3-8
モルダー市長とケインズの期待に輝かせる顔とは逆に、部下のトラブルに頭を痛めるモス卿は苦々しい表情だ。
「おばあちゃん、大丈夫なの? 昨夜鞘からあの剣を引き抜く時もジャックさんはものすごく苦労していたのよ」
「本当にエクスカリバーにマスターと認められているなら、出せるはずよ」
「私が心配しているのはそこじゃなくて……」
アルマは孫がジャックを心配する様子に小首をかしげる。
(随分仲良くなったものね。)
「どうやったら出るのか分からないですが、試してみます」
ジャックは、右腕を前方に突き出すようにし、袖をまくった。
「昨夜、エクスカリバーは今俺の右腕に巻き付いている腕輪に変化しました」
腕に何周か巻き付いた艶やかな金属の腕輪の全てが現れる。
周囲に集まった者達は食い入るようにジャックの右腕を注視する。
長年生きて、珍しい事象を多く見てきたアルマですら、少々緊張してきた。
ジャックが手の平を握ると、浮き出た筋が動き、力を込めているのが見てとれる。
「力を込めるのではなく、イメージするの。あなたが思う強さを……。守りたい物を……」
「強さ……、守りたい物……」
ジャックの手の平から瞬くような僅かな光がチラつく。
ヒュっと誰かが息を飲む音が聞こえた。
「お、俺の手から光が……」
「おばあちゃん、あの光はまるで魔術みたいに見える……」
「確かに……」
力の源となるのは魔術師と同じなのだろうか?
ジャックの手から溢れる光は徐々に大きくなり、白い光源はリンゴ程の大きさになっていた。
しかし光が大きくなるにつれ、ジャックの目は眠そうにゆっくりと瞬きした。
魔力を使い過ぎた時によくなる症状だが、魔術を使いなれず、効率の悪い魔力の使い方をした場合も同じく眠くなる。
「ジャックさん、集中しましょう!」
シエルがジャックの背に手を置くと、ジャックの手の光は2回りほど大きくなり、何かを形づくり始める。
(ん……?)
一度大きく光が瞬いた後、ジャックの手の平からドロリとしたものが垂れた。
神々しく金色に輝くそれは、剣の形をしていない。
溶けた金属のように液状になっている。
「溶けてますねぇ……」
ケインズの白けたような声がサロンに虚しく響いた。