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4-2

 

「オリバー、花束有難う。これは逆さにして窓に吊るすわね」


「は!? 何言ってんだ。俺を呪うな。ちゃんと花瓶に飾れよ!」


「花を吊るしただけで呪いなんかかけられないわよ! これはドライフラワーにするの!」


「ドライフラワー?」


「花を乾燥させて長期保存する物らしいぞ。王都だとフラワーアレンジメントが今流行ってて、ドライフラワーの研究もかなりされている」


「ジャックさん詳しいんですね」


「母親がやってたから知ってたんだ」


 自分が趣味でやってたドライフラワー作りが王都でも流行っている事を知り、シエルはちょっと嬉しくなる。


「そろそろ蒸気機関車に乗り込もう」


「そうですね。オリバーまたね!」


「シエル、元気でな」


 不機嫌顔のオリバーに手を振り、シエルとジャックは改札を抜けた。


「ジャックさんのお母様、ドライフラワー作りをされてるんですね」


「近いうちに俺の家に招待するよ。母は変な人だけど、シエルみたいな子だったら喜ぶんじゃないか?」


「そうなんですね。王都に行っても自由が許されるなら会ってみたいです」


「その言い方だと、自由が許されなくなりそうな理由があるみたいだけど」


 ジャックの訝し気な表情を見て、含みを持たせた言葉に後悔した。


「引っ越し先で片づけが終わらないと、自由に遊び歩く事も出来ないかなって思っただけです」


「まぁ、そうなるか」


 適当に誤魔化されてくれた事にホッとする。



 蒸気機関車の最後尾まで歩いて行くのはわりと時間がかかった。

 シエル達が乗る車両は、外装の4分の3位が武骨な鉄製のフレームで囲われている。

 他の車両とは随分と見た目が違う事にシエルは首を傾げた。


(頑丈そうだわ……)


 入り口の前には赤い絨毯が敷かれ、昨日市長の家で会った西ヘルジア中央鉄道会社の役員ケインズが立っていた。


「ようこそ!我が社特製の車両へ!」


 被っていたシルクハットを取り、自らの胸に当てる仕草は芝居がかっていて、オシャレだ。

 王都の大会社で役員にまで上り詰める人間はササっとこのくらいの動きが出来なければならないのかもしれない。


「よ、よろしくお願いします。わざわざ出迎えていただき、すいません……」


 ケインズに慌てるシエルを残し、ジャックは軽く挨拶し、さっさと車両に入ってしまう。


「王都までという短い間ではありますが、快適な旅を提供いたしますよ!」


「有難うございます。あの、この赤い絨毯の意味って、何かおめでたい事でもあるんですか?」


「あなたを王都にお連れする事が何よりの喜びなのです!!」


「大袈裟すぎます……」


「大袈裟ではありませんよ!」



 何と返していいのか分からず、シエルは曖昧に返事をして車両に逃げ込んだ。



 車両の中は、豪華な作りになっていた。

 寄木細工の床に、天井に吊るされたシーリングファン、シックな刺繍が入ったカーテン、入り口の反対側にはバーカウンターまで備えられている。



 シエルはローズウォールに連れて来られた時に蒸気機関車に乗った事はあったが、それ以降はずっと遠出する事がなかった。

 遠い記憶が正しければ蒸気機関車の内装は乗客が座るためのベンチがずらりと整列しているだけだった気がするのに、今乗っている車両はだいぶ違う。


「蒸気機関車って思ったよりも過ごしやすそう……」


「ここまで豪華な作りの車両を見たのは初めてだな」


「そうなんですね」


 踏むと足が埋まるくらい毛足の長い絨毯を踏み、ジャックが座るカウチの隣に腰かけた。


「シエル、オソイゾ!」


 よく見ると、ジャックの肩にはインコの使い魔ヨウムがとまっていた。

 地味すぎて発見が遅れたが、先に車両に乗っていたのだろう。


「私だって感傷に浸りたくなる時くらいあるのよ」


「オマエマダ16サイダロ!ケケケケケ!!」


 ヨウムの不気味な笑い声を間近で聞いたジャックは耳をおさえた。

 この笑い声を夜中に聞いたらかなり怖いのは、一緒に住んでいる者にしか分からないだろう。


(あれ?おばあちゃんどこだろ?)


 先に乗っていたはずのアルマがいないので、シエルが心配になっていると、バーカウンターの隣の扉が開き、本人が出てきた。


「おばあちゃん、迷子になってないか心配してたのよ」


「まだそこまでボケてないわ」


 深い緑の肌を極力出さないようなデザインのドレスを着たアルマは、20歳以下にしか見えない外見と大人びた服装のアンバランスさで今日もミステリアスな魅力を放っていた。


 アルマは2本の杖を持ち、1本をシエルに渡してくれた。

 シエルがいつも使っている愛用の杖だった。


「魔術師たる者、杖を忘れてはだめよ」


「持って来てくれたのね、有難う!」


 ポシェットの中に水晶を入れてきてはいたが、そういえば杖を持って来ていなかった。

 危ない所だった。


 アルマがシエル達の前の1人用ソファに腰を下ろすと、見計らったかの様にバーテンダーが近寄ってきて、飲み物の注文を取った。

 シエルとアルマは紅茶でジャックはコーヒーだ。

 シエルはついでに何かつまめる物を頼もうかと思ったが、飲み物の注文を取った後にバーテンダーがすぐに踵を返したので、言いそびれてしまった。

 


「アルマさんが出て来た扉の向こうはどうなってるんですか?」


「向こうの部屋は王室師団の方々と魔術師協会の魔術師達が控えているわよ。彼らと打ち合わせをしてきたの」


「あ、じゃあ俺はそっちに行った方が良さそうですね」


 ジャックが慌てて立ち上がる。

 もしかすると昨日市長の家にいた上司の事が気にかかるのかもしれない。


「ジャックさんは休暇中と聞いたけれど、上司が近くにいるなら自由には出来ないのでしょうね」


「そうですね。軍は縦社会なので……。あ、そうだ! 向うに行く前にアルマさんに聞きたい事があります」


「何かしら?」






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