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15-8

「パリエロ師団長! チャーマンさん!」


 ジャックは軍属の2人の無事な姿にホッとする。


「ジャック、無事だったんだな!」「一時は溺れ死ぬかと思いました……」


 2人はそれぞれの反応でジャックを振り返り、笑顔を見せてくれた。


「一体どうやってフンババの腹から抜ける方法を探し出せたんですか?」


「ああ、あそこは腹の中だったのか……。チャーマンと2人で歩いていたら、1本だけ紅葉している木があったから、切り倒してみた。そうしたら風景が変わって、目の前にこいつが現れたんだ」


 今、季節は初夏だから、確かに紅葉している木はおかしいのかもしれない。しかし普通の人間は切り倒してみようなんて思わないだろうから、パリエロの判断力はやはり凄いのかもしれない。


「ガルルルル……」


 フンババは3人の前で威嚇する様に左右にゆっくりと歩く。


(こいつ、喋れないのか? もしかして神獣との判別の仕方って、喋れる程の知能があるかどうか?)


 エクスカリバーに宿るフェンリルに話しかけたつもりだったが、返事はない。

 かなり気まぐれな性格なようだ。


 溜息を尽きたいような気持になるが、姿すら見えない者には感情をぶつけようもない。


「ところでジャック、7人いた魔術師達はどうした?」


 パリエロの質問にジャックは苦い気分になりながら答える。


「フンババの周囲を回る光……。あの中に一人づつ閉じ込められてます」


 目の前で攫われるのを見ている事しか出来なかった自分に悔しさを感じる。

 フェンリルが言っていたように、魔術師達はちゃんと生きているのだろうか?


「まじか……。魔術師達の魔力を吸って強化されてる可能性があるな」


「強化されてるんですか……」


 眼をむき、絶句するチャーマンとは違い、パリエロは多くの死線を潜ってきた猛者だけあって、冷静に分析をしているようだ。


「お前のフェンリルは、魔術師達の救出法について何か知っていたか?」


 『お前のフェンリル』という言い方にやや引っかかるものの、ジャックは先ほど神獣が言っていた事を伝える。

「フンババを倒すしかないと言っていました」


「なるほどな……。よし! 気合を入れ直すぞ!」


「はい!」「了解いたしました!」


 立場、所属もバラバラの3人だが、魔術師達を救助するという目的の為に、気持ちを1つにする。


 3人の声に反応するかの様に、フンババが一番体格が貧弱なチャーマンに飛び掛かる。


「う、うわ! 舐めやがって!!」


「チャーマンさん!」


 チャーマンは地面を転がる様にしてフンババの突進をかわす。流石軍属だけあって、素早い身のこなしで、あまり危なげではない。

 彼はフンババの怒涛の攻撃を躱しつつ、ゴツイ銃を撃つ。


(チャーマンさんの銃、フンババの胴にめり込んだりもしているな……。ということは、あれは魔導銃?)


 チャーマンが所属するのは陸軍の中でも外来生物対策部という専門家集団だ。

 容姿は情けなく見えても、実力はかなりのもののようだ。


 しかしチャーマンの銃弾のほとんどは7つの光が繋がって出来たシールドに弾かれている。あれをどうにかしないと、フンババを倒す事は出来ないのかもしれない。


「チャーマン! やみくもに銃弾を撃ち込むだけだと、すぐに魔力切れになる!」


「ぐぅ! もっと魔力があれば!」


 チャーマンは悔しそうにしながらも、フンババの攻撃から回避を続ける。


「副師団長、あのシールドどうしますか?」


「俺がおとりになる。お前が背後からシールドに覆われていない箇所を狙え!」


「了解です!」


 パリエロが大剣でフンババの背後から切りかかる。

 フンババの前方に張られていたシールドが後方に回り、パリエロの剣を弾く。素早い身のこなしでフンババはパリエロを向き、その肩に噛みつこうとする。

 パリエロはその口の中に大剣をねじ込もうとするが、それもシールドに阻まれた。


 肩で息をするチャーマンに代わり、ジャックは背後に回り、1発、2発と真空波で巨体を切り刻もうとする。

 それらは命中するかに思えたが、フンババの7つの光のうち4つが分離し、背後で四角形のシールドを張ったため、真空波はフンババに届かない。


「クソ!」


――繰り返し撃ち込め。シールドは1発防ぐ毎に弱体し、再強化していいる。閉じ込められている魔術師達の魔力が減るまで続けるがいい。


 頭に直接語り掛けるフェンリルの声にハッとする。


「シールドに効いているのか!」


――それに7つで張っていたシールドが2分割され、それぞれの防御力が弱まっている。


(3人で一斉に攻撃したら、シールドが張られない箇所が出来るかもしれない!)


 ジャックは、後方で銃に弾を詰め直しているチャーマンを振り向いた。


「チャーマンさん! 銃でフンババを攻撃してください!」


「え!?」


「多人数で同時に攻撃する事で、隙が生まれます! お願いします!」


「了解です!」


 再び銃弾を撃ち込むチャーマンがいる方向に、パリエロの攻撃を防ぐために張っていたシールドが移動する。


(いい流れだ!)


 チャーマンに再び狙いを定め、襲い掛かるフンババの、がら空きになった側面にパリエロの剣が突き刺さる。


「ギィニァァアアアア!!」


 フンババが地面に倒れる。


「死にました……?」「油断するなよ」


 3人で恐る恐るフンババに近寄る。

 フンババの上で光る7つの光のうち2つが消失し、巨体の傍に2人の人影が現れた。


「あれは!?」


 ローブ姿の女性と初老の男性。魔術師協会の魔術師達だ。

 2人は不思議そうな表情で身を起こしている。


「一体なにが起こったのか……」「ここは、さっきの場所とは違いますね」


「身体は何ともないですか? あなた達はフンババの力に捕らわれてたんです」


 ジャックの説明に2人とも驚きの表情を浮かべる。


「この調子で、残り5人の魔術師を救助するぞ!」


 パリエロの喝に、ジャックとチャーマンは頷いた。


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