脈を切断していたのだろう。
「あ……、あ……」
大量の血を流す男は首を押え、膝から崩れ落ちた。
銃声が激しく響く。
「くそ、死ね!!」
男二人がアルマに発砲しているのだ。
しかしそれは見えない壁に阻まれ、アルマを撃ち抜く事はなかった。
これと同じ術を先ほどヨウムにかけてもらったので、おそらく同じ術をヨウムが使ったのだろう。
ジャックの後方から蔦の様なものが猛スピードで飛び、二人の男に巻き付き、縛り上げた。
後を振り返ると、シエルが杖を構えており、蔦は杖の先端から伸びていた。
「こうして縛っておけば悪さは出来ないと思うから」
「なるほどな……」
たぶん出会った日に見せてもらった水晶をはめ込んで使う魔術なのかもしれない。
杖の先端の水晶が緑色に輝いている。
「奇妙な技を使いやがって!!」
「放せ!」
狭い車内の中、縛り上げられた男達の野太い怒声が響く。
「アルマ様、この者たちの息の根を止めますか?騒々しいので……」
「……っ!」
ルパートは表情も変えずに生き残った男達の片割れの頭に銃を押し当てた。
威勢が良かった男達がピタリと動きを止める。
人懐っこい様な顔立ちの青年なのに、目の奥は底冷えしている。
フットマンという身分らしいが、恐らく本職は違うんじゃないだろうか?
「ルパート、無駄な殺しはやめて!」
「シエル様……」
ルパートはシエルにたしなめられ、大人しく銃を下ろした。
「そう……だな。その蔦で身動きは取れないみたいだし、殺す必要はないんじゃないか?」
ジャックもシエルにこれ以上の残虐な現場を見せる事に抵抗を感じた。
「まぁ、いいわよ。生かしてあげても。その代わり答えてちょうだい。あなた達はモス卿に雇われたの?」
「誰が魔女なんかに話すか!」
「ふぅ~ん?」
アルマは紫のプラズマが帯電するレイピアをわざと男の顔の傍にある長椅子に押し当てた。
パリパリと音をたて、ベロア素材のシートを焦がしてゆく。
血の匂いに焦げ臭い匂いが混ざり、不快な気分になる。
「や、やめてくれ……」
「皮膚を焼いていくのがいいか、それとも剣で体をちょっとずつ切っていくのがいいか……」
アルマの顔はサディスティックに歪んでいる。
ジャックにも本気でやる気なのか、ただの脅しなのか判別が出来なかった。
「モス卿に頼まれた!!金で雇われたんだ!」
「使い勝手の良さそうな子だわ」
この男達は公の場で同じ事を証言させられるのだろう。
モス卿になんと言われ唆されたのか分からないが、相手が悪すぎた。