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サロンの入り口に目を向けると、ふっくらとした体形のパーラーメイドがちょうど扉から入って来たところだった。
この家の人間は家主に奥方、ご子息、メイドにいたるまでルーズな体系をしている。
パーラーメイドは何事かをモルダー市長に耳打ちした。
「アルマ様、シエル様とジャックさんが戻られたようです。お二人をお連れしますかな?」
「ええ、そうしてちょうだい」
2人共ここにいた方が話が早いだろうとモルダー市長に承諾した。
「ただいま戻りました」
孫のシエルが赤い小花模様のドレスの裾をつまみ上げ、片足を後ろに引いた。
サロンに集まった面々を見、キョトンとした顔をしている。
「お帰りなさい、シエル、ジャックさん」
「だいぶゆっくりと歩きまわってしまったようですね。遅くなりました。こちらに集まった方々は?って、え!?モス卿!?」
「ジャック!?」
「何故ここに……?」
「私は警護の打ち合わせに来た。君こそ何故ローズウォールいるのだ?」
「自分は個人的にアルマさんに会いに来たんです。有休をいただき有難うございます」
「モス卿、エクスカリバーの次のマスターはあなたの部下よ」
アルマは2人のやり取りに割って入る。
こういう事は早いうちに教えてやったほうがいいだろう。
「なんと……、それは本当か!?ジャック」
「自分でも未だに信じられませんが、おそらくそうです……」
「何て事を……」
モス卿は頭を抱え、よろめいた。
「まさか、お前がアルマ様のお宅で窃盗を働いたなんて……」
「俺が窃盗!?」
「待ってください!」
ジャックの隣でハラハ ラと成り行きを見守っていたシエルが声を上げる。
「初めまして。私はシエル・ローサーと申します。昨夜ジャックさんがエクスカリバーを入手する際に一緒に立ち会っていました!疑うなら私も疑うべきでは?」
「あなたがシエル様・・・・。お初にお目にかかります。私はモス伯爵領を治めさせていただいている、エイドリアン・ハウエルと申します」
アルマはモス卿の表情に複雑な感情が浮かぶのを見逃さなかった。でも今はエクスカリバーの件の話が優先だ。
「モス卿、ジャックさんが窃盗を働いたと決めつけるのも早計だわ。我々があの剣を封印していたのは事実だけれど、エクスカリバーには意志がある。ジャックさんをマスターに選んだのはあの剣自体だとすると、はたしてそれは窃盗と言えるのかどうか……。少なくともわたくしはそのようには考えてはいない。ジャックさん、エクスカリバーを出してもらっていいかしら?ここにいる皆さんにお見せして。あなたの呼びかけに答えるなら、エクスカリバーはやはりあなたが所持するべき物だと思うわ」
サロンに居た人間達が困惑するジャックを取り囲む様に集まった。
「私は長い事ローズウォールの地の市長をしているのですが、エクスカリバーの現物を見るのは初めてですな……」
「私も初めてです。ローズウォール駅からこちらに来る際にメインストリートで古代王の像がもつエクスカリバーを見ましたが、現物は比較にならないほど素晴らしいものなのでしょうね」