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16-1

「シエル様、お目にかかれて光栄でございます」


 足元に跪くのはシェラルトーハの高官だ。シエルは彼に出来るだけ優雅に微笑む。

 その表情を見てなのか、男はシエルの顔を恍惚とした危ない表情で見上げ、右手に思いっきり口付けをしてきた。


(うわ……!)


 笑顔が引きつりそうになるのを何とかこらえる。


「ご多忙のところ、我が国の建国祭にお越し下さり、感謝します。少しでもお楽しみくださいませ」


「温かなお心遣い感謝いたします!」


 男から香る香水の臭いがきつくて、先程からシエルはクラクラしていた。

 この男だけでなく、謁見しにくる者のほとんどがそうなのだ。


(早く終わりたい……拷問だよ……)


 シエルの願いが通じたのか、男はそれ以上長々と喋ることも無く、完璧な作法で謁見室を去って行ってくれた。


「よ、漸く終わった……」


 力が抜け、シエルはガクリと椅子に座り込む。


「シエル様! ご苦労様です! 素晴らしい対応でした!」


 満足気な笑みを浮かべてシエルに向かって来るハドリーを、シエルはジト目で睨む。


「1日もたないかもしれません」


 今日は朝からパレードに参加し、建国祭の開催の挨拶をし、昼前から各国要人の謁見対応をしていた。まだ昼なのに、作り笑いをしすぎたシエルの頬は痙攣をおこしそうな違和感がある。ハドリーになんとかしてとも言えないため、仕方なしに自分の両手で頬を揉み解す。


「夜会が終わるまでの辛抱ですので……」


「長いですね……」


 夜会の開始が18時だと考えると、終わるのは21時を過ぎそうだ。気が遠くなってきて、シエルは頭を抑える。


「そうだ! シエル様。お昼ご飯を召し上がっていただいた後に陛下の元にお連れする事も出来ますが、どうします?」


「本当ですか!? あ、会わせてください!」


 ハドリーからの申し出に驚き、シエルは椅子から立ち上がった。

 しかし、もっと事前に伝えてほしい。まさか今日会えるとは思ってもみなかったため、心臓がバクバクと五月蠅く鳴る。


「昨日陛下にお伺いしたところ、あの方もシエル様にお会いしたいとおっしゃっておりました。とは言っても、容体は良くありませので、長く会わせる事は出来ないのですが」


「長くなくても充分です……。有難うございます。陛下が私に何を伝えるつもりなのか、聞いてますか?」


「いえ、そこは聞いておりません。シエル様が直接会って確かめられるといいでしょう」


「そうします」


 現国王がシエルに会いたいと思ってくれているのは、少し意外だった。

 自分を国王にと指名してくれたのは陛下だったのだが、自身の息子を差し置いてまでシエルを後継者にすると決めた心情はどのようなものなのだろうか?

 もしかしたら厳しい事を言われてしまうかもしれないと思うと、怖くなる。

 だが、きっとこれが彼に会える最後のチャンスだと思えば、きちんと話すべきなのだ。


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