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車両間が徐々に離れていき、外の風景がだんだん大きく見えていく。
(この車両、切り離されてる!)
「跳んでください!」
すでに前の車両とはかなり間隔が開いてしまっていた。
(嘘だろ?あの距離届くのか!?)
悩む間にもどんどん車体間の隙間は開く。
すぐに跳ぶしかない。
「ヨウム、よく捕まってろよ!」
「ショウガネーナ」
ジャックは少しだけ後ろに戻り、助走を付けて飛んだ。
右足が半分くらい前の車両の通路に乗せられたが、車体を掴んだ手がずるりとすべり、体制を崩してしまう。
(しまった!)
グラリと落ちそうになるが、誰かにシャツの胸倉を乱暴に捕まれ、車両の中に引っ張られ、ジャックは小さくて柔らかな体の上に倒れ込んだ。
「!!?」
慌てて起き上がると、下敷きになったシエルは顔を苦痛に歪めていた。
頭を強打したらしい。
「大丈夫か?」
「いたた……、私は大丈夫です。ジャックさんも危ない所でしたね!」
(この子が今引っ張ってくれたのか……)
か弱そうな少女が出すにはあまりにも強い力で引かれた気もするのだが、今は深く考えない方がいいだろう。
「いたぞ!シエル様とジャックだ!撃てー!!」
後方の車両からモス卿の怒鳴り声が聞こえる。
「ここに居たら危険だ!」
「はい、祖母が一号車に向かってます!私達もそこに行きましょう」
ルパートが後方の扉を閉めた。
銃弾が扉に弾かれ、騒音をたてる。
ジャックはシエルを引っ張り起こそうと手を差し伸べたが、シエルはその手を取ろうとはしなかった。
「ジャックさん!あなたを信用してもいいですよね?」
シエルはもう近衛師団の裏切りを知っているのだろう。所属するジャックの事も不安に思っているのかもしれない。
でもシエルの顔は、不安そうではなかった。挑むような顔でジャックを見上げていた。
”裏切るな”と顔に書いてある。
「俺は……国王が誰がふさわしいか、選べたわけじゃない。直ぐに答えが出せるほど頭の回転がいいわけじゃないからな。ただ、友人の君が殺されかけてるのを、上司や同僚が罪のない少女に手をかけるのを、黙って観察する事が出来るほど淡泊な人間じゃない。」
シエルは満足そうに頷き、ジャックの手をがしりと握りしめた。
「あなたが、私を誰よりも国王に相応しいと言ったら、ぶん殴ろうかと思いました」
(まじかよ……)
2人が繋いだ手から光が溢れた。
「!」
「凄い光!」
薄暗い通路が炎天下の真昼の様にまぶしい光が満ちる。
周囲が真っ白に染まり、何も見えない。
「どうなってる?」
「分かりません……」
戸惑っていると、次第に光が収まり、光源から一振りの剣が現れた。
「エクスカリバー……」
ジャックが柄を握ると、光が消えた。
(エクスカリバーを出すことは俺には不可能なんじゃないかと思ってたのに……)
少し感慨深い気持ちになって、美しいレリーフが施された鞘を手で撫でた。
「これでジャックさんはエクスカリバーの正式な所持者と言っていいですね」
「そうなのかな」
嬉しそうなシエルを見ていると、ジャックも何だか嬉しいような気持ちになってくる。
ジャックは不思議だった。
何故エクスカリバーはいつもシエルからの接触があった時にだけ反応を返すのかと。
昨日ローズウォール市長宅でも、エクスカリバーの形に形成されはしなかったものの、シエルから触られた時だけ実体化していたのだ。
自分だけの剣という感覚ではなく、シエルと共有してるような気がするのだった。
ジャックはシエルが客室に入って行ったのを見て、考え込むのをやめ、慌てて客室に入った。